第13話 かおるんと満月

 薄暗い会場内は、さまざまな学生たちで賑わっている。そこは、コンパ会場だった。音楽が流れ、歓談する声が混ざり合う中、たまきとかおるんはお酒のグラスを手に、壁際に立っていた。

 かおるんはいつもとは違って、髪を巻いて、メイクも濃いめだ。

 たまきは少し不安そうに言う。


「私、まだ別れてないよ……」

「え〜?」


 かおるんの視線は男子を物色しており、たまきの言葉が耳に入っていない。


「だから、まだ新しい人は無理っていうか」

「ああ、大丈夫、大丈夫! ただ楽しめばいーんだよ」

「……」

「かるーくおしゃべりするだけ」


 かおるんは、躊躇うたまきを気にすることなく、視線を巡らせる。その視線は、細マッチョで爽やかなイケメン二人組にピタリと狙いを定めた。


「あの二人のとこ、行こ!」


 かおるんはたまきの腕を掴んで目を輝かせる。


「私は、いーよ」

「行こって。行こ行こ!」


 かおるんは半ば強引にたまきを引っ張った。

 二人は人混みを掻き分け、イケメン二人のテーブルにたどり着く。


「こんにちは~。一緒していいですか?」


 かおるんがぶりっ子気味にイケメン二人に声を掛けた。

 白ティーの男子が即座に微笑んで、応じる。


「もちろん、もちろん」

「よかったぁ〜」


 かおるんは嬉しそうな顔をしているが、たまきは所在なさげだ。


「名前聞いていい?」


 もう一人の青シャツの男子がたまきに親しげに聞いてきた。

 たまきは少し躊躇いがちに、名乗る。


「あ、田崎真紀です」

「高野香月でーす」


 たまきに続いてかおるんも元気に名乗った。


「カズキちゃん?」


 白ティーが驚いた顔をしながら問いかけると、かおるんはにっこりと微笑んで答える。


「はい、香る月って書いて香月って読みます」

「こう言っちゃあれだけど……」


 青シャツが言いかけた言葉にすかさず反応するかおるん。


「あ、男みたいな名前だなってことですよね?」

「俺の友達にもいるからさ、カズキって」

「ですよねー、よくいますよね。でもでも私の名前、月の綺麗な夜に産まれたからって父がつけてくれたんです。自分じゃ結構気に入ってるんですよ〜」


 青シャツの言葉に、自分の名前の由来を語ったかおるん。すると、白ティーが言う。


「へぇー、香る月か。綺麗な名前だね」

「え~、嬉しい~!」


 かおるんはぶりっ子モードで声を弾ませた。


 その後、なんとなくの流れでかおるんは白ティーと、たまきは青シャツと、それぞれ二組に分かれて話す形になった。


 たまきは青シャツと、大学のことやサークルのこと、バイトのことなど、他愛のない話をしていた。


「彼氏はどのくらいいないの?」


 突然そう聞かれ、たまきはドキッとしてしまう。


「あー、その、えーっと……」

「もしかして年齢イコール的な?」

「あ、いやそのー……」

「大丈夫だよ。男って気にしないよ。そういうの」

「そうなんですか?」

「そうそう。ねぇ、連絡先交換しようよ」

「いやー」

「いや?」

「私、彼氏いるんですごめんなさい」


 頭を下げ、思い切って告げるたまき。


「いやいやいや。待って。そういうんじゃなくて、軽いノリで聞いただけだから。勘違いすんなよ」

「あ、そうだったんですね。ごめんなさい……」

「全然イケてないから。あんた」


 気まずい沈黙が流れた後、青シャツは黙ったままその場を立ち去った。

たまきは、無駄に傷つけられた心臓がじわじわと痛むのを感じた。


(何やってんだろ……)


 落ち込む気持ちでかおるんの方に目をやると、白ティーに腰に手を回されながら楽しそうに話しているかおるんの姿があった。

 たまきはグラスをぐいっとあおるが、中身はほぼ氷だった。仕方なく、気持ちを切り替えようとバーカウンターに向かい、新しいお酒を注文するのだった。



 会が終わると、たまきとかおるんは駅に向かって歩いた。かおるんは千鳥足で歩き、少しフラつきながらも楽しそうに笑っている。


「あ〜、飲んだ〜!」

「ちょっと、かおるん大丈夫?」

「へーき、へーき。どーだった? たまき」

「ん? ああ、楽しかったよ」

「青シャツといい感じ?」

「いい感じ……ではなかったかな」

「なーんだ〜」

「かおるんこそ、いい感じだったんじゃない?」

「ああ、あれはね、ダメ。チャラい。チャラいのはダメ。絶対ダメ。ああいうのに引っかかったら終わりだから」


 そう話すかおるんの足取りはおぼつかない。

 たまきは歩道沿いの植え込みの縁に、かおるんを座らせた。


「ちょっとここいて」

「うい〜」


 たまきは近くの自販機へ向かった。


 その間、かおるんはふと顔を上げ、夜空に浮かぶ満月を見つめた。まんまるの綺麗な満月に、酔いに染まった頬でにんまりと微笑む。

 パタパタと、たまきはペットボトルの水を買って戻ってきて、一本をかおるんに手渡した。

 

「はい」

「ありがと」


 二人は並んで座り、水をぐびぐびと飲んだ。冷たい水が喉を通り、二人は少しだけ酔いが冷めた気がした。

 かおるんは再び空を見上げ、


「満月っていいよね」

「ん?」


 たまきも空を見上げる。


「月の香る夜だねぇ」

「そのネタ好きだよね」

「ネタって言うな。ほんとの話だかんね?」

「疑ってるわけじゃないよ」

「まぁ、小学校の頃はからかわれたりもしたけどさ、今は好きだよ。このなま……え?」

「え?」

「ああ!」


 驚いた表情のかおるんが指差す方向に視線を向けたたまき。

 反対側の歩道には、ちなと稲垣の姿があった。





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