「あらぁ〜♡ 」で始まるふたりの異世界無双〜百合カプ厨の女神に貰ったスキル「てぇてぇパワー」が強すぎる〜

日向 首席

第1話 変わらない日々、大好きな君

夕方の穏やかなオレンジ色の日差しが差し込む放課後の教室。

そこにいるのは、私と、私の親友である暁月空音の二人だけ。いつもはクラスメイト達の会話で賑やかな教室が、嘘みたいに静まりかえっている。

夕日に照らされた空音の顔は、明るくおちゃらけたいつもの空音の笑顔とは違う。

照れ臭そうに頬を赤く染め、視線は私を避けるように斜め下に泳いでいる。


そんな空音の姿を見ていると…………いや、私の方も、空音を直視できない。

頬が熱い。きっと今の私の顔は、夕日のせいにも出来ないくらい真っ赤だ。

二人の緊張で静まり返った教室に、自分の心臓の鼓動だけが響いていく。


「――――あのね、琴葉……」

しばらく続いた静寂を、空音の声が破った。


「……う、うん。な、なに、空音……」

声がひっくり返りそうになりながら、なんとか言葉にして返す。


「…………私ね、琴葉のこと……」

「う、うん……」


「す―――――起きて」


…………え?


「起きて…………起き……おーきーて!おーきーて!」


??え、は?ちょっと、何これ。待っ…………―――――








「―――――おーきーて!!おーきーて!!」

「んん…………あ……え?」

「あっ起きた!もう、こんな朝から寝てるなんてさあ。どーせ昨日も夜遅くまでゲームやってたんでしょ?」


―――――うまく開かない目を擦りながら辺りを見回すと、そこは、爽やかな朝日の差し込む教室だった。そして周りでは、クラスメイト達が楽しそうに会話をしていて、教室の中は賑やかな空気に包まれている。

……私はそれを見て、全てを察した。


「夢か……」

「へ?夢??」

「あ、ううん、こっちの話。空音には全く関係ないことだから気にしないで。ていうか、なんで当たり前のように違うクラス入ってきてんの」

「いいじゃん、まだ朝のホームルームも始まってないんだし。それより、夢ってなに?琴葉、どんな夢見てたの

「……ひみつ」

「え~、なにそれ!」

「いや、言える訳ないでしょ……」

「??なんで?」


……言える訳がない。あんたに告白される夢、なんて。そんなの、むしろ私から空音に告白してるようなものだ。

そう。私は今、幼馴染の空音に、密かに恋心を抱いているのだ。友達としての好きではなく、恋愛的意味で好きなのだ。女の子同士なのに。


中学生の最初くらいまでは、普通に友達として好きだった。親同士が知り合いで、物心ついた時から知っている、いわゆる幼馴染ってやつ。人見知りで、友達付き合いが苦手な私にとっての唯一の友達で。いつも隣にいてくれて、楽しい時もつらい時も、ずっといっしょに過ごしてきた。……つもり。

でも、私と違って明るくて人懐っこい空音は、やっぱり友達もそこそこ多いらしい。そして、だんだん私以外の人といる時間が多くなってる気がして……。嫉妬やら独占欲やらいろいろと拗らせた結果、気づいたら空音のことを見る目が変わってしまっていた。……あんな夢を、何度も見てしまうくらいには。


「ねーえ、琴葉ー?だんまり決め込む作戦?別にいいじゃん、夢の内容くらい教えてくれたってさあ。気になるじゃーん」

「や」

「なんで」

「や」

「なんで!」

「やだったらやだ」

「なんでったらなんで!……わかった、どーせ大した内容じゃないんでしょ。そんで無駄にもったいつけて、私の反応見て楽しんでるんだ。そうでしょ!」

「……さあね。てかもうわすれた」

「あっ図星だね!へへへ、琴葉のあっさーーーい考えなんて、私にはまるっとお見通しなんだから!残念だったね!」


そっぽを向いて窓の外を見つめる私の後頭部に、空音がいつもの煽りを入れてくる。……ちょっとむかつくが、ごまかせたからよしとしよう。


「で、今日はどうしたの?」

「そうそう!ねえ、聞いてよ琴葉!昨日始まった新しい恋愛ドラマがさ、超超ちょーーー最高だったんだよ!ほらこれ、琴葉も見てよ。そんで来週から一緒にリアタイしよ!」


空音は目を輝かせながら、そのドラマのメインビジュアルが移ったスマホの画面を私に突き出してくる。

空音は、恋愛系の作品が大好きだ。ドラマに映画に漫画、最近だと恋愛リアリティショーまで。そしていろんな作品を見ては、執拗に勧めてくる。その相手が、自分のことを恋愛対象として見ているとも知らないで。


「うんうん、見る、見るよ」

「それ絶対見ないやつ!ねえ琴葉、たまには恋愛の勉強もしないとだよ!ゲームやってばっかりじゃ、いつまで経っても恋人なんてできないよ?」

「…………。空音だって、まだ一度も彼氏出来たことないくせに」

「私は作ろうと思えばいつでも作れるもんね!どこぞの琴葉さんを置いてけぼりにしないように、成長するのを待ってあげてるって訳よ」

「あっそ、それはどうも。…………。ていうかさ、そんなに言うなら空音が拾ってよね。このどうしようもない可哀想なコミュ障をさ」

「あはは!琴葉が男の子だったら考えてあげたんだけどな~」


冗談っぽく笑う空音に合わせて、私もはははと笑う。

ま、こんなんで伝わるとは思ってないけど。というか、本気で受け取られた方が困る。今の会話から分かるように、空音にとって、恋愛とはあくまで異性同士でするものであり、女の子同士での恋愛なんてありえないのだ。


「ねえ、今日琴葉の家で一緒に見ようよ。私ももっかい見たいし、誰かと語り合いたいからさ」

「え~……。遊ぶんならゲームしたい」

「いっつもそれじゃんかあ。ゲームも楽しいけどさ。あっそうだ!どっちもやればいいじゃん!ドラマ見て、それについて語り合いながらゲームしよ!」

「いやそれ集中できないでしょ。行動が渋滞してるから。Z世代か」

「いやZ世代だよ!」

……と、私達が笑い合っていると。

廊下から、知らない女子達がこっちに声をかけてきた。


「おーい、空音ちゃーん!」

「教室行こー」

「あっ!玲奈ちゃんに美月ちゃん!」

「……あ」


あれは、空音と同じクラスの人だ。たまに一緒にいるところを見かける。


「ごめん琴葉、私もう行くね。じゃ、また放課後ね!」

「ああ、うん。いつもの校門前で待ってる」

「おっけ!じゃあね、寂しくて泣いちゃだめだよー!」

「はいはい。いってらっしゃい~」


私が言い終わるか言い終わらないかくらいで、空音は友達の方へ走って行ってしまった。……私以外の友達と話し、笑い合っている空音の姿が見える。


そのまま視線を教室前方の時計に移すと、針は午前八時三十五分。朝のホームルームまではまだあと五分ある。私は再び机に伏せた。

……はぁ、と、腕の中で小さくため息を吐く。

私のいないところで、空音は別の友達と楽しそうに過ごしてるんだろうな……とか、そんな女々しすぎることを考えてしまう自分が嫌だ。私がコミュ障で勝手にぼっちになってるだけで、空音の方が普通なのに。


……はぁ。また一つため息が出る。

今日もまた、憂鬱な一日が始まってしまった…………。











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