第10話

そこで見つけたみすぼらしいダンボール。


木が腐り、ところどころ板が欠けたベンチを雨避けにしていたそれは、雨水を吸って今にもぐしゃりと崩れそうになっている。


僕は一歩、歩みを寄せる。ダンボールの中を覗けば、寒さに蹲る猫が、今まさに小さな灯を絶やそうとしているところだった。



『――…、』



僕はまた一歩、潰れそうなダンボールへ歩みを寄せる。


そして恐る恐る持っていた傘を傾けた。無意識だった。


息を呑んだ僕は、気づけば傘の柄を握り締めていた。なぜか痛いくらいに握り締めて、猫を見つめて、体温を奪う雨を遮っていた。


可哀想だと思ったわけじゃない。生きる術を持たないモノは静かに死を待つしかない。自然の摂理だと思う。なのに傘を傾けてしまった僕は、腕を引っ込めるタイミングを失った。ただ、それだけ。


それから開いている動物病院をスマホで探し、雨と泥で汚れたスーツもそのままに猫を運んだ。酷い栄養失調と長時間雨に打たれていたせいで獣医の顔色は晴れなかったが、それでも適切な治療の末に猫はそっと目を開けて小さく鳴いた。


きっと自分が捨てられていたことなど当に理解してただろうに、猫は無垢な瞳に僕を映して『にゃあ…』と鳴いたのだ。

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