第百九十二話 モンダン悶絶:④
南東門から王都に入り、ドワーフのキケルに剣と槍が出来上がったか訊きに行こうと思ったたが、フヌーディがお土産に狩ったレーイヨウと白いジャイアントムースンをギルマスに早く見せたいだろうと思い、中央冒険者ギルドに行った。
キケルのところには明日行けばいいし、仕立て屋に頼んだ服も出来上がっていれば引き取りたい。
明後日に警護依頼で行くサロガ村跡地にある記念碑への道も下見しておきたいから、狩った獲物をギルドに買い取ってもらったらホテルに帰って身体を休めよう。
実際にはイニーたちや精霊たちが狩りをして、オレは狩った獲物を収納していただけだからそんなに疲れてはいないけれど、今日はゆっくり風呂に入りたい。
従魔にしたシャドウパンサーのモーと子どもたちもチャプチャプさせたいしね。
イニーたちもそうだが、野生の生き物は身体を濡らすのがキライだから、モーも入浴させるのには苦労しそうだな。
オレはイニーたちとモーが並んで浴槽に入っている姿を想像してニヤニヤ笑いが止まらなかった。
買い取りカウンターに行くと、見慣れた職員が訊いてきた。
「主任を呼ぶのか?」
そうだった、モンダンは確認してから呼び出せと言ってたな。
「ああ、頼む」
職員は解体場に小走りで向かっていった。
奥からモンダンが出てきて訊いた。
「よお、今度は獲物を持ってきたんだな」
オレはモンダンの耳元に
「大物だ。他にもたっぷりとあるぞ。それにギルマスに見せたい獲物もあるから呼んでくれ」
モンダンはアッチャーという顔をしたが、職員に「ギルマスに解体場の倉庫に来るように伝えてくれ」と言って、オレを手招きして奥に入っていった。
何度か獲物を出した倉庫に入りモンダンは言った。
「何を狩ってきたんだ! さあ出せ!」
モンダンさんよぉ、威勢がいいのは今のうちだぜ、獲物を全部出した時にアンタがいい声で鳴いてくれるのが楽しみだぜ。
闇の精霊魔法に収納してある獲物を次々と倉庫に出していった。
レーイヨウのオスが十頭:メスが二十二頭、ワイルドホースのオスが十四頭:メスが二十一頭、ソルジャーハニーアントが百二十七匹、ピックハニーアントが三十六匹、ジャイアントムースンの変異種(白)が一頭、通常種(黒茶)が二頭。
草原で解体したレーイヨウと肉付きのいいワイルドホースのメス一頭は、またどこかで解体して焼いて食べるつもりで収納した。
倉庫に並べ終わった獲物の山に満足してモンダンを見ると、倉庫の隅に置いてある椅子に座り込んで頭をかかえている。
おやぁ〜、さっきの威勢の良さはどこに行ったのでしょうねぇ〜。
「出せ!」と言ったのは、モンダン主任様ですよぉ〜。
オレがニヤニヤしながらモンダンを見ていると、ギルマスが倉庫に入りかけて……、獲物の山を見てフリーズした。
「おま……、お前……、お前はまた……」
「んっ? ギルマスどうしたの? 少なかったかな? なんなら今から草原に行って、追加で狩ってこようか?」
「止めてくれぇ〜〜〜、もう充分だぁ〜〜〜」とモンダンが大声を出した。
えへへ、やっぱりモンダンはいい声で鳴くな。
モンダンは無視して、ギルマスに言った。
「フヌーディがギルマスへのお土産に狩った獲物を見て欲しいんだ」
ネジネジの角が見事なレーイヨウとジャイアントムースンの変異種(白)を浮かせて別に置いた。
「どうだい、見事な狩り方だろう。
フヌーディはギルマスのまわりを得意げに飛び回っている。
ギルマスはレーイヨウとジャイアントムースンに近づいて首の切り口をしげしげと見ている。
「うむ、たしかに見事だな」
フヌーディはさらに嬉しそうにギルマスに何か言っている。
「コレはフヌーディの獲物だが、このままもらっていいのか?」
「もちろんだ。それはフヌーディがギルマスへのお土産に狩ったものだ。他の獲物はありがたくもらうがな」
ギルマスは他のレーイヨウやワイルドホースにソルジャーハニーアントを見て
「フヌーディも他の獲物はいらないそうだ。お前がもらっておけ」
「ああ、そうさせてもらうよ」
椅子に座り込んでいたモンダンはハッとした顔をして、ピックハニーアントの腹を見ていったがガッカリした顔で言った。
「蜜袋はどうしたんだ?」
「んっ? 蜜袋は解体して保存してあるよ」
モンダンは情けない顔をして言った。
「アレは……、女房と娘の好物なんだ……」
おお、モンダンには娘がいるのか。だからナニ?
「一つでいいから……置いていってくれ……」
モンダンが情けない顔をして言うのを聞いていたギルマスは笑い出した。
「モンダン、解体場主任が情けない顔をするな。マーク、二つ置いていってくれ」
はぁ〜? 二つってどういうこと?
「実は私も好きなんだよ。紅茶に入れると素晴らしい花の香りがするのだ」
おいおい、露骨にワイロを要求するんじゃないよ。
「へーっ、そうなんだ。ギルマスにこの蜜を入れた紅茶は飲ませてもらったことが無いからわからないなぁ」
「むっ、そうだったか……。じゃあ、これから私の部屋でピックハニーアントの蜜を入れた紅茶を飲もうじゃないか」
「ギルマス、自分だけなんて……」
またモンダンが情けない顔で言った。
「コレを解体するのに、また二、三日は残業しなくちゃいけないし、遅く帰ると女房と娘の機嫌が悪くなる……」
あ〜あ、解体場主任も家では女房と娘に頭が上がらないのか。
しかたないなぁ。
収納してあるスープの大鍋を取り出して、そっと蜜袋を二つ取り出してモンダンに渡した。
「娘は一人なのか?」
「あっ? ああ一人だ」
「じゃあ、女房と娘に一つずつやれよ。代金はいらないから」
「えっ? いいのか?」
「いいさ、まだたっぷりあるからな」
大鍋の中にはまだあるのを見せると、モンダンは蜜袋を大事そうにかかえて言った。
「すまんな、恩に着るよ」
「気にするな」
「モンダン、良かったな。査定書は執務室に持ってきてくれ」とギルマスは言って、フヌーディが狩ったレーイヨウとジャイアントムースンをマジックポーチにしまい込んだ。
ふ〜ん、さすがギルマスだな。容量の大きいマジックポーチを持っているな。
「コレは解体して綺麗な剥製にして執務室に飾る。いや、しばらくはギルドに飾ってもいいな。なにせフヌーディが私のために狩ってくれた獲物だからな」
ギルマスはニコニコ笑いながらオレを手招きして倉庫を出ていった。
オレも倉庫を出たが、後ろから「ざぁ〜〜〜んんん〜〜〜ぎょぉぉぉ〜〜〜ん」と叫ぶモンダンのいい鳴き声が聞こえたので満足した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます