第13話 ラウストの過去 Ⅲ

パーティーに入れてもらえる、そう聞いた時僕は歓喜した。

僕をパーティーに入れると告げたのは、新人のパーティーだったが、実力の有無など僕には何の問題も感じなかった。


何せ僕にとってはただパーティーになってくれる、それだけで十分だったのだから。


いざパーティーと組むとなると、臨時のパーティーにもかかわらず、彼らは僕に非常に親切だった。

今やギルド内で虐げられている僕に対して、彼らは全く気にすることはなく、僕は彼らとパーティーを組めたことに感謝した。


……けれども、そうやって浮かれていられたのは少しの間だった。


僕がその時入ったパーティーは先程行ったように新人パーティーだ。


ーーー だが、彼らは全く迷うことなく中級者向けの最終クエストを受注したのだ。


それに僕は驚愕し、そして焦った。

彼らは僕という治癒師をパーティーに入れてしまったせいで自惚れているのではないかと思ったのだ。


だが、パーティーメンバー達は僕がどれ程そのクエストの危険性を、出てくるモンスターの恐ろしさを僕程度の治癒師ではなんの役に立たないことを伝えても全く意に介すことはなかった。

ただ、自身に満ち溢れた表情で勝算があるのだと、そう告げるだけ。


……僕は何とかパーティーメンバー達を止めようとしたのだが、自信に満ち溢れた彼らは僕の言葉など聞こうとはしなかった。


そして採集のため迷宮へと足を踏み入れてすぐ、僕たちはホブゴブリンという魔獣に囲まれることになった。

そしてその状況を予想していた僕はパーティーメンバーを止められなかった自分を責めた。

何せ迷宮は中級者以上の冒険者の狩場なのだ。

逆立ちしても新人冒険者では勝てるわけがない。


だから僕はすぐ側にある迷宮の転移陣まで撤退するように、仲間へと呼びかけようとして……



「………え?」



……次の瞬間、僕は何者か後ろから突き飛ばされ、ホブゴブリン達の方へと倒れ込んだ。


一瞬、僕は何が起きたのか理解できなかった。

後ろには魔獣なんていない。

なのに僕はたしかに後ろから衝撃を受けて、それが示す答えは一つだけしかなかったのに僕は認められなかった。


「よし、これでこいつを囮にして採集するぞ!」


「ええ!本当にこいつは馬鹿ね」


「ああ、全くだ。こんなに簡単に騙されるなんてな!」


「っ!」


……でも後ろから響いてきた言葉に僕は強制的に理解させられることになる。

僕は仲間に裏切られ、突き飛ばされたのだと。

いや違う。

最初から彼らは仲間なんかじゃ無かったんだ。

ただ僕を利用するために僕をこの場所に連れてきたのだ。

その事実に僕は崩れ落ちてしまいそうになる。

でも、それでも僕はパーティーメンバー達の誤解を解くために叫んだ。


「行くな!ゴブリンは弱いものに群がる習性があるが、ホブゴブリンは違う!」


それはギルドの文献から知った情報で、正確なものだった。

ホブゴブリンはゴブリンの上位種と言われているのだが、その習性は全く違う。


「はっ!命乞いしてるぞあいつ!」


「情けないわね!」


「いいから早く行こうぜ!おい欠陥野郎、きちんと囮しろよな!」


だがパーティーメンバーは僕の言葉を聞き入れない。

自分たちの方をホブゴブリンが見ていることにも気づかずホブゴブリンの横をすり抜けようとする。

その報酬のことで頭がいっぱいなのか、その口元に笑みを浮かべながら。



……そして彼らはあっさりと死んだ。






◇◆◇






他のパーティーメンバーが死んだ後、何とかその隙をついて迷宮から逃げ延びた僕が知ったのは一連の事件の真相だった。

先ほどのあのパーティー、彼らは決して悪いパーティーでは無かった。

数少ない町の人間にも受け入れられているような冒険者で、けれども彼らは仲間の死と、仲間が少なくなったことによる財政難で大きく性格が変貌した。


そして、遊び半分で僕を囮にすれば採集クエストは達成できると告げた冒険者の言葉を間に受け、あっさりと死んだ。


助言をした冒険者は僕に対して前々から暴力を振るっていた人間だった。

僕を殺せるかもしれないと思って適当な助言をしたと酒が入った上機嫌な様子でその冒険者は語っていたらしく、その話を僕は他の冒険者から聞かされた。


……そしてその事件に僕は大きく打ちのめされた。


初めてのパーティー、その存在に喜びと期待を抱き、だからこそそれが全て消え去った時の絶望はあまりにも大きかった。

あのパーティーを潰した男の話を聞いた後、僕は自分がどう行動したのかを覚えていない。

ただどうしようもない喪失感に僕は衝動的にギルドをを後にして走り出して……


「……ここ、は」


……そして気づけば僕は初級冒険者の狩場とされる草原に佇んでいた。

けれども、その場所はいつも狩場にやってきてソロで魔獣を狩っている僕でも知らない場所だった。

どうやら、僕は衝動的にかなり遠くの場所まで走って来てしまったようだ。

スキルがないハンデを覆すため、僕は日々体力づくりをしていたので身体を襲う疲労はそこまで強いものではない。


だが、このままここにいるは明らかに危険だった。


たしかに草原は初心者向けの狩場で、決して強敵が出るような狩場ではない。

今僕は武器を持っているし、

だがそれは表の所だけで、奥に行けば行くほど魔力が強くなり魔獣は強力かつ、大量に現れるようになる。

草原のさらに向こうに行けば、迷宮深部の魔獣にも引けを取らないヒュドラさえ現れると言われているのだから。

無論ここはそこまで危険ではない。

だけど、僕のような下級冒険者以下の人間ではこんな場所でも十分命の危険がある。


……けれども、そのことを知ってもなお僕にはこの場所を去ろうという気は起きなかった。


胸の中はどうしようもない悔しさで占められていて、それ以外はもはやどうでも良かった。

自分の身が危険であることをわかりながら、それでもどこか僕はそのことを夢を見ているかのように認識していた。

もしかしたらその時僕の頭は、強い衝撃に思考を停止していたのかもしれない。


「ぁぁぁぁあ!」



「っ!」



ーーー しかし、その時少し距離があるところから響いた叫び声に僕は我に帰ることになった。


「ゴブ、リン?」


そしてその時ようやく僕は少し離れたところにゴブリンの群れが集結していることに気づいた。

どうやらゴブリンは中に幼い少女のいるらしい、貴族の馬車のようなものを襲っているらしかった。

一瞬僕はなぜこんな場所に貴族の馬車が、それも幼い少女が乗っている状態であるのかという疑問を抱く。

だがそんなことを悠長に考えている暇などなかった。

今はまだゴブリン達は馬車に夢中で僕の存在に気づいていない。

けれどもいつ見つかるかもしれず、逃げるなら今しかないのだ。

そう僕は判断して。



「ーーーっ!」



次の瞬間、馬車の方向へと僕は走り出した……

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