あっさりとした幕引き
それから三日間、私は念には念をという王子の指示で授業を受けることなくのんびりと過していた。
気絶した翌日には国王夫妻まで部屋を訪ねてきてこちらが困るほど謝罪をされた。
「やっぱり耐えていたのね、アリア。辛かったでしょう。気付いてあげられなくて本当にごめんなさい」
王妃様にはそう言って抱きしめられた。
「誰かを悪人にはしたくないというあなたの気持ちは尊重してあげたいけれど、これからはすぐに相談してちょうだいね? あなたはわたくしの娘になるのだから、遠慮なんてしなくていいのよ」
───あれ? 私そんなこと一度でも言ったかな?
誰かを悪人にしたくないなんて特に思ったこともないはずなのだが。
「アリア、辛抱強いことは美徳だが、しなくていい我慢は避けるべきだよ? 今回の件は確実に後者だ。しかし全てはこちらが手配した者達による犯行だ。本当に申し訳なかったね」
「犯行だなんて……」
「ジャクソンの妃となる者を傷付ける行為を行ったのだから、それは立派な犯罪ではないかな?」
───そうなるの?!
「蓮花宮の使用人は全て入れ替えることにしたが、すぐには集まらないため各宮から信頼のおける者達を選んで配置した。今後は何も心配することなく過ごせると思う」
「ありがとうございます」
「その中にもしもおかしな真似をする者がいたら即刻私に言いなさい」
さすがに今回の件があったのだからそんな人達は出てこないだろうし、出てきたとしても国王に告げ口なんて出来るわけがない。
あの後チェカトリー夫人は王子からの厳しい取り調べを受け、あっさりとラベティー公爵家からの指示だったと白状したそうだ。
ラベティー公爵家というよりサーシャ母娘による指示であり、公爵自体は預かり知らないことだったようだが、私が死にかけた? こともあり事態を重く受け止めた公爵は財務大臣の職を辞し、自主的に財産の半分を王家に献上した上で爵位を返上し隠居することを表明し、サーシャ母娘は身分を剥奪されて別々の修道院に送られたのだとか。
サーシャ達は「私達はそんな指示はしていない」と最後まで非を認めなかったそうだが、チェカトリー夫人、ヌーロフ夫人、ハリスンに金品を渡していた証拠や、私の妃教育を失敗させろという指示書などが出てきてしまったためどれだけ否認しようと無駄だった。
城の中にもあの母娘の息がかかった者達が大勢おり、蓮花宮にいた使用人達は一人残らずあの母娘の手の者だったそうである。
サーシャ母娘の手の者は城で働く者の三分の一にも及んでいたそうで、その者達は皆一様に解雇され、二度と使用人としては働けない形で放り出されることになった。
蓮花宮の侍女長に関してはサーシャ達に王族のスケジュールやプライベートな情報まで流していたそうで、身分を剥奪されて国外追放となったらしい。
この件で死者が出なかったのは幸いだといえるだろう。
自分の性癖を満たすために嬉々として受け入れていただけなのに、それで処刑されてしまう人が現れたら半分は私の責任じゃ無いだろうか?
いや、嫌がらせとかいじめをする側が悪いのは百も承知だし、私以外の人間には本当に決して行ってはいけない卑劣なことだ。
本来いじめとはその人の尊厳も何もかもを踏みにじる行為だし、心をジワジワと殺していく。
その人の全てを無条件に踏みにじり、全否定し、心も体もボロボロにしてしまう。
私はいじめられるのが好きなドMだから自分がされる分にはいいが、他の人がいじめられているのは見たくないし、何なら率先してそのいじめを自分で引き受けてきた身である。
いじめとはいじめを行っている側は当然悪いが、それを見ていて知っているのに手を差し伸べることもせずただ見ているだけの人間も同罪で、私はそれが許せなかったため、前世ではいじめられている人を見つけると庇っていた。
いじめは、いじめられている人間を庇うと、その庇った相手へとターゲットがスライドしていく。
こうして私は自分がいじめられていない期間がない状態を作り上げていたのだ。
全ては自己中で身勝手な理由。
勝手な正義感だし、性癖を満たすためだった。
「私、性癖に振り回されすぎてるな」
誰もいなくなった部屋でそう呟いた。
でもそれはしょうがないとも思うのだ。だって性癖だし!
趣味嗜好は皆それぞれ違っていて、それを追求する人達も一定数存在している。
コレクターなんてものも「収集癖」と呼ばれる性癖の一つなのだから。
性癖は適度に満たしてあげないといずれどこかで爆発してしまう。
「今後どうしたらいいんだろ……」
自分の性癖を程よく満たしつつ、周囲に迷惑や心配をかけない方法を探さなければ……。
王子がドSだったらよかったのだろうが、どう考えてみても違うと思うし、自分から「いじめて欲しいんです!」なんて言えるわけもない。
───それじゃただの変態だ(今更?)。
きっとこれからはわたしをいじめてはくれない教師陣からのとても優しい授業が行われることになる。
それが本来の形であり、本当なら喜ばしいことなのだろうが、あの楽園の日々を知ってしまった私からしたら悲しみ以外の何物でもない。
───チェカトリー夫人よ……なぜ逆立ちにで出したのだ……。
あれさえなければまだまだ楽園は続いていただろう。
授業の時間は教師と二人きりだから、そこで何が行われていても誰にも知られることはない。
安全面を考えたらそれもどうかと思うのだが、教育の内容的に外部に漏らせない事柄も含まれてくるため必然的にそうなっている。
だから雇われる教師はしっかりした身元が保証されていて、間違いを起こさない人物が人選されるのだ。
───まぁ、その人選からして間違いだらけだったんだけど。
「せめてすごく厳しい先生が来てくれたら少しは満たされるんだけどな……」
いじめとは違うが厳しい先生に愛のムチとしてビシバシしごかれるのもまた一興。
それならば本当に誰にも迷惑がかからないし私の性癖も多少なりとも満たされる。
だけど人生とはそう思いどおりになんて行かないもので、私の希望通りの教師なんてそうそういるはずもない。
───褒めることが少なく、厳しさにだけ定評があって、言葉で自尊心をゴリゴリ削ってくれるような優秀な教師が希望なんだけど。
世間的に見たらそれが本当に優秀な教師なのかと疑問に思われるだろうが、私にとっては最高の教師である。
「せめて一人だけでもそんな先生が来てくれたら……」
悶々としながら三日間のつかの間の休息は終わりを告げた。
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