第11話 わたしは失政などしていない

 国王陛下とオーギュドリュネ殿下は、わたしがボワデシャール公爵家で失政をしたと言っている。


 この方々は何を言っているのだろう?


 わたしは一年ほど前にこの世を去った父親の後を継いで、ボワデシャール公爵家の当主になっている。


 領民というのは、ボワデシャール公爵家、それもその当主に尽くす為に存在をしているのだ。


 わたしが贅沢をする為に、重い税を取り立てて何が悪いのだろう?


「お言葉ですがオーギュドリュネ殿下。領民というのは、わたしに従わなければならない存在なのです。わたしの思い通りに動く存在で、わたしが贅沢をしたいと思えば、その意に沿って動く存在なのです。それで領民の生活が苦しくなろうが、わたしには関係がありません。国王陛下もオーギュドリュネ殿下も、この王国の国民に対しては、同じ思いを持っておられるものと思っています。それなのに、なぜわたしの行った政治を失政だと言うのでしょうか? わたしは全く理解ができません」


 わたしは力強くそう言った。


 国王陛下もオーギュドリュネ殿下も言葉を失っているようだ。


「どうです。わたしの言葉に対して、異論はございますか?」


 わたしは、ここでの論争の勝利を機に、反撃を行い、最終的には婚約破棄の撤回にまで持っていこうとしていた。


 時間はかかることは予想されるのだけれど、それは十分可能だと思っていた。


 しかし……。


 オーギュドリュネ殿下は、


「きみがそこまで政治というものを理解していないとは思わなかった。きみは王妃になる為の教育の中で、領地経営についても勉強をしていたと聞いていたのに……。父上もわたしも、国民の幸せを第一に考えて動いている。きみのように、自分の贅沢を第一に考えるようなことはしていない。こんな政治の初歩出来なこともきみは理解をしていないのか……。わたしはなぜこのような人を今まで婚約者としてきたのだろう……」


 と頭を抱えながら言った。


 わたしはだんだん笑いが込み上げてきていた。


「オーギュドリュネ殿下、どうしてあなた様は建前ばかり言うのです? 為政者しか大きな贅沢はできないのでございます。あなた様だって、贅沢をしたいと思っていますでしょうに。実際オーギュドリュネ殿下も、わたしほどではないのかもしれませんが、十分贅沢をされていると思っております。いや、わたしよりも上のお立場ですから、今よりももっと贅沢をしたいという思いがあるとわたしは思っております。それなのになぜずっと建前で話をし続けているのです。わたしには理解ができません。オーギュドリュネ殿下とあろうお方が、それでよろしいのでしょうか?」


 そう言うと、わたしは高らかに笑った。


 先程までと違い、出力は百パーセントに近い。


 わたしの贅沢を止めたいというのなら、まずオーギュドリュネ殿下が質素な生活をするべきなのだ。


 わたしほどではないにしても、王室の人たちは、食事も服装もそれなりに豪華。


 そうでないと自分たちの威厳が保てないとオーギュドリュネ殿下は言っていた。


 ではわたしは威厳を持たなくてもいいというのだろうか?


 そんなことはない。


 いや、むしろ、わたしは王妃になっていくのだから、今よりもっと贅沢をする必要がある。


 そういうことぐらいは理解してほしいものだ。


 それ以前に建前ばかりだと疲れないのだろうか?


 理解が難しい人たちだ。


 これからも対応に苦労しそうだ。


 わたしとしても嫌な気持ちになる。


 でもそう思っているだけではどうにもならない。


 こういう時は、豪快に笑うのが一番だ。


 わたしはそう思い、高笑いをしていたのだった。

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