第5話 婚約者を寝取られ、婚約を破棄されたわたし
オーギュドリュネ殿下は心を整えた後。
「ルナディアーヌよ、今日ここに、きみの継母とルゼリアに来てもらったのは、わたしの婚約のことだ」
と言った。
婚約のこと!
ということはわたしとの婚約破棄ということでは……。
いや、そんなことはないはず!
わたしはオーギュドリュネ殿下の次の言葉を待った。
その待ち時間は。ほんのわずかのものでしかでしかない。
しかし、わたしにとっては途方もない長い時間のように思えた。
緊張の一瞬。
オーギュドリュネ殿下は、もう一度心を整える後。
「わたしオーギュドリュネは、ボワデシャール公爵家の令嬢であるルナディアーヌとの婚約を破棄する!」
と言った。
冷たくて厳しい言葉だった。
ついにこの言葉がオーギュドリュネ殿下から発せられた。
予想はしていたとはいうものの、わたしにとっては大きな打撃を受ける言葉だった。
しかし、それだけではない。
オーギュドリュネ殿下は続けて、
「わたしの新しい婚約者は、ここにいるルゼリアだ。わたしはとても魅力的で、素敵な女性であるルゼリアのことが好きになった。ルゼリアはわたしと仲を深めていくことに対して、わたしよりも積極的で、今やわたしはルゼリアのことで心の中が一杯になっている。きみと違って、ルゼリアはわたしの婚約者としてだけではなく、将来の王妃としてふさわしい女性。明日の舞踏会でルゼリアを婚約者として披露することにする」
と言った。
ルゼリアがオーギュドリュネ殿下の婚約者ですって!?
このことは全く予想していなかったわけではない。
でも実際オーギュドリュネ殿下の口から発せられると、打撃は大きい。
わたしの婚約破棄、そして、ルゼリアの婚約。
このことにより、わたしはルゼリアに、婚約者であるオーギュドリュネ殿下を寝取られてしまったことを認識せざるをえなかった。
寝取られるということ。
それは、わたしの心を壊していくものだった。
そして、わたしの人生は一気に壊れていく。
いや、そんなことを言っている場合ではない。
オーギュドリュネ殿下の婚約者はわたしだ。
寝取られたことにより、わたしの心は大きな打撃を受けている。
しかし、今はそのことは考えないようにしなければならない。
反撃し、その地位を維持しなければならないのだ。
ルゼリアに婚約者の地位を奪われてなるものか!
わたしは、
「オーギュドリュネ殿下ともあろうお方が、何をおっしゃいます。冗談も大概にしてくださいませ。今まで、王妃候補としての教育を受け続け、魅力一杯のわたしに対し、ルゼリアはそういった教育は受けていないままここまできています。そして、何と言ってもわたしに魅力の面では遠く及ばない存在でございます。そうしたものを婚約者にするとおっしゃるとは……。冗談と受け取らないのであれば、どう受け取ればいいのでしょう?」
と言って笑った。
さすがに高笑いは抑える努力をした。
婚約破棄とまでオーギュドリュネ殿下は言っているので、冗談ではなく、それが本気の可能性もあると思ったからだ。
それでもところどころでその笑いは高笑いになるのは避けられなかった。
わたしは、話を続ける。
「わたしの婚約を破棄し、ルゼリアと婚約を結ぼうとするという冗談は、今すぐにで止めていただき、わたしに謝ってくださいませ。いくらオーギュドリュネ殿下といえども、おっしゃって良いことと悪いことがございます。オーギュドリュネ殿下はこれから国王陛下になっていく存在でございます。そのオーギュドリュネ殿下が王妃になっていくわたしに対し、笑えない冗談を言うのは、良くないことだと思っているのでございます、何と言っても国民に対して示しがつかないと思うのであります」
これだけ言えば、オーギュドリュネ殿下も少しは反省するのでは?
そういう期待があった。
しかし……。
「ルナディアーヌよ。きみはわたしに歯向かうのかね?」
オーギュドリュネ殿下は厳しい表情で言う。
「オーギュドリュネ殿下に歯向かうだなどと、そんなことは全く思っていません。ただ、冗談はおっしゃらないでくださいと申しているのです。第一、オーギュドリュネ殿下はわたしの何がご不満なのでしょう? わたしにはよくわからないのです」
わたしがそう言ったのに対し、オーギュドリュネ殿下は、
「きみは、自分というものが全く理解できていないようだな。先程わたしは、きみのことについて、少し話をしたつもりだったのだが、全く理解できていないようだ。あきれてものが言えない」
と言う。
あきれたなんて、どうしてそういうことを言うんだろう?
わたしに対し、
「傲慢な態度をいつも取っている」
と言っていた気はする。
それが不満だと言うのだろうか?
しかし、わたしの場合、それは傲慢な態度を取っているのではなく、気品のある態度を取っているということなのだ。
そこをなぜ理解できないのだろう。
わたしはだんだん腹が立ってきて、
「オーギュドリュネ殿下、そのようにおっしゃるのであれば、わたしのご不満なところを教えていただきたいと思います、最初に言っておきますが、わたしは傲慢な態度は取っておりません。気品のある態度を取っているのでございます。これをご不満に思われるのは心外でございます」
と少し厳しい口調でオーギュドリュネ殿下に言った。
するとオーギュドリュネ殿下は、
「そこまで言うのであれば、わたしも言わざるをえない。本当はきみが自分で気がついてほしかった。でも仕方がないところだな」
と少しガッカリした様子で言った。
しかし、すぐにそれを立て直していく。
オーギュドリュネ殿下は、
「これはわたしだけが思っていることではない。多くのものたちが言っていることだ」
と言った。
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