【エピソード感想】彼の瞳の色を知れ! 《カノヒトミノ イロヲシレ》/せなみなみさま 《1》
【1】◇「参加作」を読もうと思った理由:あり
個人的に最も目を惹いた文言は、あらすじにある〝この作品は各章読み切りの連続中編小説です〟の一文ですね。終わりの見えない大長編を読み続けられるのも幸せなのですが、同一世界観での物語を積み重ねるのも、趣があるものです。トップページからしてダークな雰囲気が漂っているのも好みですね。
また、本作は作者さまから「性暴力の匂わせ」の場面があることをお知らせいただいたのですが、私でも大丈夫な描写に留められているとのこと。こうした気配りをいただけた点も、安心して拝読することのできる理由の一つとなりますね。
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【1】◆序章 冒険者新書:
〝『冒険者新書』〟なる本の解説からのスタートですね。その執筆者は一人ではなく、内容と綴り手を変えながら〝千六百年以上〟も発行され続けているそうです。ここから察するに、そこそこの文明レベルがある世界観なのかもしれませんね。
さながら歴史家と共に重厚な物語を紐解いてゆくかのような始まり方は、非常に幻想的で好みです。この場面には情景描写は一切ないものの、窓から射し込む月明かりと、オリエンタルなお香の焚かれた静かな書庫を思い浮かべました。
【2】◆第一章 再びのアネット(45000字) / 第一章 OP 皆殺しの少女 (前半):
ここから本編の開始ですね。カクヨムには「大見出し」の機能があり、すでに活用されておられますので、エピソードタイトルごとの〝第一章〟は削ってしまっても大丈夫かもしれません。画面の見栄えもスッキリしますからね。
さて、〝連邦東部の町ルマール〟の〝酒場兼冒険者ギルド〟でのやりとりです。現在が〝聖歴四〇〇年〟であることがわかります。冒険者新書でいえば、古い物語になるのでしょうか。そして海鳥がいるということは、港町なのかもしれませんね。
開幕から雄弁に語っているのは個性的な口調の受付嬢。ダークな世界観に身構えていた者としては肩透かしを食らった感もあるのですが、これが後々のスパイスとなる可能性もありますね。作品世界への没入感も相まって、非常にワクワクいたします。
どうやら受付嬢からの「口撃」を受けていた小柄な人物は、名のある冒険者であるようです。周囲の冒険者からの雑談によって語られる様子も賑やかさがあって良いですね。そして〝ソロ〟や〝レイド〟といった聞き馴染みのある単語。
もしかすると本作は、かなりライトな気分で楽しめる作品であるのかもしれません。これは早くも、良い意味でのどんでん返しを受けた気分ですね。
ギルド内では一悶着あったものの、どうにか丸く治まります。正直に申しあげて、この雰囲気は物凄く大好きです。一見すると賑やかでありながら、どこか退廃的で終末感すらも感じさせてくれますね。
【3】◆第一章 OP 皆殺しの少女 (後半):
場面は冒険者ギルド内。テーブル席に座る四人組みの冒険者の会話が描かれます。さきほどの〝『皆殺し』〟こと小柄な人物の正体は〝アネット〟という少女であるようです。まだ十代半ばであるにもかかわらず、かなり覚悟が決まっている様子。あらすじを読んでいたせいもあるのですが、ここでのアネットの行ないには狂気ではなく、「救い」と「慈悲」のようなものを感じるのは気のせいではないでしょう。
そしてアネットの話題を話す女冒険者にも、何か言い知れぬ過去がある模様。特に話の中に登場する〝軍〟には、キナ臭い雰囲気が漂っておりますね。
このエピソードは「ふりがな」がすべて〝≪ ≫〟内に記載されているのですが、これは意図的なのでしょうか。もしかするとルビ記号〝《 》〟の間違いである可能性もありましたので、念のためご報告させていただきます。
【4】◆第一章 その2 十才の決断 (前半):
本の前文のような文章からのスタートです。こういう演出は大好きですので、見かけるとワクワクいたしますね。完全に好みの問題だとは思うのですが。
ある少女の生い立ちが語られる場面です。おそらくはアネットのことなのでしょう。彼女の家は〝クラマース城〟正面の大通りに在り、隣国の名は〝アンドレア〟であることもわかります。本作は人名を含めて固有名詞の登場機会が極めて少ないので、読み手である私自身が、専門用語に飢えている感はありますね。ここで登場する〝
自らの行動が引き起こした結果とはいえ、十歳のアネットは「人さらい」に捕まってしまいます。ここでの彼女の気丈さと頭の回転の速さには、目を瞠るものがありますね。また、一口に「奴隷」といっても定義や扱いには様々あり、現実世界で言えば古代ギリシャやローマの奴隷と、近代の奴隷では大きく異なります。文字通りに使い捨てられるものもあれば、普通に給料が貰えるものもありますからね。そうした「匂わせ」が感じられる一文があるのも、良い点であると感じます。
【5】◆第一章 その2 十才の決断 (後半):
アネットたちの行き先が決まり、奴隷商人らの馬車へ乗せられる場面です。しかしトラブルが発生したことによって、出発は滞ります。どうやら捕まっていた子供の中には〝ゴブリン〟も混じっていたようで、かれらが逃亡を企てたようですね。〝「ギャ須m2ぃ!」〟という叫び声が、良い味を出しています。
独自の言語を話し、男らに縋りつくような様子もあることから、いわゆる魔物の一種ではなく、亜人のような扱いなのかもしれませんね。しかし必死の逃走劇もあえなく、アネットたちを乗せた馬車は出発してしまいました。
【6】◆第一章 その3 解放の手 (前半):
崖の上で佇む男たちの場面。しかし彼らは人間ではなく、描写から察するにゴブリンたちであるようです。言語を話し、武器防具で武装し、体も鍛えているということは、完全に人類の一種と考えても問題なさそうですね。
そしてアネットらの乗る馬車も、ゴブリンの戦士たちの襲撃に遭い、大パニックに陥ります。崖の存在も相まって、非常に緊迫感のあるシーンとなっておりますね。
【7】◆第一章 その3 解放の手 (後半):
アネットの機転と勇気ある行動によって、馬車からの脱出を果たしたものの、崖から宙吊り状態となってしまいます。文中にも記されておりますとおり、まさに〝絶体絶命〟といった場面ですね。もはやどうにもならない状況ではあるものの、最後まで必死に仲間を助けようと試みたアネット。そんな彼女に救いの手が差し伸べられるも、助けられたのはアネットだけでした。
アネットを助けたのは屈強なゴブリン。彼の言葉は例によって意味不明ではあるものの、ここで言わんとしていることが、なんとなく伝わってくるのが良いですね。ちなみに私は、彼の行動を賞賛してしまう派です。
【8】◆第一章 その4 無言の教え (前半):
どうにか命は助かったものの、アネットは気絶させられ、どこかの集落へと運ばれてしまったようです。しかし状況を見るに、人さらいに捕まっていた時よりも、待遇そのものは良いようですね。
現在の場所は〝魔属性地域の辺境〟にあたる場所とのこと。この〝辺境〟の読み取り方は難しく、本来の意味であれば「国境=つまり端っこ」を指すので、脱出の見込みがあるとも取れるのですが――。誤用されがちな「
命を助けてくれたゴブリンの家で、当初は奴隷のような扱いを受けてはいたものの、いわゆる暴力を受けるといったことはなかったようで一安心。徐々に待遇が改善されてゆく中で、アネットは生還への決意を新たにするのでした。
【9】◆第一章 その4 無言の教え (後半):
集落での生活も三ヶ月が経ち、環境にも適応しはじめたアネット。ある日彼女はゴブリンに連れられ、森の中へと踏み入ります。もはやゴブリンの様子は亜人というよりも、秘境に暮らす原住民といった方が近いですね。体を鍛えている描写もあることから、しっかりと成長もするようです。主人公はアネットなのですが、現在の主役は間違いなく〝ゴブリン〟ですね。彼らの文化や生活は非常に興味深いです。
〝無口なゴブリン〟から、森でのサバイバル術や危険な〝魔獣〟の存在を教わるアネット。彼女の強さの原点が垣間見えた気がいたします。言葉は通じず、未だ警戒心はあるものの、確かに紡がれてゆく絆。――すでに胸が熱くなってまいりました。
【10】◆第一章 その5 ネコのツメ (前半):
ゴブリンの集落での生活も、半年を越えました。背も伸び、狩猟や獲物の解体、剣の使い方までも教わったことで、アネットは逞しくなりました。しかし、人さらいの檻の中で小さな子らを励ましていた頃の優しさも変わらず持ち合わせており、特に子供のゴブリンからの支持を集める、人気者にもなったようです。
【11】◆第一章 その5 ネコのツメ (中盤):
今日も〝無口なゴブリン〟に連れられながら、目的地へと辿り着いたアネット。なにか重要な物の採取にも成功し、帰路につこうとした矢先、思わぬ強敵が現れます。
それは〝サーベルタイガー〟という名の凶悪な魔獣でした。序盤の冒険者らの雑談の中にも出てきた名前ですが、想像以上に凶悪です。この強敵を前に、〝無口なゴブリン〟は身を挺してアネットの逃亡を助けますが、そこでの彼女の決断は、「戦う」という選択肢でした。アネットに魂が宿った瞬間。非常にかっこいい場面です。
【12】◆第一章 その5 ネコのツメ (後半):
手に汗握る戦闘シーンの始まりです。これは決して比喩ではなく、この寒さの中でも実際に汗ばむほどの緊迫感でした。ここでも「人さらい」の檻でみせた、アネットの頭の回転の速さが生かされましたね。彼女の機転を利かせた一撃と頼れる相棒の連係によって、見事に強敵を打ち倒すことに成功します。ここは私が説明するよりも、実際に目にしていただきたい場面ですね。とにかく「熱い」です。
【13】◆第一章 その5 ネコのツメ (ラスト):
仲間の仇ともいえる強大な敵を討ったことで、村では盛大な宴が行なわれることとなりました。やはり人間もゴブリンも、嬉しい時には大騒ぎするものですね。彼らの喜びの感情と、祭りの熱気が伝わってまいります。トカゲの丸焼きも良いですね。
そして彼らと共に喜びを分かちあう中で、当初はいだいていた亜人種たちへの偏見にも疑問が生じます。どうやら彼らを敵視するようにと仕向けていたのは〝教会〟という組織のようですね。〝軍〟や〝教会〟といった組織が、この世界でどういった役割を持ち、どんな物語が紡がれてゆくのか。こちらにも興味を惹かれます。
タイトルである〝ネコのツメ〟とは、サーベルタイガーの牙から錬成された武器の名前であるようですね。かなり古いゲームなどでも見かける名前ですが、いずれも強力な武器であった気がいたします。勲章ともいえる「これ」を手渡されたアネットと〝無口なゴブリン〟は、まさしく村の英雄となったのでした。
【14】◆第一章 その6 体調不良の前夜:
さらに年月は経過し、二年もの歳月をゴブリンの村で過ごしたアネット。助けを待つだった少女の面影はすでになく、もはや完全に戦士の顔となっておりますね。
しかし強大な魔物には勝利できても病気には勝てなかったのか、高熱を出したアネットは寝込んでしまいます。夜、そんな戦士アネットが病の床に就いているなか、村には〝武装した一団〟が忍び寄っていたのでした。
【15】◆第一章 その7 血塗られた解放の剣 (前半):
予期されていた場面が、ついに訪れます。一団の正体は、あの〝元軍人の女冒険者〟が語っていた軍隊でした。アネットは熱にうかされていたことで、「ゴブリンに捕まってしまった、か弱い少女」として認識されてしまったようです。そして目にする、アネットにとってはこの上ない悲劇。ここまでで完全にゴブリンサイドについている、私自身の心も強く揺さぶられましたね。多くの読者も同様でしょう。
この当時は女兵士だった彼女の言葉により、アネットのいた場所こそが〝帰らずの森〟であったことも判明します。散りばめられていた情報が一本に繋がってゆく感覚は、非常に心地よいですね。
【16】◆第一章 その7 血塗られた解放の剣 (後半):
アネットの〝皆殺し〟の由来が明らかとなるエピソードですね。こういった形の「救い」の場面、私は非常に大好きです。何度も頷きながら読む耽っておりました。
ここだけは、野暮な感想は省きます。ただ一つだけ言えることは、アネットの行動には、全面的に大賛成であるということだけですね。
【17】◆閑話 うんちく その1:
サーベルタイガーの生態が記されております。ここは設定資料のような独立したエピソードとなっておりますが、語り口も相まって「資料」のような無機質さはなく、一つのエピソードとして楽しめるよう気を配られておりますね。特に目を惹いた単語は〝ユグドラシル高原〟でしょうか。世界の全貌を見てみたくなってまいります。
【18】◆第一章 その8 それはあなたにとって……:
現在の場面へと戻ってまいります。ここは私の判断でネタバレは伏せさせていただきます。「自分自身がやっているから」という理由もあるのですが、こういったギミックは大好きですね。ニヤリとした笑いが止まりません。端的に言って最高です。
あの【16】のエピソード以降の、アネットの心の内を察することはできません。彼女の態度の真意、そして示唆された〝もう一人の冒険者〟の存在など、今後も気になる要素は盛りだくさんですね。物語への興味も尽きません。
【19】◆第一章 その9 ED 上級冒険者:
アネットの強さが垣間見える場面です。この戦闘シーンの描写は素晴らしいとしか表現しようがないですね。彼女の動きや光、流れる空気までをも感じ取れるかのようでした。決してお世辞ではないですからね。何度も読み返したくなるような、圧巻の戦闘シーンでした。相手が「小物」すぎることだけが難点ではありますが。
そして〝第一章〟の締めくくり。一つの物語を読み終えたというよりも、歴史の一場面を垣間見たような満足感がありましたね。これは間違いなく「名作」です。
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さて、これで一旦【エピソード感想】を締めさせていただきます。あとは次のページにて、各オプションに基づいた感想のまとめを述べてまいります。
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