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あんずは歌を歌うまでずっと黙ったままだったので、先生に言われて歌を歌い出したあんずの歌声を聞いて、みゅうは本当にびっくりした。こんなにびっくりしたのは、本当に久しぶりのことだった。(あるいは、もしかしたら生まれて初めてかもしれない)
……、もう一度、あんずの歌が聞きたい。そんなことをみゅうは思った。
そう思ってしまう気持ちと、もう会いたくないと思う気持ちがあった。(みゅうの中でカフェオレみたいに混ざり合っていた)
みゅうはランニングコースを走り始めたところまで戻ってきた。そのゴールのところに、小さな休憩小屋のような建物があるのだけど、その前のところに、一人のみゅうと同い年くらいの女の子がいた。上下とも白い大きめのジャージを着ている髪の毛の長い背の高い女の子だった。その女の子の姿を見たとき、みゅうはその女の子にあんずの姿を重ねてみた。(あんずによく似ていたのだ)
そして実際に大きな自然公園の中をぼんやりと見ていた女の子がこちらに顔を向けたとき、みゅうはその女の子の顔を見てとっても驚いた。なぜならその女の子は、本当にあんずだったからだった。(びっくりしすぎて、思わず世界の時間が一瞬止まったかと思った)
あんずもゆっくりと走ることをやめて、じっと自分を見ているみゅうに気がついたみたいだった。あんずはみゅうを見つけると、ゆっくりとジャージの上着のポケットに両方の手を入れたままで、歩いてみゅうのところまでやってきた。その間、みゅうはあんずから目を逸らすことができなかった。
「こんにちは」とあんずは特徴のある美しい羨ましい声でみゅうに言った。
「……、こんにちは」とみゅうは普通の声でそう言った。
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