第17話 モヤモヤ

「えっ!?」

「嘘、嘘、冗談。でもさ、田崎は山口のことといい、彼氏のことも、Kazukiのことも……なんかこう、人間関係いろいろ抱えてるよね」

「ですよね……」


 たまきは、美和子には何でも相談できていた。年上の頼れる存在であるし、面識のない美和子に話すほうが客観的な意見がもらえる気がしていた。

 たまきは、サバサバした美和子からして見れば、優柔不断な自分はダメなやつに見られてしまっているかと思っていたのだが、人間関係をバッサリ切れる美和子にだって、それはそれで苦労があるらしい。


「逆ギレされて、修羅場になったりするから」


 美和子は、過去の出来事を笑って振り返る。


「だから、意外とユージューでもさ、時間が解決してくれるってこともあるよ」


 たまきは、美和子のその言葉が、じんわりと胸にしみた。悩んで悩んでどうにもできなかった気持ちが、ちょっとだけ軽くなったような気がした。



 飲みを終えて、自転車を引いてアパートに帰ってきたたまきは、駐輪場に自転車を停めた。

 前カゴからカバンを取り出し、何気なくスマホを手に取る。

 画面には、Kazukiからのメッセージが並んでいた。


【マジムカつく】

【あの言い方!!】

【何様!?!?】


 たまきは、大きく息を吐く。気持ちが一気に沈んだ。

 心のダメージを無視して、とりあえず今日はお風呂に入って早く寝てしまおうと、アパートの入り口に向かっていた時だった。

 手に持ったままのスマホが震えた。

 近藤からの着信だった。

 心臓がドクンと跳ね上がる。

 画面をじっと見つめ、迷いながらも、たまきは通話ボタンを押した。


「……はい」

「やっと出た」


 近藤の声には、苛立ちがにじんでいた。


「うん」

「あのさ、なんでシカトしてんの?」


 これまでに数回、近藤から着信があったが、たまきは出られずにいたのだ。


「それは……」

「俺のこと嫌いになった?」

「嫌いっていうか……」

「もういいわ」

「え?」

「もう終わりにしよう、俺たち」

「……」

「お前は別れたくないかもしんないけど、俺は限界。じゃな」


 ブツっと電話が切れた。たまきはスマホを見つめたまま、しばらく動けなかった。



 アパートの自室に戻ったたまきは、電気もつけず、そのまま床に座り込んだ。涙が溢れ出してくる。これでよかったんだ。これでよかった……。そう思っても、自分の気持ちを伝えられずに終わった恋は、ちゃんと燃えきらなかった焚き火みたいで、

胸の奥でくすぶり続けていた。



      ◇     ◇     ◇     ◇     ◇   



 その日はのぞの誕生日で、たまき、ちな、かおるん、ゆりゆりの4人はデパートにプレゼントを買いに来ていた。

 悩みに悩んだ末、ようやく贈り物が決まり、あわせてメッセージカードも購入した。

 のぞとの待ち合わせ時間、18時まであと20分。

 みんなでカードを順番に回して、メッセージを書いていく予定だ。

 たまきは、ペンケースの中からお気に入りのボールペンを取り出そうとした。けれど、見当たらない。入っているはずの場所にない。


「どうした?」


 隣にいたちなが気づいて声をかけてくる。


「ボールペンなくて……」


たまきは、カバンの底を探り始めるも、やはり見つからない。


「貸すよ」


 ちながそう言って、ペンを差し出してくれたので、たまきはそれを借りてメッセージを書いた。


【誕生日おめでとう! プレゼント、気に入ってくれると嬉しいな♪】


 たまきは、当たり障りのないことしか書けてないなぁと思いつつも、もう時間がなかった。

 カードをプレゼントに添え、たまきたちは待ち合わせ場所へと急いだ。



 のぞの誕生日会は、お酒も入り、みんなの笑い声が絶えなかった。

 お皿の上の料理がひと段落ついた頃合いで、店員が運んできたのは、彩り豊かなバースデーケーキだ。

 そのタイミングで、たまきが立ち上がり、みんなを代表してのぞにプレゼントを手渡した。


「のぞ、誕生日おめでとう!」

「わー、ありがとー!」


 包装を開けると、中から出てきたのは上品なデザインのヘアミスト。


「嬉しい〜! めっちゃいい匂い〜!」


 のぞは目を輝かせながら、さっそく髪にワンプッシュすると、ふわっと優しい香りが広がった。


「今日ね、ちなからいい匂いするな〜って思って聞いたら、ヘアミストつけてるって言ってて」

「で、それいいじゃん!ってなって」


 たまきとゆりゆりが順に説明すると、ちなとかおるんも続く。


「あ、もちろん、私が使ってるのとは別のブランドだよ」

「ガキさんからもらったんだって〜」


 その名前を聞いたのぞが、すかさず反応する。


「え〜、うらやま!」

「のぞもさ、だからほら、デートする時につけてよ」

「相手いないっつの」

「ぐっちさんと♡」


 かおるんが茶化すように言う。


「だから、それやめてってば。マジでないから!」


 声は冗談めいていたけれど、その目に浮かぶ色は、明らかに本気だった。場がピリッとしかけた空気を、ゆりゆりがさっと取り持つ。


「まーまーまー、もう一回乾杯しよっか! せーのっ、誕生日おめでと〜!」


 みんなでグラスを合わせた後、甘いケーキを口いっぱいにほおばる。

 ほんの少しのぎこちなさも、気付けば笑いと甘さの中に自然と溶けていった。











 


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