第3話 状況確認

 その後、今更だが軽く自己紹介をすませる。


 彼女はアイラさんと言い、銀狼族?という種族らしい。


 耳や尻尾などはコスプレではなく、そういう種族ということだ。


 本当に、違う世界に来たらしい。


 ちなみに俺のことは割と簡単に理解してくれた。


 どうやら稀に神が他の世界から呼ぶことはあるらしい。


 そういう存在のことを、渡り人と呼ぶとか。


「渡り人ですか……それって、秘密にした方が良いですか?」


「いや、特段気にしなくても良い。別に神託を受けた勇者というわけではないし、特に特殊な力もなさそうだ。言いふらす必要はないが、隠すこともないといったところか」


「……確かに変わりはなさそうですね」


 飛んだりして体を動かしてみるが、別に変わりはない。

 あえて言うなら、肩こりや疲れが取れたくらいか?

 多分だが、暇な時に見ていた小説にあるチートとかはなさそうだ。

 本当に、レオのついでに呼ばれたのだろう。


「ならば世間知らずで通す……のは難しいか。なにせ、山神様を連れているのだ」


「えっと……とりあえず、悪いのですが色々教えてくれると助かります」


「構わん、助けてもらった恩がある。誇り高き銀狼族は受けた恩は必ず返す」


 その時、『クルルー』と可愛らしい音が鳴る。

 視線を向けると、恥ずかしそうに縮こまってるアイラさんがいた。


「し、仕方がないのだ! 昼あたりから何も食べてないのだ!」


「それなら無理もないですね」


「クゥーン……」


 すると、レオが尻尾をしょんぼりさせ、俺に顔をスリスリしてくる。

 アイラさんと違い言葉がわからないが、この合図だけは良く知っていた。


「くく……そうだな、レオも腹減ったよな」


「ウォオン!」


「はいはい、わかったよ。ただ、食材は……」


 その時、俺の視界にフレイムベアが入る。

 見た目は熊、だったら食えるのではないかと。


「アレって食えますか?」


「もちろんだ。フレイムベアの肉は高価なもので、味もよく栄養も豊富だ。ただ、私は料理はからっきしだぞ?」


「それなら平気です。なにせ、俺は


 そうだ、何処に来ようが関係ない。

 腹が減ってる人がいて目の前に食材があるなら、料理するのが料理人の性ってやつだ。

 まだ何もわからないけど、それだけははっきりしてる。


「ほう、犬神様のお世話係なだけあるな」


「いや、確かにレオのご飯も作ってだけど……というか、俺がもらっていいのかな? アイラさんが狙っていた獲物ですかね?」


「倒したのは犬神様だ。それに私が出会ったのはたまたまだ」


「だったら良いのか……レオ、いいか?」


「ウォオン!」


 レオは身体をバタバタさせて、そんなことより早くと言っているようだ。

 家にいるときも、ご飯の前になるとこうしてジタバタしてたっけ。

 図体がでかくなっても、やることは変わらないらしい。


「わかった、わかったから落ち着きなさい。じゃあ、まずは解体しますか」


「すぐ近くに川があったはず。そこなら解体もし易いだろう。まだ死んだばかりだし、血抜きも楽なはずだ」


「でも、持っていくの大変じゃ……へっ?」


 三メートル近い熊を、アイラさんが軽々と持ち上げる。

 全然、苦しそうでもない。


「す、凄いですね」


「これぐらいは簡単だ。そもそも、本来なら遅れを取る相手では……いや、何でもない。とにかく、付いてくるといい」


「わ、わかりました。レオ、行くぞ」


 そのまま森の中に入り、数分で川に到着する。

 川辺の広さもあり、これなら料理もどうにかできそうだ。


「さて、どうする? 私は何をすれば良い? 飯を頂くというのに、待ってるだけどいうのは性に合わん」


「えっと、解体はできますか? 俺も経験ありますが、その大きさとなると中々に大変なので」


「解体するだけなら得意だ」


「じゃあ、そっちをお願いします。俺はその間に枯れ木や葉、食べれそうな物を探すので」


「うむ、任されよう」


「あっ、ただ戻ってこれるか……」


「山神様が私の匂いを覚えているので問題ないはず」


「なるほど、それなら安心ですね。レオ、一緒に行くか」


「ウォオン!」


 その場をアイラさんに任せ、レオと森を散策する。

 すると、食べれそうなキノコを発見した。

 触ろうとし……すぐに思いとどまる。


「おっ……待て待て、ここは俺の知る世界じゃない」


 一見、椎茸に見えるこれも毒かもしれない。

 海外生活が長く、日本でも山の山菜を採ってきたから知識はある。

 しかし、それはあくまでも前の世界の話だ。

 すると、レオがくんくんと匂いを嗅ぐ。


「スンスン……ウォオン!」


「レオ?」


「ゥゥ〜」


 何やら足をバタバタさせて唸っている。

 こちとら五年は一緒にいるんだ、これくらいわからんと。


「もしかして……食べられるって言ってるのか?」


「ウォオン!」


「うむ……信用してみるか」


 よくわからないが、今のレオは不思議な力を備えている。

 だったら、それに頼ってみるか。

 何なら、あとでアイラさんに聞いてもいいし。

 ひとまず素手で触れないように手袋をはめて採取する。


「いや、散歩だから軍手とか袋持ってて良かった……よし、これで良いか。レオ、引き続き食えそうな物があったら教えてくれると助かる」


「ウォオン!」


 すると、嬉しそうにサモエドスマイルを浮かべた。

 舌を出して、ハフハフしてる姿は癒しの一言だ。

 可愛いので、思わず空いてる手で撫で回す。


「よしよしよし〜」


「ゥゥ〜」


 不安はあるが、レオがいれば安らぐものだな。

 その後枯れ木や草なども集め、元いた場所に戻る。

 すると既に解体が終わって、肉の部位と立派な熊皮に分かれていた。


「おおっ、お見事ですね!」


「そ、そうか? ……ありがとう」


「いえいえ、礼を言うのはこちらですよ。じゃあ、ささっと作りますか……あっ、火を起こさないとか。あと、水も煮沸しないとか」


「ん? それなら魔石があるから心配いらない」


「……魔石ですか?」


「そうか、そっちの世界にはないのか。魔石は魔物が死んだ時に出来る結晶で、それには魔法を込めることが出来るのだ」


「魔物……えっ? 魔法があるんですか?」


「そこからか……とりあえず、見せた方が早いか。そこのスペースに枯れ木や枯葉を置いてくれ。あと、水を入れる入れ物があるなら出してくれ」


 言われる通り、石を取り除いているスペースに枯れ木や枯葉を置き、その近くに鍋も置く。

 するとアイラさんが腰にある袋から、何やら赤い宝石のような物を取り出す。

 そして、それを枯れ木に近づけ……一瞬の光後、火が灯る。

 次に青色の宝石を取り出し、鍋の中にかざすと水が出てきた。


「おおっ……!」


「これでよし。説明は後にして、まずは調理をお願いしたい」


「そうですね、では先に火を入れますか。湧くまで時間はかかりますから。あっ、道中でキノコを見つけたんですが食べられますかね?」


 キノコを取り出すと、アイラさんが俺の掌をまじまじと見つめる。

 その際に綺麗な銀髪と、何やら良い香りがしてきた。

 ……今更だけど、めちゃくちゃ美人さんだよな。

 身長も百八十センチある俺の肩くらいはあるし、手足も長いしモデルさんみたいだ。


「これは……ああ、問題ない。良く毒がないとわかったな」


「実はレオが反応したんです」


「なるほど、犬系や狼系の魔獣は鼻が効くからな。その始祖と言われる犬神様なら当然といえば当然か」


「なるほど、そうなんですね。レオ! 良くやった!」


「ウォオン!」


 顎の下のもふもふをゴシゴシしてやると、尻尾を振って大喜びの様子。

 大きくなっても、ゴシゴシされる好きな箇所は変わらないらしい。

 問題がないとわかったので、適度な大きさに千切る。

 その頃には湯が沸いていたので、先に骨つき肉を煮ていく。


「次に野菜をカットするか……包丁がない」


「ウォオン!」


「レオ?」


「どうやら、リュックの中にあると仰ってるようだ」


「いやいや、持ってきてないし……ほんとだ」


いつの間か、リュックの中にはお気に入りの包丁があった。

当然だが、散歩に包丁は持っていかない。


「ゥゥゥ〜」


「ふむふむ……神様にお願いしたらしい、主人の大事な物だから一緒に連れていけないかって」


「……レオ! お前ってやつは!」


「ハフハフ……!」


嬉しくなり、思わず抱きつく。

包丁があることも嬉しいが、自分のおもちゃなどもあったのに俺のことを考えてくれたのが一番嬉しい。


「よし、これさえあれば俺はやっていけるぞ」


「ウォオン!」


「ああ、美味しいの作ってやるからな。まずは肉は塩と胡椒をしてシンプルに焼くかな。串とかあれば、串焼きにするんですが」


「串なら任されよう。木の棒をナイフで削れば良い」


「では、お願いします」


 俺は綺麗な岩場を使い、野菜をカットしていく。

 その横でアイラさんは器用に串を作っていく。

 そしてレオは……お腹を出して寝転んでいた。


「ワフッ……」


「ふふ、お腹が空いたようですね」


「あっ……笑いました」


「な、なに? ……笑ってなどいない」


「それは失礼しました」


 相変わらず、俺には塩対応である。

 いや、本当にレオがいて良かった。

 俺一人では相手にされないし、そもそも気まず過ぎる。

 火が通ったので湧いた湯を捨て、綺麗な水を足す。


「捨てるのか?」


「こうすると、雑味や臭みが取れるんですよ。それを水から沸かしていきます」


「ふむ、そういうものか」


 料理とは技術も大事だが、結局のところ

 もちろん時間短縮するのもいいが、個人的には手間暇をかけるのが真髄かなと。

 ほんの一手間かけるだけで、料理は格段に味が変化するのだ。


「そこに煮込んだ肉とキノコ類、野菜も入れてと……ここから放置ですね」


「こっちも串が出来たぞ」


「ありがとうございます。では、もも肉の部位とロースを使いますか」


 アイラさんと並んで作業をして、その上から塩を振る。

 それを火口のそばに置けば、こっちもある程度放置でいい。


「これでよしと……では、説明をお願いしてもいいですか?」


「無論だ。ただ、その前に……敬語はいらない。いや、本来なら私が敬語を使うべきなのだが」


「そっちは気にしないでいいですよ。それと、これは職業病みたいなものなので気にしないでください」


 飲食店あるある、常に敬語で接客するので癖になってる。

 後は働いてないのに、飯屋にいると『いらっしゃいませ』と言ってしまうとか。


「そうなのか……だが、どう見てもフウマ殿の方が年上だ」


「それこそ気にしないでください。お互いに話しやすい方でいきましょう」


「ウォオン!」


 すると、レオが何やらアイラさんに話しかける。

 アイラさんの顔は驚愕に染まっていたが……しばらく待つと言葉を発した。


「レオって呼んでくださいと? しかし、それは恐れ多い……」


「ワフッ」


「僕は犬神かもしれないけど、今は違うんだと……正体を隠したいということですか。では、レオ様とお呼びします」


「ウォン……ウォオン!」


 レオは仕方ないなと言うように踏ん反り返る。


 それを見て、俺とアイラさんは微笑む。


 どうやら、少しは仲良くなれただろうか。


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