　九月二十二日、水曜、夜。

　四ッ谷署の神田刑事と渋谷警部はまだ刑事課にいた。

「神田の話が気になって北海道警と長野県警と群馬県警に連絡した。

　どこも、神田が思っているような事を考えていなかった。

　改めて事件を検討すると言ったが、何もせずに幕引きだろう」

「問い合わせて上と揉めないですか？」

「揉めるのは覚悟してる。もしもの場合は、婦女暴行事件の加害者が都内にいれば、抹殺を事前に防げる、と説明するさ。残りの婦女暴行加害者三人は、

　前橋の上毛電気（株）の木原良司、

　高崎の両毛美装（株）の高木順一と三好良樹だ」

「都内に次の標的はいないんですか？」

「いない。これから話す事はオフレコだぞ。いいな！」

「わかりました。他言しません」

「婦女暴行事件の被害者は精神病棟に入院して再起不能だ。

　後輩の女をそこまでにした奴らが殺されたら、お前はどうする？」

　渋谷警部は神田刑事を睨んだ。神田刑事は渋谷警部の目つきに臆せずに言った。

「警察官として殺人犯を逮捕したい」

「建前なんか聞きたくない！本音は何だ？」

「本音は・・・」

「俺は、今朝、お前からこの件を聞かされてから、言い様のない怒りが湧いた。

　加害者の人権保護を謳い、被害者を見捨てたまま犯罪者を野放しにしてる現在の法律に対する怒りだ！立法と司法と行政に対する怒りだ！

　お前の妹は被害者と同じ歳だろう。妹が強姦されたら、加害者をどうする？」

「係長は婦女暴行の加害者が殺されるのを望んでるんですか？」

　神田刑事の言葉に、渋谷警部の頬にふっと笑みが浮んだ。　

「婦女暴行の加害者は罰を受ければ罪が消えたように思ってるが、被害者にはいつまでも強姦被害の記憶が残る。被害者が再起不能なのに、加害者が社会でのうのうと生きてれば、なおさらだ。加害者がこの世から消えれば、少しは被害者の心が晴れるかも知れない」

「俺の妹が強姦されたら、俺は絶対に加害者を許さない！」

　神田刑事は渋谷警部の気持ちが手に取るようにわかった。

「我々が動くのは、我々の管轄内で残り三人の加害者が死亡したその時だ！」

「わかりました！」

　係長は婦女暴行の加害者残り三人を、殺しのプロに始末させる気だ！

　神田刑事は、警察官の立場をどうするか、と考える一方、気持ちがすっきりした自身を感じ、胸のつかえが下りた気がした。

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