翠のヤモリ、優しくない世界を死ぬ気で生き抜く。

風宮 翠霞

プロローグ

 幸せだったと、思う。


 本当に山奥の田舎で、あまり便利なところではなかったけれど。


 決して、裕福ではなかったけれど。


 ごく一般的な幸福を、感じられる生活だった。


 私の町は人が少なくて、住民にはお年寄りが多い……いわゆる『限界集落』というような過疎地域だった。

 

 だからという訳ではないかもしれないけれど、私みたいな数少ない若者は、町の人達にとても可愛がってもらえて嬉しかった。


 何回か怖い目にもあったけど、それでもそれなりには幸せな生涯だった。


 ただ……こんな終わり方は、ないと思うんだ。


「あ〜……うん、仕方ないね」


 そんな言葉を聴きながら、死ぬなんて。


 たくさんの幸福な思い出と……そんなモヤモヤとした気持ちを抱えながら。


 ……私は、近づいてくる明るい光に焼かれて、短い生涯を終えた。




 ◇




 ん……暗い。真っ暗だ。何も見えない。あと狭い。


 どういう状況かはよくわかってはいないが、とにかく出来るだけ早く、この暗くて狭い空間から出なくてはいけない事だけはわかった。


 とにかくなんとかしようと、私は全身に力を入れて、必死で体をひねる。


(んぬぅ……!!)パリパリッ。


 お、こんな感じで良いらしい。

 卵にヒビが入るような音がして、空間が少し広くなり、光を感じた。


(んぬぬぬぬぅう……!!)パリパリパリッ。


 更に光を感じる。なんとなく、あと少しだと思った。


(せーのっ!!むぐぅっ……!!)パキンッ。


(やったぁ……!!さぁて、どうなっているのかなっと……?)


 やっとの思いで、暗くて狭い“どこか”からい出た私の目に映ったのは……


(げ、下剋上げこくじょうだぁああ!!超デカい蜘蛛くもが超デカいヘビをってるぅうう!!)


 自分の数百倍の大きさはあるであろう捕食者ヘビ被食者蜘蛛の間に起こった、盛大な下剋上の様子であった。


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