第13話:ウキウキ × 浮いて = 浮かない

大磯ロングビーチの最も素敵なところ、それは「誰も浮かない」ところだ。

周りから浮かない。ぜんぜん浮かない。

皆、夏に浮かれているから、プールに浮いていても、周りから浮かない。

これは夏だからとて、水辺だからとて、案外どこでも叶うわけではない。


毎年決まった日に訪れる、北関東のちいさな流れるプールがある。

季節初めの土曜の夕方、営業時間の終了を知らせ始める頃、お客さんが帰り始める。

人気の少なくなったプール。

流れる雲の上を行く 夕方の飛行機を眺めながら、ぼんやりと水に浮く。

まだ若い蝉の声を聴きながら、プールサイドで静かに飲むレモンサワー。

とても素敵。 そう、ステキだったのに…。

翌・日曜の朝、それは突然に、結構、浮くハメになる。

「キミ達は昨日の夜から水着を着て寝ていたんじゃないのかい!?」というような、ウキウキ待ちきれないお子さんたちに占拠されたプール。

おとうさん・おかあさんでも、おじいちゃん・おばあちゃんでもない、

「子供連れではない 妙齢の私たち」のようなふたりは、日曜の朝には、いない。

残念だが、そろそろ引退の時期だろう。

そっと腰から浮き輪を外し、プールサイドに置く儀式を…と、秘かに思う。


今夏は果敢にも、8月の平日に「よみうりランド」にもチャレンジをしてみた。

心機一転、新規開拓。 われらは妙齢夫婦チャレンジャー。

ゴンドラに乗っていく道中に、ちょっぴりこころが浮かれた。

子連れの家族、若いお友達同士、若いカップル。皆さんとても楽しそう。

なのに、なんということでしょう、妙齢の夫婦には、ここはちょっとばかり、渋い。

しょっぱい? と 言った方が、よいかもしれない。

完全に浮いているわい、と自覚する。



大磯ロングビーチの素敵なところ。 誰も浮かない、浮かせない。

大家族でも、核家族でも、老人や、妙齢や、若者だけでも、ひとりでも、

性別も問わず、国籍も問わず、貧富も問わず、まったく浮かずに楽しめる。

ビーサン履いていても、裸足でも、まったく浮かずに楽しめる。

「周りから浮かない」「仮に浮いていたとて、全然浮いている感じがしない」

この二軸は案外と、なかなかに、叶わない。


こんなに素晴らしいサクセスモデルが、大磯には存在している。

たいへんあたたかいことだ。

よもや国の法案作成時の基礎理念に、取り入れるべきではないかと…。


そう、「旧:体育の日」に、思った次第です。


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