四 始末方法
芳川が作業を終え、ソファーに座って佐枝のノートパソコンを見た。住所から割りだした標的は大物与党議員だ。一般人が近づける相手ではない。いったいどうやって標的に近づいて始末しろと言うのか?
芳川がそう思っているとノートパソコンにメールが届いた。送信者は匿名。あの下請けだ。メールタイトルは『始末日時と方法』とある。今読んでいるこの『標的情報送付、一年以内に指示住所の主を始末してほしい』のメールと条件が違っている。
「メールを見るよ」
佐枝はメールを開き、ふたりはメールを読んだ。
メールには始末方法と、始末に使う装置の設計図が四種類あった。そして、
『依頼を承諾するなら、鷹野良平が見つけた貴殿の個人的標的の残り三名を、指定の発射装置で始末しろ。始末実行日は後日連絡する』
とある。佐枝の標的三名はカーマニアだ。
発射装置の設計図の一つは連射型高圧プレチャージ式発射装置で、弾丸は六ミリ径弱、材質は特殊コラーゲン繊維とカルシウムの人工骨だ。標的の頭部を撃てとある。
すでに、前橋の標的四人のうち一人を始末している。おそらく、下請けは鷹野良平の関係筋から、私の個人的標的を知ったのだろう。依頼主の大物与党議員は右翼に顔が利くらしい。マダムに連絡して、依頼主が誰から情報を得たか、その筋から調べてもらおう・・・。
さらに読むと、
『四種の発射装置の部品を個々に送る。最初に三名を始末する装置を組み立てて始末実行日を待て。指定外の方法で三名を始末した場合、依頼を断ったと見なし、身の安全は保障しない』
とある。やはり、依頼を断れば私たちを口封じする気だ。発射装置の部品を一箇所で作ると足がつくから、個々の部品を異なる箇所で作らせて送るのだろう・・・。
そして、
『今回指定の標的は、他の三種の発射装置を使う』
とある。
他の発射装置の一つはガスカートリッジ式発射装置が仕込まれたカメラの望遠レンズだ。望遠レンズは三脚座の取り付け部が太く長く、ここに予備の高圧ガスカートリッジが仕込まれている。望遠レンズは、レンズ口径自体より円筒部径が大きく、レンズと外側円筒部の間に五ミリに満たないネジ留めと思える穴が六ヶ所ある。ここに特殊のガスカートリッジを備えた六つの発射装置が組み込まれている。発射口はレンズフードに隠れ、レンズ正面からは見えない。この望遠レンズをアタッチメントを介してカメラに装着してシャッターを切ると、発射装置が計六発の弾丸を発射する。
残る二つの発射装置は、ボールペン型とペンライト型のガスカートリッジ式発射装置だ。これらは単発しか発射できない。さらに、
『三種の発射装置に使う弾丸は、微細な穴があいた三ミリ径の防錆処理された鋼鉄球だ。鋼鉄球の微細な穴にフグ毒テトロドトキシンを浸みこませて標的に発射するから、九月中に指定のフグを釣って肝臓に弾丸を浸けて保管し、標的始末の連絡を待て』
とある。
妙だ?下請けは、弾丸発射装置の部品をそれぞれ異なる所で作らせて足がつかないようにしている、専門の始末屋だ。なぜ、私たちに仕事を依頼するのだろう?
佐枝は芳川の耳元に口を寄せた。
「これはワナだ。下請けは専門の始末屋だ。私たちを暗殺の犯人にする気だ」
「メールの送り主の始末屋を探れないか?」
芳川は指示されたフグについてのメールを読んでるが、フグをどこで釣るかなど考えてはいない。
「無理だ。これまでの仕事が公になる。ワナを承知で依頼どおりに進めよう」
プロバイダは捜査令状がない限り、メール送信者の開示に応じない。メールを公にして送り主を探れば、私たちの仕事が明らかになってしまう・・・。
佐枝は亜紀のスマホに、依頼主が誰から佐枝たちの情報を得たか、信頼できる筋から調べてほしい、とメールした。すでに、亜紀は情報漏洩者を調べていて、
「情報漏洩者は与党長野県支部前支部長の鐘尾盛輝よ。近々、全ての役目を降りてもらう」
と返信してきた。佐枝と芳川は亜紀の意向を理解した。
翌日、八月九日、火曜。
「木村佐枝さんに宅配便でーす」
この日、次々に『精密機械部品』『事務機器交換部品』など様々な名目の宅配便が届いた。発送元は全て偽名だ。
佐枝と芳川はそれらを組み立て、人工骨弾丸を発射する連射型人工骨弾丸発射装置二丁を完成した。発射装置には、使用中でも高圧プレチャージガスボンベにガス供給できる、高圧ガスチューブがついていた。
十月一日土曜午前六時。始末指示メールが届いた。
『十月八日土曜午前九時。東京外環自動車道内回線、幸魂大橋上、和光北JCと戸田東JC間を走り、あおり運転する一車両に搭乗している標的二名を始末しろ。
始末中は道路の監視カメラは停止する。
その後の指示は、そちらに送るスマホの指示に従え』
とある。
その日午前。
「木村佐枝さんに宅配便でーす」
スマホが宅配便で届いた。
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