【エピソード感想】夢幻の灯火/辻 信二朗さま 《1》
>◇「参加作」を読もうと思った理由:あり
サービス終了したゲームの世界が舞台という〝あらすじ〟に強く惹かれました。未来の世界という設定も良いですね。「作家の数だけ未来が分岐する」と言っても過言ではありませんので、どんな未来が見られるのかということも楽しみです。
本作のオプションは全体的に〝辛口〟を選択されており、本気で改善案を模索しておられるといった志を受けました。本企画は基本的に「幸崎の好みが最優先」であり「長所を伸ばす」というスタイルなのですが、今回は「一般的にみた標準的であろうと思われる感想」も併記させていただきます。
しかしながら、あくまでも提示と提案のみであり、「こうしなさい」といったものではないことを先にお断りさせていただきます。「こういう方法もありますよ」といった具合ですね。
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まず、物語の内容へと移る前に文面そのものの感想を述べさせていただきます。
単行本を意識した章立てでありますね。私の代表作も同様の手法を執っておりますので、親近感を感じます。たとえ作品そのものが完結せずとも一定の範囲を読み進めれば「物語の決着」が期待できるという点で、これは良い手法であると考えます。
続いて判別できるのは「空白行なし」であるということですね。WEB小説においては「空白行あり」が基本となってはいるのですが、私個人の感想としては、作品の性質によっては空行が無い方が読みやすいと考えております。たとえばミステリや純文学、重厚な古典ファンタジーなどですね。
それでは「本作にとってはどうなのか」と申しますと、「VRを利用した実質的な異世界ファンタジー」ということで、「比較的ライトな作品」であると判別されますね。しかしながら筆致は硬めであり、読み応えのある雰囲気を感じます。
ですので「幸崎個人の感想としては、空行なしの方が読みやすい」といった結論となりますね。しかしながら、もしも作者さまが「幅広い読者層に読んでほしい」と考えておられるのならば、WEB小説の標準に沿った「空白行あり」での投稿へ変更するのが得策であると考えます。
次に引っかかりを感じた点は「難読漢字が多く使用されているが、極端にふりがなが少ない」といった部分ですね。一例を挙げますと〝霊峰〟〝奥懐〟〝険阻〟〝花茎〟〝瞼〟〝茫然〟〝翳す〟といったものですね。この最序盤からこうした単語が多く登場しますので、読み手によってはかなり「詰まる」のではないでしょうか。
たとえば私の作品であれば〝
私の場合は過剰であるかもしれませんが、ゲーム実況動画のノベルゲームの読みあげなどを見ていると、意外と読めない方は多いんですよね。「迂回」を「しゅうかい」と読んでいたり「翳す」を「かもす」と読んでいたりといった具合です。私はそうした言葉をチェックしては、こまめにふりがなを振ることにしております。「翳す」などは前後の文に埋もれない場合は「かざす」でも問題ないですからね。
本作でも〝
最後に文字数なのですが、これは「非常に良い」ですね。本作は1つのエピソードが数万はあったと記憶していたのですが、分割なさったようで。とても手を出しやすくなったと感じます。素晴らしいです。
それでは長くなりましたが、本編の内容へ移らせていただきます。私が拝読するのは「エピソードの分割後」ということになりますね。よろしくお願いいたします。
>【第一巻】/序章 花の簪
〝エイタ〟という人物の場面からスタートですね。名前の雰囲気から「少年」であると感じましたが、現時点では彼の詳細は不明です。彼は〝霊峰〟にいるらしく、切り立った崖によって行く手を阻まれてしまったようです。
立ち往生するエイタでしたが、思わぬ発見もあったようで、〝エルスカーの花〟なるアイテムを手に入れます。この花は崖に生えていたものを、エイタが摘み取った瞬間に〝名前の書かれた札〟へと変化してしまいました。あらすじを読んでいない場合であっても、文字通りに「アイテム」と化したということが理解できますね。良い演出であると感じます。彼の口から出た〝アイ〟という人物の名。名前で呼び、気軽に花をプレゼントできる相手となると、妹か恋人あたりでしょうか。そんなエイタが〝花〟を懐へ仕舞った途端、崖が崩れて落下してしまいました。
この部分の〝真っ逆様〟なのですが、「真っ逆さま」と開いた方が読みやすいのではないかと思われます。「真っ逆さまに落ちていく」でも文字が埋もれることはありませんからね。
崖に落ちたエイタは暗闇に包まれたあと、〝礼拝堂の裏手にある診療室〟で目を覚まします。〝助からなかった〟という文言があることから、これはいわゆる「リスポーン地点に戻された」というやつでしょうか。
私は長年MMORPGを嗜んでいたので、この現象を容易に理解できるのですが、そうでない読者もおられるかと思いますので、ほんの一文でも説明があると良いかもしれません。たとえば「この世界がゲームの中である」ということを、花の辺りで提示しておくなどですね。それなら「復活地点に戻された」の一文でも伝わるかと。
教会を出たエイタは宿屋へ向かいます。この世界の通貨単位は〝リオ〟というそうですね。こうした「通貨」の有無は、実際のファンタジー世界であれば文明のレベルを計る目安となるのですが、ゲームであればあまり意識する必要はなさそうです。
少女が「店主」であることや口調などから察するに、彼女はNPCといった具合でしょうか。そんな彼女をエイタは〝アイ〟と呼び、気さくに声を掛けるのですが反応は返ってきませんでした。――この場面は印象深いですね。物語に引き込まれます。
>第一章 仮想現実の世界へ/第一話 転移
場面はがらりと変わり、〝高校〟へ通うエイタの姿が描かれます。タイトルからも察するに、さきほどの序章はプロローグといった立ち位置ですね。前述したとおり、私は物語に引き込まれましたので、良い構成であると感じます。
ここから語りがエイタの一人称へと変化しておりますね。「三人称」や「一人称」といった視点の変更を嫌う読者もおられますが、私は特に気にしません。なんならエピソードの途中で変わっていても気にしません。
語りの変更も違和感がなく、エイタが高校生であることや、AIが授業を行なっていること、そしてエイタの名前が〝
彼は相当ゲームが好きなようで、帰宅してシャワーと食事を済ませ、早々にゲームの世界へと入ります。ここで〝序章〟の場面がゲームであるとわかるわけですね。そうであれば、あの不思議な演出も現状のままで問題ないとは思うのですが、「あらすじ」にもあることですし、やはり「先出し」しておくのが良いかと感じますね。
AIが労働を担う世界というとディストピア感があるのですが、この世界では上手く作用しているようです。経済的に余裕があることを見るに、AIを労働力として雇うというか、奴隷化しているといった具合でしょうか。私はAIに人権を与えることには断固として反対ですので、これはこれで良いと感じます。
あのゲームの世界は〝フィヨルディア〟というそうですね。この名称からも色々と考察は捗りますが、まずは物語に集中します。どうやらフィヨルディアは100年以上も前にサービスが終了したゲームであるにもかかわらず、未だにログインができる状態のまま放置されているとのこと。非常に夢がありますね。大好きです。
フィヨルディアへログインし、宿屋の一室で目覚めるエイタ。意図的に情報を制限していた〝序章〟と比べ、エイタ視点での情景描写の書き込みが繊細で素晴らしいです。これは美しいですね。作品世界を探検するのが好きな私には、最高の物語です。
あ、ただ一点だけエイタに反論したいのですが、PC画面で遊ぶネトゲでも充分に没入感がありますからね。私は3つのアカウントを同時に操作していたりもしておりましたが、キーボードで魔術を奏でながら戦場を駆け巡っているかのような感覚が非常に心地よかったです。今ではあんな芸当はできませんけどね。若さゆえです。
この世界では〝転送機ラズハ〟という機器によって、仮想現実へとログインすることが可能なようです。原理は「夢」を応用したものであり、「夢ではあるが、根本的に夢とは違う」という代物のようですね。「人工的な共有夢」といった具合でしょうか。とてもわかりやすい説明です。
>第二話 友人
〝異世界・フィヨルディア〟唯一の街である、〝アルン〟の宿屋からのスタートです。すでにエイタは8年ものあいだ〝ゲーム・フィヨルディア〟をプレイしているようですね。完全に廃人ですね。もちろん廃人は誉め言葉ですよ。当然です。
どうやらエイタはNPCの〝アイ〟に惚れ込んでいる様子。アップデートが停止している世界とはいえ、少しずつアイには変化が表れているようで、エイタの言葉を理解しているのだそう。私は少し、この感覚は不気味で「怖い」と感じてしまいました。今の私の感覚ですと、アイは得体の知れぬ人型実体でしかありませんからね。
ただ、エイタにとって、アイは8年もの間の付き合いがあるわけです。そうした事情を踏まえれば、当然の心情であるのかもしれませんね。また、エイタ自身も理解をしたうえでの行動であると語っています。こうした一文があるのは良いですね。
このアルンの街は、和を基調とした街並みであるようです。エイタが侍のような装備を身につけていることからもピッタリですね。古来のRPGにも侍と忍者は登場しますので、ここは違和感がありません。
霊峰探索へ向かうため、まずは準備を整えるエイタ。アイテム類は〝札〟として持ち運ぶようですね。サイズはクレジットカードほどで、無限収納などは無い様子。あの未来の世界においてもクレカが使われていることにも驚きですが、こうした設定部分を作り込んでいるあたりにも好感が持てます。気になる部分ですからね。
>第三話 日課
このフィヨルディアの世界の様子が語られます。幸崎は基本的に、こうして列挙された地名などは一切覚えません。「アルンの街は、4つの霊峰に囲まれているんだな」という認識だけですね。その詳しい理由などは本企画内の『専門用語を無理に覚える必要はない』を参照ください。しかしながら、このタイミングで地名を出しておくことそのものは、正解であると考えておりますからね。
霊峰のボスを倒した先には薄っすらと〝街〟の姿があり、まだ見ぬ世界が広がっていることを知ったエイタは「世界の果ての先」へ行くことを目標としているようです。ここで私は〝良い意味で〟鳥肌が立ちましたね。ものすごく夢のある物語ではないですか。同時に主人公の目標も示されましたので、最高の序盤であると感じます。
かつてボスが鎮座していた場所まで転送し、エイタは探索を開始します。ここから先のルートは、いわゆる「バグったマップ」のようであるらしく、不自然に地形が切り取られていたり物体が浮遊していたりするようですね。この不気味な地形を進むと星型をした花があり、摘むと〝スティエルネの花〟と書かれた札へと変化しました。この「花」の名称は重要であると思いましたので、私は記憶に留めておりますね。
このエピソードはゲーム特有のワクワク感がありました。オープンワールドのゲームなどで、行けない地形に無理やり侵入しようとしたり、遠景のオブジェクトを目指して突き進んだ経験がある人ならば同じ感覚が味わえることと存じます。
>第四話 門限
バグったマップの地形にはまり、命を落としてしまったエイタ。今回の探索を終えた彼は宿屋へと赴き、アイに冒険の話を聞かせます。
ここのアイの様子は愛らしくて良いですね。いわゆるエモートといった、感情表現コマンドで反応を示してくれているのでしょう。生き生きとした様子が伝わってまいります。また、オウム返しではあるものの、わずかに単語を口にすることも可能な様子。たしかにエイタの言うとおり、人間らしくも見えますね。
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さて、ここで〝第一章〟が終了となりますので、各エピソードの感想を終えさせていただきます。感想の文字数も5000文字を越えておりますからね。あとは次のページにて、各オプションに基づいた感想のまとめを述べたいと思います。
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