悪役令嬢にざまぁされたくないので、変装道具を買いましょう
第24話 悪役令嬢にざまぁされたくないので、変装道具を買いましょう①
眼鏡が私を見ている。いや、実際は見ていないけど。
眼鏡が自己主張してくるのだ。ここにいるよ! レフィトにかけて欲しいんでしょ? お願いしちゃいなよ! って。実際は言うわけないけど。
あぁ、意識が眼鏡に吸い込まれていく。思考もめちゃくちゃだ。
こうなったら、視界から完璧に眼鏡を追い出して、気持ちを切り替えるしかない。
何だっけ、何かで六秒数えるといいとかあったよね? 何の時かは忘れたけど。とりあえず、目を閉じて、心のなかで六秒数えて……。
いーち、にー、さーん…………。よしっ!!
「────っっ!!??」
目を開けたら、そこは天国だった。
尊い。尊すぎる。今、心臓が止まっても、悔いはない。
ありがとう、神様。転生万歳! 私、この瞬間のために転生したんだわ。
「カミレ! カミレッッ!!」
必死に叫ぶ声がする。レフィトは何でそんなに焦っているんだろう。ちょっと声がうるさい。こんなにいい気分なのに……。
「まだまだ眼鏡にも種類があるんでしょ!? それを見なくてもいいの!!??」
「だめーーーー!!!!」
悔い、あったわ。
フレームの形や色を含めて、眼鏡にはまだまだ種類がある。それをかけたレフィトが見たい。見ないで死ぬなんて、ありえない。死んでも死にきれない。
「良かったぁ」
「………………えっ?」
これは、どういう状況? 何で、レフィトに抱えられて──うぐぅっ!!
「カミレッ! 眼鏡!!」
「ハッ! そう、眼鏡だよ。色々な眼鏡姿のレフィトを見ないと……」
「うん。でもね、見る度に息が止まって、意識を飛ばすようじゃ……。カミレの前で、もう眼鏡をかけられないよぉ」
何ですと? もうレフィトは眼鏡をかけられない?
「それだけは、嫌っ!!」
「嫌と言われても……。息止まって、倒れてたしさぁ……」
「もう倒れなっ……うぐっ………………倒れない……から…………」
「今、一瞬だけど、息止まってたよねぇ!?」
「大丈夫。気合いで何とかするから!!!!」
「そんなこと言われても……。カガチも何か言ってよ」
「痴情のもつれに巻き込むな」
「「もつれてないから!」」
思わずといった形で、レフィトと声が重なった。
そんな私たちを、カガチさんは安定の何を考えているのか分からない表情で見ている。
痴情のもつれって……。確か、異性関係で事態が上手くいかなくなって、どうにもならなくなることを言うんだよね?
今は、そんな話してないじゃん。眼鏡についての大事な話をしてるんだから。色恋と一緒にしないで欲しい。
私のこれから先の人生を左右するような、大事な話なんだから。
こんなに素晴らしいレフィトの眼鏡姿を知ってしまったら、もう以前のようには戻れない。定期的に供給してもらわないと……。
供給がなければ、飢える。確実に、眼鏡に飢える。
もう、デフュームの眼鏡で満足できる自信がない。新しい扉は開かれてしまったのだ。
どうすればいい? どうすれば、レフィトの気持ちを変えられる? 安定した眼鏡姿を摂取できる?
「カガチ。悪いけど、しゃべってくれる? このままじゃ、カミレが死ぬかもしれないから……」
いや、さすがに死なんでしょ。尊死って実際じゃ起こらないし。
むしろ、眼鏡の供給がストップしたら、私の心が死ぬ。
「カガチさん。いくら尊くても、死ぬことはないと思いますよね!」
何としても、カガチさんを私の味方にしなくては……。
私とレフィト、双方からの言葉に、カガチは溜め息をついた。そして、纏っていた雰囲気がガラリと変わる。
「仲が良いのは十二分に分かったから、イチャイチャなら他所でやって欲しいんたけど! あー、
……え? 誰? って、最初に会った時のカガチさんだよね? 切り替え、どうなってるの? どこかにスイッチでもあるとか?
……というか、何でいきなり性癖を暴露してるの? そんな話じゃなかったよね? 眼鏡についての話だよね?
「カミレを一緒に止めてくれたら、性格がきつい令嬢を紹介するよぉ?」
「えっ? 買収とかズルい! 私だって……令嬢は無理だけど、平民の友だちなら紹介できる!!」
確か今フリーだったはず。この前、彼氏欲しいって言ってたし。冗談で、貴族の令息を紹介して欲しいって言われたこともあった。
性格はキツくないけど、ハッキリと物事を言うし、面倒見の良いお姉さんタイプだ。好みにも合ってるはず。
何より、服飾に興味があって、おしゃれ大好きだから、付き合う付き合わない以前に、喜んでくれると思う。
「……別の形の眼鏡もあるから、それをかけて倒れなければ、カミレちゃんの勝ちでいいんじゃね? 勝った方は紹介よろしく」
「カミレちゃんって呼ばないでくれるぅ? ハオトレ嬢って呼びなよぉ」
「カミレちゃんって名前しか知らなかったんだから仕方がないだろ。心が狭いんだよ」
「ハオトレ嬢……だよね? ハオトレ嬢って呼ばせてもらえることを有り難く思って欲しいくらいなんだけどぉ」
いや、私の名前に有り難みなんかないから。
それに、ハオトレ嬢って呼ばれ慣れてないから、カミレで良いんだけど……。
「分かったよ。お嬢さんって呼ぶって。面倒なやつだな。ほら、さっさと次の眼鏡かけなって。俺だって、暇じゃないんだからな」
そう言われて、レフィトは今かけていた眼鏡を外した。
今までかけていたのは、ラウンド型の丸眼鏡。薄茶色のフレームが可愛らしい雰囲気でとても似合っていた。めちゃくちゃ可愛かった。
レフィトのわんこ感と眼鏡がベストマッチだった。これ以上、似合う眼鏡があるのだろうか。そう思ってしまう程に。
その眼鏡が外されてしまうことが淋しい。網膜には焼き付けたけれど、まだ足りない。
何で意識なんか飛ばしてしまったんだろう。その間も見続けるべきだったのだ。愚かな自分に腹が立つ。
名残惜しくて、外された眼鏡を視線で追った。
レフィトは次の眼鏡へと手をかける。
それは、スクエア型の四角っぽいフレームの眼鏡だ。細い銀色のフレームが無機質で、どこか冷たい印象を受ける。先程までの眼鏡とは真逆の雰囲気を持っている。
早くも期待で胸が高鳴った。
今度こそ、一分一秒も見逃さない。そんな覚悟で見守った。
ラウンド型の眼鏡は、ここで勝てばまたかけてくれるんだから、勝てばいい。勝てばいいのだよ。
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