第7話  【カピバラ】がペットになった


「……で、お前は一体何者なんだ?」


 恐ろしいカラスの群れを追い払ってからしばらく。

 一旦落ち着きを取り戻した俺は、ソラと一緒に河原の端の茂みに移動し、適当な丸太の上に座りながら話を聞くことにする。

 炭化したように真っ黒の丸太の上に並んで座る俺とソラの前には、正座をしたカピバラの魔物がいた。

 

「ぼ、ぼくはカピバラ族の者かぴ。さ、先ほどは危ないところを助けていただきありがとうかぴ!」

「カピバラ……そんな魔物も実装されてたのか」

「わぁ、かわい~!」


【MWO】にカピバラ族なんていう魔物がいたかどうか……あまり記憶がない。

 だが、このカピバラ魔物は本当にカピバラを巨大にしただけの姿をしている。

 茶色い毛並みもふさふさでペットにしたら癒されそうだ。


「あ、あの! 一つ質問いいかぴ?」

「ん? ああ、構わないが」

「そ、それでは僭越ながら。も、もしかしてあなたは大迷宮におられる四凶王しきょうおう様かぴ……?」


 やや畏まりながら発された質問。

 俺は目線を斜めに移して少し返答を考えた後、短く息を吐いた。


「どうもそうらしいな。四凶王しきょうおう、なんていう肩書きにはまだ慣れんが」

「か、かぴぃ!? や、ややや、やっぱり四凶王しきょうおう様だったんかぴ!? そ、それは大変失礼なことをしてしまったかぴ! 許して欲しいかぴ!!」


 俺が四凶王しきょうおうであることを明かすと、カピバラは態度を一変させて土下座しながら許しを乞うてきた。

 カピバラの体型的に土下座というよりかは伏せているだけのようにも見えるが、ガタガタと体を震えさせて怯えている。


「お、おいおい! なんだよ急に! 顔上げろって!」

「ひ、ひぃぃいいいい! こ、ここら辺の大迷宮に住まう四凶王しきょうおう様ということは、ミルヴァナート様ということかぴね!? さっき、ミルヴァナート様のお連れの配下の方々が魔界に散り散りになっていったかぴ! き、きっと人間の国を滅ぼすために本格的に戦争を開始するつもりなんかぴね!?」

「いや、違ぇよ! 戦争なんて物騒で荒々しいイベント引き起こす訳ねぇだろ! お前が見たその配下たちは俺が迷宮から追放したんだよ」

「つ、追放……? どうしてそんなことを……?」


 カピバラは困惑した表情で顔を上げた。

 俺はパッと笑顔を浮かべながら、軽く説明をする。


「いやぁ~、だってあいつら見た目怖いじゃん!」

「み、見た目……かぴ?」

「そうそう。あんな悪魔みたいな凶悪な顔面ずっと見てたら気が滅入るだろ? まあ俺も人の顔面にとやかくケチつけるつもりはないんだが、やっぱり癒されないじゃん。それに、なんかあいつら好戦的で野蛮な感じだったし、癒しとリラックスを求める俺とは正反対の価値観してんだよね。だからノリと勢いで追放しちゃった!」


 てへぺろ! とおちゃらけてみたら、カピバラはぷるぷると体を震わせながら立ち上がった。


「な、なな何ていう理由で追放してるかぴー!?」

「俺にとっちゃ大事な理由なんだよ。戦争とかする気ねぇし、別に金も地位も権力も興味ねぇし、むしろ皆で仲良くほのぼの暮らしていくのが理想だし」

「……ほんとに四凶王しきょうおう様のお一人かぴ? なんだかぼくが聞いていた四凶王しきょうおう様のイメージと全然違うかぴ……」


 カピバラは何とも言えない表情で、ぽてんと座り直した。


「まあ、俺の話は置いといてだ。お前はここで何してたんだよ」

「ぼくはさっきまで普通に森の中をお散歩してただけかぴ。だけど、途中でいきなりあのカラスたちに襲われそうになって、近くにあった川に飛び込んで逃げようと思ったかぴ。だけど、逃げ切れずに囲まれちゃったんだかぴ」

「なるほど。それでカラスの群れにリンチを食らってたのか」

「そ、そういうことかぴ。お恥ずかしい限りかぴ」


 普通に車くらいの大きさがあるカピバラだが、そこまで強くはないのか?

 気になった俺は、カピバラに鑑定を発動させてみた。

 ──────────────────────────────────────

 種族名:カピバラ

 レベル:33

 特徴:魔界に生息するカピバラ。性格は温厚で、争いを好まないが、いざとなれば強力な力を発揮する。

 ──────────────────────────────────────


 いや、種族名はカピバラそのままなんかい!

【MWO】の運営、もうちょっと設定練ってやれよ!


 心の中でツッコミを入れつつ、再びカピバラの全身を眺める。

 ふさふさの茶色い毛並みに、丸みのあるフォルム、そしてふてぶてしくも可愛らしいぬぼーっとした顔。

 ずっと見ていると何だかほのぼのとした気分になってくる。

 この感じ……まさに俺が求めていた癒しのスローライフに近い感覚……!

 この気持ちに気付いたと同時、俺はカピバラにビシッと指を突きつけた。


「よし、決めた! お前、俺のペットになれ!!」

「か、かぴっ!? ぼくがペットに!?」


 俺のペット宣告に、カピバラは驚いたように体を竦ませる。

 すると、隣で話を聞いていたソラがぴょーんと跳ねて手を上げた。


「はいはーい! ますたー! だったらソラがカピバラちゃんのお名前つけたーい!!」

「ぼ、ぼくの名前をかぴ!?」

「おう、いいぞ。何かいい名前でも浮かんだのか?」

「うーん、そうだなぁ……あっ! いいの思いついたよ!」

「ほ、ほんとかぴか? 一応、聞かせてほしいかぴ」

「カピバラちゃんのお名前は、かぴーちゃん!」


 いや、そのまんまだな!?

 だがまあ、これも子供っぽいネーミングで可愛いかもしれない。

 なんかマスコットキャラ感あるし。


「んじゃ、決まりだな。お前の名前は今日から『かぴー』だ。よろしくな」 

「い、いやいやいや、ちょっと待ってほしいかぴ! ぼくはまだミルヴァナート様方のペットになるなんて一言も――」

「えっ。かぴーちゃん、ソラたちのペットさんになってくれないの……?」


 ペットになるのを断ろうとした瞬間、ソラがうるうると涙目でカピバラを見上げた。

 俺は傍から指をさして棒読みで非難する。


「うわー、ソラを泣かせたー」

「これぼくが悪いかぴ!? と、ともかく、泣かないでほしいかぴ!」

「うぅ、ぐすっ。じゃあ、かぴーちゃんはソラたちと一緒に来てくれる?」

「ウッ。そ、それは…………あー、もう! 分かったかぴ! こんなぼくで良ければ、ミルヴァナート様のペットとしてお供させていただくかぴ!!」

「わぁ~い! これからよろしくね、かぴーちゃん!」


 お手上げというようにペット了承宣言をしたカピバラもといかぴーちゃんに、ソラが無邪気な笑顔で抱きつく。


 こうして我が『スローライフ計画』の中にペット枠としてカピバラが加わることになったのだった。


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