いじめてほしい!~ドアマットヒロインに転生したドMなので溺愛よりいじめを所望します!
ロゼ
ご褒美転生
目が覚めたら知らない天井だった……なんてことはなく、記憶の中にしっかり存在する天井があった。
だけど私が私として覚醒したのはこの瞬間で、まさに今目覚めたと表現するのが正しいのだと思う。
私の名前は「アリア・マティーオ」。
マティーオ伯爵家の一人娘であり現在十五歳だ。
前世の名前は「山岸
湊音という字面と発音から男と間違えられることが多かったが正真正銘女だった。
どこにでもいる普通の、少し地味な女だった私は三十二歳まで生きたのだと思う。
幼稚園から高校まで地味な嫌がらせやイジメのターゲットになり、友達は少なく、遊び歩くこともなかった前世。
高校を卒業して就職したのはブラック企業で、手当なしの残業、休日出勤は当たり前。
上司からの「叱咤激励」という名のパワハラ・モラハラの嵐の中で、与えられた山のような仕事を黙々とこなし続けるだけの日々。
そして遂に限界に達した私の体はある日全く動かなくなり、会社からの「出社しろ!」との鬼電のコール音を聞きながら息を引き取った。
さぞかしつまらない人生だと思われるだろうが、その全ては私が望んで進んで選んできた道であり、後悔なんてない。
ただ一点だけ悔いが残っているとしたら「もう少し長生きできるように自分を労るべきだった」ということだけだろうか?
「こいつは何を言ってるんだ?」と思うかもしれないが、ハッキリと言おう、私はドMだったのだ!
いや、だったという言い方は間違いか、現在進行形でドMなのだから。
私がこの性癖に目覚めたのは幼稚園の頃だった。
少し意地悪なイノリちゃんに「イノリが遊びたいおもちゃを使っている」という理不尽な理由で頬を引っぱたかれた瞬間、全身に衝撃が走った。
頬はとても痛いのに何と表現したらいいのか分からない甘く震えるような衝撃が全身を貫き、その後イノリちゃんが発する私への
まぁ、今から思えばあまりの恐怖に耐えきれなくなった精神が苦痛を伴わない方向に意識を転換させただけなのかもしれないが、この瞬間から私のドM人生はスタートした。
その時はその感情や衝撃が何だったのか分からなかったのだが、親に怒られたり、男子に意地悪される度にあの時の何ともいえない胸の高鳴りが蘇り、幼いながらに気付いたのだ、「自分はこういうことをされるのが好きなのだ」と。
それからはあえてイジメられる側に回り、相手が自分を
ブラック企業での私への扱いも最高だった。
──人を人として扱わない会社
──超絶ブラック
──休みなんてあってないようなもの
色々な会社を検索し、その中で評判がとにかく悪いところを厳選し就職。
さすがにセクハラには耐えられなかったので同期の岡野には「二度と触るんじゃねぇ!」と男性の急所である部分を思い切り蹴り上げ、悶絶してのたうち回っているところにダメ押しのように尻への連続蹴りをお見舞いしてやったところ、翌日からパッタリ会社に来なくなった。
セクハラは好きになれない。
自分の趣味嗜好が分かっているからこそ、「こいつは何をしてもいい」と勘違いしてセクハラしてくるやつは許せなかったのだ。
それ以外は非常に精神的満足度が高い素晴らしい会社だったのに、精神が満たされていても体は限界を超えすぎていたようで、恐らく過労死したのだと思う。
自分の意思に反して全く動かない体、次第に苦しくなっていく胸と荒くなる呼吸に少しだけ興奮を覚えたのは内緒にしてもらおう。
そうして幕を下ろした私のドM人生だが、どうやら神は私を見捨ててはいなかったようだ。
私が生まれ変わったアリア・マティーオは金髪碧眼の目の覚めるような美少女。
きっと誰からも愛されて幸せに暮らすのであろう容姿をしている。
が! そんなのは幻想であり、現実にはこのアリアはドアマットヒロインなのだ。
アリアとして生きてきた記憶と、前世の記憶がしっかりと融合した今、自信を持って言える。
「アリアはこれからドアマットヒロインの道を突き進むのだ!」と。
実はこのアリア・マティーオは私が前世で何度となく読み返した
私はその小説を「胸糞小説」だなんて思っていなかったが、感想欄にはその文字が並び、最終的にはあまりの批判の多さからネット上から削除されてしまったウェブ小説で、とにかく主人公のアリアがイジメまくられる話だった。
物語はアリアに新しい
アリアは幼い頃に流行病で母親を亡くしており、父親はアリアをとても可愛がり愛しているのだが、なにぶん忙しい人で家に帰って来れるのはよくて週に一度、悪いと月に一度あるかどうか。
それではよくないと思い悩んだ父はアリアに相談することなく、アリアの母であった「コーネリー」の親友の「ローリア」を継母として迎え入れることを決めたのだ。
「ローリア・オースバーク」はオースバーク子爵家の娘であり、現在三十五歳なのだが、バツイチ子持ちの出戻り女だった。
家には居場所がなく、娘共々肩身の狭い思いをしながら慎ましく生きているように見せ掛けているが、実際はとんでもない性悪女でありコーネリーはローリアを嫌っていたのだが、仕事面では優秀でも人を見抜く目はポンコツ設定の父にはそんなことが分かるはずもなく、きっとアリアを大切にしてくれるに違いないと再婚を決めたのだ。
私はローリアの名前を聞いた瞬間に前世記憶の扉が勢いよくこじ開けられて気を失ったわけだが、その理由がようやく繋がった。
前世の私がこの状況を喜ばないはずがないのだから。
まさにご褒美転生! ビバ、第二の人生! である。
「やったわぁぁあ!!」
思わず叫んでしまいその後思い切り咳き込んだ。
私の声に慌てて部屋に飛び込んできた父や使用人には、私が継母のことを喜んでいるのだと勘違いされたものの、「三日も目を覚まさなかったのだから、そんな大声を出すものではない」と優しく諭されてしまった。
その後私は「念のために」と一週間ベッドの住人となり、いよいよ継母とその娘である「ベネット」を迎える日がやって来たのであった。
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