第7話 女同士

レヴィンは俺を抱き上げると表通りに向かった。

俺はこいつのロリコン疑惑が確信に変わりつつあるためなんとか抜け出そうとするが、がっしりと掴まれ、全く身動きが取れない。仕方なくレヴィンに話しかける。


「あの…」

「痛かったか?安心してくれ、もう少しの辛抱だ」


……ぞっっっとした。鳥肌が立つ。

…というか、女だと分かってから明らかに態度が変わっている。やはり俺の予想は間違っていなかったようだ。


誰か助けてくれないかと周りを見渡すが、レヴィンはスラム街からの信頼も厚いようで、街の皆から会釈されている。


くそ、逃げられる気がしない。


俺はレヴィンに警戒しつつも、一旦脱出は諦めることにした。


しばらく歩いてスラム街から抜けると、急に視界が明るくなった。


暗い街との落差で、眩しさに耐えられなくなって目を細める。


そういえば、「リヒト」はずっとここで暮らしていたから、こうして明るい表通りに出るのは久しぶりだ。


仕事などで街の外に行くことがあっても、大抵はやましい状況だったため、こうしてゆっくりとこの王都を見たのは初めてだろう。


…それに、俺もだ。

前世では長いことパンデミックが続いていたため、明るい空を見ると少し心が躍る。


花屋の植物は水やりが終わったばかりのようで、水滴がキラキラと光っている。

ピエロのような格好をした客引きが、キャンディの屋台の前で子供たちに風船を配っていた。


前世では信じられないようなあまりに平和な光景に思わず目を細める。…と、笑顔のレヴィンと目が合って気持ちが萎んだ。


「キャンディ、買ってあげようか」

「いや…」


自分が不審者と同じようなことを言っているのに気がついていないのだろうか。

レヴィンがこちらに話しかけると、距離が縮まりバニラのような香水の匂いがした。


1人ならば最高の光景なのに…とため息をついていると、通りの隅の小さな建物の前で降ろされた。


「ここの2階、風呂場になってるから、ゆっくりしておいで。着替えもあるから、好きに使っていいよ。」

「でも、レヴィン…王子は?」

「僕は後でいいから、気にせず入っておいで。」

「……ありがとうございます。」


…色々言ったが、あいつも意外と紳士のようだ。確かにちょっと…いやだいぶロリコンなところはあるが、スラム街に住む人間を助ける正義感のある人間であることは間違いない。


油をあまり落とさないように気をつけながら2階に登る。

2階が脱衣所になっているようだ。


「あいつに見えた「主人公の証」のこともまた気にしないとな……っと、は!?」


誰かにぶつかった感触がして顔を上げると、そこには…裸の少女がいた。


「わわっっ…ふぅ。ごめん!怪我はない?」

「い、いやっ…ええっと…」


年はリヒトより少し年上だろうか。

金色の長い髪で、かろうじて胸が隠れて…いるのか?見えないほどリヒトの胸と少女の胸は密着していた。


慌てて身体を離そうと、上半身を反らせた瞬間…俺は盛大に足を滑らせて後ろに倒れた。


「うわっ!」

「って、ええっ??大丈夫?」


頭を床に直撃するのを覚悟したとき、少女が慌てて俺の後頭部を守ろうと首に抱きついた。


「っ、た……!」


仰向けに倒れたまま顔を上げると…少女の乳が顔面に密着していた。


「うぉっ…!!」


それだけではない。少女の一糸纏わぬ下半身がリヒトの腹のあたりに密着していた。


服越しとはいえ…これはなかなか危険な状況では?


リヒトは頭をフル回転させ、少女に聞く。


「えっ…と、ありがとう、は、離れてもらってもいいかな…」

「そんなに恥ずかしがらなくたっていいじゃん。女の子同士なんだし。」


!そうだ、俺は今女の体だった。


だからと言って、そうか、その通りだから裸で密着しても大丈夫…とは全くならない。

このままだと確実に鼻血が吹き出るか、脳がキャパオーバーして倒れそうだ。


これではレヴィンのことを馬鹿にできない。

だが…この子は発育がいいというか…少なくとも16歳くらいに見える。


そうだ、俺は断じてロリコンではない。


というか、なんで女の子がここにいるんだ?


その時、誰かが階段を登る音がした。

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