オオカミモリノアカズキン

冬生まれ

1

家の近くの森へ出掛けるとき、母はいつも私に言うの。


「狼には気をつけなさい」


って。


でもね、おかしいのよ?


この森には、むかしから沢山の狼がいるわ。


私の家の庭先にも。


川を越えた花畑にも。


林道や山道、山の上にも。


彼等はみんな、昔からの顔馴染みなの。


私に食べられる木の実や花の在処を教えてくれたのも彼等よ?


それに母は知っているわ。


私達が仲良しだってことも。


ねぇ、おかしいと思わない?


なんで急に母がそんなことを言いだしたのか……。


「あぁ。そうだなぁ」


目の前の彼は静かに告げると、私の頬をベロリと舐めた。


「ちょっと、私は真剣に訊いているのよ?」


怒りを露わにすると、彼は笑って頭を撫でる。


「ハハハ…それはすまない」


「じゃあ貴方も真剣に考えて!ねぇ、どうしてだと思う?」


「…そうだな」


彼は少し考えた素振りをして私をチラリと見た後、口角を吊り上げながら呟いた。


「お前が……大きくなったからだろう」


「私が大きくなったから?」


「あぁ」


彼は私の頭を撫でると、鼻先を近づける。


「大きくなったらなんで気をつけなくちゃいけないのよ。それって子供に言うことでしょう?」


「そうだな。子供は拙くて脆いから……」


「でしょう?でも、私はもう16よ?」


銀色の毛並みを撫でながら告げると、彼は私の手に擦り寄り、甘える様な仕草をする。


「大人には大人の危険があるんだよ」


「大人の危険…?」


彼は私の瞳を見つめて静かに笑う。


「あぁ。女性は特に、だ」


月の様に輝く瞳は、私を捕らえて離さない。


「ねぇ、その危険って……?」


私は興味本意で聞いてみた。


「知りたいか?」


彼は鋭い牙をむき出して、私の首に歯を突き立てる。


「……えぇ、教えて…?」


私は目を瞑り、喉を鳴らした。


「フフフッ。どうなっても知らないぞ?」


彼は腹を空かせた狼の如く、私の躰を貪った。

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