2023年8月

8月4日 神様 スカート 羨ましい

 

1 男子校なのに文化祭でメイド喫茶をやることになった。「なんでスカート似合ってんだよ羨ましいなおい!」「どこがだ!似合ってねえし羨ましくもねえ!」その一角でイチャイチャしてる(していない)バカップル(じゃない)を眺めている俺(腐男子)「今日も最高…」神様、俺に萌えをありがとうございます!


2 風に揺れる薄桃色のスカートは可愛らしい顔をした彼女によく似合っていた。それが羨ましくて、どうしようもなく妬ましかった。彼女の隣で笑う彼はとても幸せそうに笑った。幸せな二人の関係を壊すつもりはない。そもそも相手にすらされない。俺は俺を男としてこの世に生み出した神様を呪った。



 

8月7日 透明 香水 奏でる


1 無色透明な香水で誘われその巣に招かれた。当然のように俺は彼に奏でられ、一夜の夢となるはずだった。「もうぜぇったい離さないからね、マイスウィートハニー!」ところが一夜明けると、彼氏を飛び越えてパートナーになっていた。止める間もなく外堀を埋められてしまったが溺愛されるのも悪くない。


2 彼は誤魔化せていると思っているみたいだけど鼻がいい僕に小細工はきかない。安っぽいボディソープの上に振り掛けられた香水。今日は誰と愛の歌を奏でたのか。透明だけど実態のある相手はもう何人目なのか。いい加減愛想が尽きた。僕は涙を堪えながらすべての荷物を持ち、夜の闇に溶けて消えていった。



 

8月8日 本音は? 崩れる ドロドロ


1 胸から溢れたドロドロとした嫉妬心は、元凶である彼に暴かれた。脆い虚勢は崩れていく。「もう嫌だ」自分の身の内にこんな汚い感情があると知りたくなかった。「本音は?」でも、彼はそれが嬉しいらしい。「好き。ずっと一緒がいい」「いい子」優しく抱き込まれ、もう離れられないと思い知らされた。


2 仲睦まじい二人は手を繋いで帰っていった。それを見て心臓はドロドロに溶けていく。「お幸せに」「本音は?」隣にいる悪友はチェシャ猫のようにいやらしい笑みを浮かべている。「くたばれクソ野郎」俺から女に乗り換えたあいつの幸せは崩れればいい。「素直でよろしい」悪友は目を細めてさらに笑った。


8月10日 断ち切る 触る 浴槽


1 浴槽に二人で入れば当然のことながら肌と肌が触れ合う。密着しているところから彼の体温が伝わってきてあらぬ欲が膨れ上がる。でもここは風呂。変に動けば危険だ。煩悩を断ち切ったはずなのに!「どこ触ってんだ!」「え?言っていいの?」「黙れ!」お湯を掛けて牽制するが意味はあったんだろうか。


2 すべてを終わらせてきた。彼との思い出があるアパートも引き払い、新しい生活の始まりにと豪華なホテルの豪奢な浴槽に身を沈める。高級なボディソープで彼が触れた感覚は洗い流した。あとはこの想いさえ断ち切れば。「あれ、おかしいな」水面に波紋が広がる。悲しみと後悔の雨は一晩中降り続いた。


 


8月13日 崩れる どうしてなの ピースサイン

 

1 「どうしてなんだ」唇に冷たい熱が重なった途端に彼の輪郭が崩れ始めた。「好きだから」嬉しいことがあるといつもピースサインをする彼はこんな時にも力一杯腕を突き出してそれを見せてきた。呆然とする俺の耳元で君は最後に何かを呟いた。音にならなかった言の葉は彼の存在と一緒に溢れていった。


2 絶望は崩れ去った。会場は最後に起こった奇跡の大逆転に歓声を上げる。ベンチに控えていた俺もコートに乱入して勝利を分かち合うはずだった。「どうして?」「したかったから」なんでコートのど真ん中で今日の英雄とキスしてるんだ?ピースサインを向けてきたアホに一発入れたのは当然のことだった。


8月19日 痛い? 咲く 靴音


1 社会人一日目で履き慣れない革靴を履けば当然のことながら靴擦れを起こす。そんなことも知らなかった俺は社内見学に集中できなかった。その時ゆったりとした靴音と共に絆創膏が差し出された。「靴擦れだよね。痛い?」総務部の人から差し出されたそれを受け取った俺の胸に一輪の花が咲いた瞬間だった。


2 冷たい床に転がされてからどれくらい経ったのか。靴音が響き、俺をここに閉じ込めた奴が姿を現した。「これ、痛い?」背中に走った赤い線を撫でられて体が跳ねる。唇を噛み締めれば奴はそれを鼻で笑った。奴は引き結んだそこに指を突っ込んで俺の首元に噛みつく。唇が離れたそこに、歪なバラが咲いた。


 


8月22日 海 哀しみ 手招く

 

1 冬の海は極寒だ。哀しみも相まって余計にそう感じる。相棒からの拒絶は俺をどん底へと突き落とし、波に手招かれてここまで来た。もうどうなってもいい。「馬鹿野郎!」海へ足を向けた俺を後ろから抱き締めたのは相棒の双子の弟。「俺がいるだろう」消え入りそうな声ははっきりと俺の耳に届いた。


2 愛しい人を連れ去った海は変わらずそこにある。なぜ僕も連れていってくれなかったの?哀しみに泣き暮れて空っぽになった僕にはもう何もない。ふと、視線を上げると愛しい人が手招いていた。「ああ…ああっ…!」僕は歓喜の声を上げながら彼の方へと歩き出した。


8月28日 撫でる 感覚 睨む


1 彼が頭を撫でるのは俺だけのはずだった。あの心地いい感覚は他の誰にも渡さない。そう思っていたのに、その特権は転入生に奪われた。恨めしく見ていると、彼が俺に気付いた。いつも微笑みかけてくれていた彼は俺を突き刺すように睨みつけてきた。もうあの頃には戻れない。そう思い知らされた。


2 命令に従えばご褒美のグレアを貰い、顎下を撫でられる。この男にしかこんなだらしない顔を晒していない。それだけで体中が沸き上がる感覚がする。「良さそうだな」「まさか。もっとグレア寄越せ」挑発的に睨みつければ、容赦ないそれが叩きつけられた。欲張りな体はもっとと男に擦り寄っていった。


 


8月29日 毒 項垂れる 壊れて


1 その毒はたった一滴で人間も大型の獣も黄泉の国へ導くという。俺はそれを躊躇わず夕飯の鍋に入れた。そして、椅子に座って項垂れる彼の出来上がりだ。彼の裏切りで俺たちの関係は歪といえた。壊れるのならこの手で壊して、そして永遠に彼は俺のもの。俺は温かいスープをゆっくりと嚥下した。


2 不幸が重なり壊れそうな彼に甘い毒を与え、僕なしでは生きられなくしたのはもう何年前のことだろうか。今更良心の呵責に苛まれ項垂れる僕に彼は囁く。「君がいなければ俺は生きられなかった。依存から始まったけど、今はそれ抜きで愛しているよ」その瞳は透明に澄んでいて、僕が愛しいと叫んでいた。



 

8月30日 嗤う どっちが好き 探る


1 女子からの圧に屈して親友の好きな人を探ることになった。「鈴ちゃんと綾ちゃんのどっちが好きなんだ?」探り合いはどうも苦手で単刀直入に聞くと、親友は鼻で嗤った。「さあ?どっちだと思う?」不意に重ねられた唇。それは少し震えていて冷たかった。俺の体から離れた親友は泣きそうな顔をしていた。


2 僕よりも幼馴染を構う恋人の気持ちが理解できない。ずっと様子を探っていたけれど、それでもわからなかった。痺れを切らして彼と僕のどっちが好きかと聞くと強い力でベッドに押し倒された。「お前に決まってんだろ」昏く嗤った恋人の瞳にはドロリとした歪な優越感と独占欲、そして執着が渦巻いていた。

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