第二章、異世界 第21話 異世界
異世界にゲートを繋げて化け物達から逃げおおせる事が出来た僕達。
だが時間の関係で完全では無かった転移によってタイムラグが生じ、転移場所にもズレが生じた。そのせいで先に渡った国分さん達と離れ離れになってしまった様だ。
だが悪い事ばかりではない、僕の中で魔導書の封印が解けた事が分かった。これで魔導書に載っている全ての力と魔導具が呪文や道具類無しで使える様になった。
やはり異世界へ渡る事が封印を解くトリガーだった様だ。
しかし今はこの現状の打破が最優先。僕達が転移したのはどこかの草原のど真ん中。見渡す限りの範囲には建物はおろか人の気配すらない。
「…… まいったね、国分さん達を探そうにも、歩けど歩けど草花以外見当たらない…… 」
「うう……疲れましたニャン……」
僕達以外には動物も魔物さえ居ない草だけの草原。そんな場所をもうかれこれ1時間以上は歩いている。
休み休み歩いて来たためさほど疲れは溜まっていないが、喉の渇きは如何ともし難い。
だが僕は何かあった時の為にと、アイテムボックスに一年分の食料と水を入れてある。なので当分の間は食料事情は安泰だ。
歩き慣れていないニャトランはどこで仕入れたのか、木の棒を杖代わりにして歩いている。
国分さん達に魔導具を渡している現状で魔物の襲来は避けたいところだったが、その魔物すら居ないのだ。
そんな未だに終わりが見えない草原を、ニャトランの勘を頼りに進んでいく。ニャトランは凶運のスキルの持ち主だ。少し心許ないが、今は彼の勘に縋るのがベストだろう。
そして彼の勘を頼りに更に30分程歩いただろうか、辺りが夕焼けに赤く染まる頃、僕らの視界に比較的流れの緩い川が見えて来た。
「川か、何だろう不思議な感じがする川だな……」
目の前を流れる川に魔導具が反応し不思議な感覚を感じる。
(安全と分かるまでは川の中には入らない方がいいかな……)
「ニャッハ〜! 水ですニャン!!」
そんな僕の心配なぞ知った事かと言わんばかりにニャトランが、川に飛び込みその水をガブ飲みしだした。
「…… 」
ま、まあ野良猫なんかは水溜りの水でも平気で飲むし、ニャトランも一応は猫だし……
だが彼の相棒のタマさん(大きく成った時からさん付けで呼んでいる)は、川の水に口を付けようとはせずに、川ではしゃぐニャトランを冷めた目で見ている。
我が家の浄水器で綺麗に濾過された水を飲み慣れているタマさんには、この川の水は抵抗がある様だ。
僕はタマさんにペットボトルの水を与える。ニャトランは…… 要らないだろう。
「今は先を目指そうか……」
この川の幅は7〜8メートル程。深さも50センチ程で、流れが緩いので渡ろうと思えば時間はかかるが渡れそうだ。
だが先程から感じている違和感が拭い去れない。
僕がどうしたものかと思考を巡らせいる時、対岸に動きがあった。川の対岸に鉄製の鎧を纏い、剣や弓などで武装した4人からの集団が現れたのだ。
統一された鎧と武器から何処かの兵士だと思われるが……
その集団が僕達に気付いたのかこちらに近付いてくるのだ。この世界に来て初の人間だが、彼等は完全武装をしている。
「…… (川越しとはいえ警戒は必要かな)
僕は密かにアイテムボックスから"セプテム.アイ''という、7つの煌玉がついた腕輪を取り出し自身の腕に装着した。
シンプルな白銀色の腕輪に1センチ程のカラフルな煌玉が7つ埋め込まれた、一見チープにも見える作りの腕輪だ。装着した途端にその扱い方などが分かった。
身を守るための防御の魔導具は、国分さんに渡してしまっているため今は無い。護身術程度に武術は使えるが相手は4人、それも異世界人だ。何か特殊な能力を使えるかも知れない。
そうなればにわか仕込みの護身術では心許ない……
魔導具用の素材はお祖父ちゃんが集めた物がまだ残っているため、低ランクの物なら作ろうと思えば作れる。だが魔導具作りは安全な場所で、それなりの設備がなければ出来ない。
それにこの"セプテム.アイ''は攻撃用の魔導具で、お祖父ちゃんが「本当の危機が迫った時以外は使うな」と言っていた秘蔵の品なのだ。
地球に居る時は封印されていて使えなかったが、こちらの世界に来てから封印が解けた様で、使う事が出来る様になった。
きっとお祖父ちゃんも、僕が異世界へ渡る事になると想定していたのだろう。世界を渡った事に反応し使える様になっていたのだ。
という事はお祖父ちゃんは僕が異世界に行く事を想定していたという事になる。気にはなるが今は近づく現地人の対処が先決だ。
この魔導具セプティム.アイの効果は火炎、氷結、重力、疾風、迅雷、極光、漆黒の能力が備わっている7つの煌玉を、装備者の意思で自在に操る事が出来るというなんとも男心を擽る魔導具だ。
この煌玉一つで、魔法で云うところの上位魔法に匹敵する威力がある。それが3発分、お祖父ちゃん曰く、「魔法が使えない者でもそれと同等以上の効果を得られる魔導具じゃ」との事。
どんな悪意にでも自動で反撃、迎撃する神話クラスの"カウンター.マリス''には劣るが、この"セプテム.アイ"も伝説クラスの強力な魔導具で有る事は間違いない。
それでも僕達に迫ってくる彼等が何者か分からない現状では、身を守るための手段は必要だろう。
まあ人間相手には脅し程度に留めておくつもりだが。
「おい! お前達!! こんな時間にレーヌ川の対岸に居るなんて、何を考えているんだ!?」
そんな警戒する僕等に怒鳴る様に話しかけてきたのは、集団の中で先頭を歩いていた赤毛の男。
何故かは分からないが彼等は僕達が対岸にいる事を酷く怒っている様子で、早く戻って来いと周りの者も口々に叫んでいる。
因みに彼等の言語は魔導書に有った異世界言語の翻訳能力で分かった。
「?? 川のこちら側に居ると何が悪いんだ?」
「さあですニャン?」
僕達がそんな事を考えて居ると、いつの間にか辺りが夜の闇に染まって居る事に気付いた。
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