前のエピソード――十九　次期主幹

三章　報復

　十一月二十一日、月曜。

「成田主幹の後任として着任した宮塚登だ。よろしくお願いする。

　挨拶は以上だ。平常の勤務に就いてくれ」

　宮塚主幹は執務机の前に立ってそう言い着席した。

　なんだコイツ、歳は三十前後だろう。部下を見下したこの態度は何だ？東大出だからと図に乗ってるのか？そうじゃない。特別な支配意識がこの若造を支えてる。何がこの若造をそうさせるのか？

　与田は机の書類を片づけながら、宮塚主幹の行動を観察した。

　主幹は多数の書類に目を通して捺印し、作業が終わると内線通話で話し、執務机を立って部屋を出ていった。

　与田は、後藤総理殺害の報復を話す、主幹の唇の動きを読んでいた。調べると主幹の内線通話先は木村巧内閣情報官の執務室だった。

　もっと詳しく知りたい。電話とスマホのハッキングはばれてしまう。盗聴器をしかけるなら、机のスタンドなどの裏にある滑り止めのゴム足に特殊盗聴器を仕込んで貼りつけるのが有効だ。そういうコンパクトな盗聴器を作れるだろうか？

　これまで盗聴機器は、取引メーカーに成田主幹が直に極秘製作させた。俺が新たに製作依頼すれば宮塚主幹へ知れる。主幹に気づかれずに盗聴器を作るにはどうしたらいいか？

　与田は書類に目を通しながらしばらく考えた。

　佐枝と芳川は、下請けがしかけた盗聴盗撮機器を見つけた。内調はふたりのスマホとパソコンをハッキングしたが、セキュリティーが強固で何もできなかった。ふたりには情報機器に精通したエンジニアがついてる。主幹に気づかれずに盗聴器を作るなら、あのふたりに頼むしかない。ふたりは内調をどう思っているだろう？ここで考えるより、直に会うのがいちばんだ・・・。

　与田は自身の休日の予定を確認した。