第15話 レオ視点

……僕は二度、ご主人様に救われた。


一度目は人に捨てられ、雨の中で拾ってくれた。


大家さんに頭を下げたり、僕の世話は大変なのに色々と面倒を見てくれた。


ずっと大好きで恩返しがしたかったのに……鈍臭い僕のせいで迷惑をかけちゃった。


だから神様にお願いしたんだ……ご主人様の役にたつ力がほしいって。


「ワフッ(正直、山神とかは良く分からないや)」


でも神様は、僕に力をくれたみたい。

前よりも大きくなったし、力もあるし走るのも速い。

その分、ご主人様に本気で構ってもらえないのは寂しいけど……それ以上に、ここでならご主人様の役に立てることが嬉しい。


「ウォン(見ててね)」


「ああ、見てるさ」


振り返ると、ご主人様が頷く。

言葉は通じないはずなのに、ご主人様はいつも理解してくれようとして嬉しい。

……よし、頑張らなきゃ。


「ウォン!」


「ファ!?」


ギリギリ気づかれない距離を詰めて、相手の進行方向に飛び出る。

でかいから急な反転は無理で逃げられないはず。


「ゥゥゥ〜(逃がさないよ〜)」


「フルル……フルァ!」


「ワフッ!?(わわっ!?)」


急に突進してきたので思わず避けてしまう。

振り返ると、後ろにあった岩が砕けていた。

あのツノに当たったら痛そうだ。


「ウォン……(うひゃ……)」


「レオ様! あなたの敵ではないですよ! 」


そ、そうだった、今の僕は昔の僕じゃない。

ご主人様を守れるようになったんだ。

熊の時は夢中でいまいち実感はなかったけど。


「フルル……!」


「ゥゥゥ〜(よーし〜)」


「フルァ!」


「ウォン!(いまだ!)」


突進をすれ違いざまに躱して、爪でカウンターを仕掛ける。

振り返ると、相手は足から血を流していた。

ただ丸太みたいに太いので、大した傷ではなさそう。


「ワフッ……?(あれ……?)」


「フルル……ァァァ!」


「ウォン!?(うわっ!?)」


再びの突進に対し、びびって避けてしまう。

相手は僕がずっと避けるからか、こちらの様子を伺っている。

そんな中、二人の会話が聞こえてくる。


「レオ、大丈夫かな?」


「敵ではないはずだ。ただ、もしかしたら自分の力を出しきれてないのかもしれない」


「というと?」


「うまく言えないが、フレイムベアの時は勢い任せのような……」


「あぁ……レオは本来は戦うような生活はしてないのです」


うぅ〜心配かけちゃってるよぉ。

でも、なんか上手くできない。


「そうか……何か発破をかけたらいいのではないか?」


「発破ですか?」


「あの時のレオ様はお主の指示に従っていた。その時にも、掛け声みたいなことをしていただろう?」


「確かに……レオ! そいつ倒したらボール遊びするか!」


……ボール遊び! 僕の好きなやつ!

それを考えるだけで、身体が軽くなってきた気がする!


「ウォォォン!(やるぅぅ!)」


「……やる気は出たみたいだ」


「はは……んじゃ、出来るだけ傷をつけずにな!」


「ウォン!(うん!)」


そのタイミングで相手が再び突進の構えを取る。

なるべく傷つけないように……そっか! ご主人様がこけた時のように!


「アオーン!(くらえ!)」


「フルル!?」


「おおっ! 氷で滑ったのか!?」


「うむ! いい手かと!」


突進する道に氷を貼ったので相手は盛大に転んだ……ご主人様もたまに転んでたよね。

ただ、これからどうしたらいいんだろ?

傷をつけちゃいけないって言われたけど……。


「なんかオロオロしてる?」


「倒し方がわからないのかもしれない……狩の経験がないのだな? となると、加減が難しいか」


「ですね……ちょっと無理難題を言っちゃったか」


うぅ……期待に応えたい。

でも胴体にフルパワーで攻撃したら大変なことになりそう。


「レオ様! 傷を少なくするためには、ツノにダメージを与えるのがと良いかと!」


「なるほど……レオ! 頑張れ! 」


「ワフッ!(やってみる!)」


相手は身体を動かし、今にも起き上がりそう。

ツノにダメージ……そういえば僕の攻撃って何が一番強いんだろ?

……ええい! とりあえず全力でぶん殴ってみよ!


「ガウッ!」


「フルァァァ!? ……ァァァァ」


思い切り殴ったら、片方のツノが吹き飛んだ。

そしたら、相手が静かに横になる。

あれ? これって倒したの? でも、息はしてる……。


「レオ様! ストップです!」


「ワフッ?(へっ?)」


「気絶してるので一番良い状態です! トドメは刺さずに、そのままで!」


「ワフッ?(すごい?)」


「ええ! お見事です! ツノを折るのは私でも無理でしょう!」


「ウォン!(やった! 褒められた!)」


でも、肝心のご主人様様と思ってると後ろから強く抱きしめられる。


「レオ! えらい! よくやった!」


「ハフハフ……!」


身体中をわしわしされて気持ちがいい。

僕はそのままごろんとして、ご褒美にお腹を触ってとお願いすることにした。


「ふっ、仕方のないやつよ……ほれほれ」


「ワフッ……!」


「鹿肉か……さて、何を作るか」


これこれ! お腹触られるの好き!


何より、ご主人様の役に立てたのが嬉しい。


だって、ご主人様はずっとニヤニヤしてる。


料理を作るのが好きだから、これからも僕が狩ってあげようっと。

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