第19話 愛桜とほろ酔いハイテンション 上
何となく不完全に終わった
それが、僕と愛桜の大学時代のインカレサークルの同期である、ダニエルと三人で会うことだ。
会社内で愛桜との間に流れてしまっていた、重苦しい雰囲気を吹き飛ばす絶好の機会かもしれない。
ダニエルは、日本人の母とアメリカ人の父を持つ高身長の男だ。
いつも仕事で世界中を飛び回っているのだが、この夏日本に一時帰国していた。
ずっと愛桜とダニエルと三人で会おうという話は出つつも、何かとプレゼンの準備に忙しくしていて、一次選考が終わるまで待ってもらっていたという状況である。
愛桜と十九時ごろに会社を出て、高そうなホテルとビルの群れを潜り抜けて、会社の最寄り駅である東京駅(大手町駅)から地下鉄に乗り込んだ。
金曜日というのもよかったのだろう。
一旦、仕事のことが頭から離れれば、愛桜もいつものように明るい雰囲気を取り戻して僕と気楽に会話ができた。
ただ、会社での不安な空気を押し流せた反面、愛桜の悩みにもう一度焦点を当てるのが難しくなってしまった気もして、少し心配は残る。
道中、愛桜はダニエルと久しぶりに会うことに少し緊張している様子で、胸の前で組んでいた指を何度も組み替えていた。
ちょっと気になって、いつもより柔らかい雰囲気を出すように心がけながら、横に座っている愛桜に声をかける。
「大丈夫? 愛桜、ダニエルのこと覚えてる?」
「さすがに覚えてるよ! とは言いたいところだけど、実は三年くらいぶりだから不安ではあるかな」
「それはそうだよな」
「SNSでたまに連絡は取ってたんだけどね」
ダニエルは、どんな投稿をしているんだろうか。
ふと気になってアプリを起動し、愛桜と一緒に携帯電話をのぞき込む。
**
ダニエルッ @Daniel_JJJ 二時間前
HAHAHA! つみたてN〇SAは新興国の株式に全ブッパするぜ!
[返信] [いいね] [引用コメント]
**
うん。投稿を見るに、学生時代から全然変わっていないようで安心した。
そこは母国の一つの米国株じゃないのかよ。というか、積立投資で大穴を狙うな。堅実にいけ。
まあ、そこがダニエルの良いところではあるのだが。
愛桜も気に入ったのか、僕の携帯電話を勝手に操作して、フフッと笑いながらこの投稿に「いいね」を押していた。
「あー、おかしい。ダニエル、完全にノリが学生のころのままだね」
「でも、これで分かっただろ? あいつと会うのに緊張するだけ無駄だって」
「間違いないね。もっと楽しみになってきたよ」
それはよかった。
ダニエル側も何も考えていないだろうし、これくらいの楽な気持ちの持ちようで大丈夫なのだ。
愛桜と一緒に東京メトロ丸の内線に揺られながら、ダニエルの待つ池袋駅へと向かう。
さて、ダニエルと待ち合わせるのは簡単だ。
理由は単純に、背が高くてよく目立つから。よく、ダニエル自体が待ち合わせ場所にされている。
駅構内の無駄に分かりづらいところに設置してある、イケフク〇ウに出番なんて無いのだ。
今日も立派にランドマークの役割を果たしていたダニエルが、こちらに気づいて手を振ってきた。
「よーう! 二人とも久しぶり! 愛桜はほんとに久しぶり!」
「やっほ。元気にしてた?」
「ははっ! 見ての通り、元気モリモリだ!」
「うん……。この短時間でよく伝わってきたよ……」
二人は昔のように、自然に会話できているようで安心した。
ちなみに、愛桜がじゃっかん引き気味だが、これはいつものことなので問題は無さそうである。
しばらく話していたら予約時間ギリギリになってしまったので、駅から徒歩五分の商業施設の屋上にある、バーベキューテラスへ走って向かった。
残暑の厳しいなか、網にいっぱいの肉を焼き、流し込む冷たいビールは格別である。
なんというか、大人になると「人と会ってやること」の選択肢が「お酒」に
それが悪いわけではないのだが、ファミレスで永遠に駄弁るとか、公園に集まって鬼ごっこをするみたいなことはもうできないのかと思うと、少し寂しい。
今やるとしても、きっとどこかでお酒の要素が入ってくるんだろうな。
ファミレスでドリンクバーを割り材にしてカクテルを作るとか。ス〇ゼロの三五〇mlの缶で缶蹴りやるとか。
後者のイカれた所業はおいておいて、前者のファミレス飲みはコスパ最高なので本当におすすめしたい。
サイゼ〇ヤでは、一人数千円でテーブルいっぱいのつまみと、そこそこおいしいワインが楽しめるのだ。
あの時のワクワク感はそれこそ、まるで子どもの頃に戻ったかのような気持ちになれる。
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今回もお読みいただきありがとうございます。
次の更新は、11/28 or 29 を予定しています。
[2024/1/2更新]
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