第百七十話 エルフの近衛魔法師:④

 ギルマスはガックリと肩と頭を落としているポルターノスに言った。


「それで、お前は何がしたくてここに来たんだ? コイツが不在の部屋に勝手にベランダから忍び込んだと聞いたが、近衛魔法師団ではコソドロの真似をしても許されるのか? そんな話しは聞いたことが無いな」


 ギルマスは部屋にある一人掛けのソファに座って言った。


「たしかに、犯罪行為が疑われる場合には強硬手段で捜査や逮捕に処罰も認められているのは知っているが、複数の精霊を連れていて精霊力を使えることだけでは犯罪行為には該当しない。違うかな?」


 ポルターノスは力無くうなずいた。


「お前たちがやったことが犯罪行為だとは思わないのか?」


 いいぞギルマス! もっと言ってやれ! 


 ギルマスの憂さ晴らしタイムは継続でいいよ! 


 オレが期待を込めた目で見ているのに気がついたギルマスは軽くうなずいた。


「中央冒険者ギルドのギルドマスターとして、今回の件は王城に報告せねばならんな。所属している冒険者に対して根拠のない嫌疑をかけて宿泊している部屋に不法侵入したことは見過ごせん」


「誰がどのように判断するかわからんが、良くて権限の制限、悪くすれば爵位を剥奪して国外追放か……、王都から追放されるのは間違いないな」


「お前たちはエルフであり、精霊を連れていることを鼻にかけていたのだろう。王城内や近衛騎士団や近衛魔法師団でも、お前たちのことを良く思っていない者は多かろうな」


「ソヤツらには、今回の件はもってこいの攻撃材料になるなぁ……」


 ポルターノスはブルブル震えだした。


 ギルマスが言ったことに思い当たるふしが多いんだろうな。


 『身から出たサビ』だからな、しかたないよね。


 ギルマスがオレをチラッと見た。


 おっ! コレはオレのターンということか。


 いい警官と悪い警官でいくか。


「ギルマス、そう責め立ててもな。コイツにも言い分というものがあるだろう。話しを聞いてやろうじゃないか」


「いいのか? お前は被害者なんだぞ」


「まあまあ、そう事を荒立てなくてもね。どうなんだポルターノス、コレを表沙汰にして正式に処分を下してもらうのがいいのか?」


 ポルターノスは力無く首を振った。


「どうしてベランダから忍び込んだんだ? それは説明してもらわないとダメだぞ」


 ポルターノスはポツリポツリと話し始めた。


 最初は王都周辺に精霊たちが増えていて、精霊力や精霊魔法が使われているのに気づいて動向を監視しているだけだった。


 やがて中央冒険者ギルドから貴重な魔獣がオークションに出品されると聞きその傷口を確かめたところ、精霊力の残滓ざんしを感知したので精霊魔法が使われていると確認した。


 さらには大型の魔獣やワイバーンまでもが狩られているのを知ったが、精霊や精霊魔法を使って誰が狩っているのかをギルマスに確認してしまうと、その者に警戒されると思い、城壁内や王都内での精霊たちの動きをひそかに追跡していた。


 精霊や精霊魔法についてはすぐれていると自認しているエルフ族だから、生半可なまはんかに精霊や精霊魔法を使っている冒険者が下賤げせんな人族や劣等種である獣人族であれば一喝いっかつして、高圧的な態度で威圧すればたやすく手なづけられるだろう。


 配下にして使いつぶしてやればいいと思ってここに来たということだ。


 ずいぶんと甘く見られたもんだな。


 エルフであることを誇りに思うのはけっこうなことだが、思い上がっちゃいけないよ。


 オレもこうならないように気をつけよう。


 しかし、一喝いっかつですかぁ〜。


 『かぁ〜つ!』って書いた札を持って、ベランダから入って来たら面白かったのになぁ。


 だがコイツらはオレが精霊たちに頼んでコバドリアンたちを追跡していたことを知っているのか? そうならこのまま許すわけにはいかないな。


 ゴバドリアンたちを生け捕りにしたら、オレが疑われるのは間違いない。


 保険をかけておくか。


 わざとらしく大きなため息をついて見ていると、ポルターノスが言った。


「確たる証拠も無く犯罪行為を疑い、部屋に忍び込んだことはびる」


 オレとギルマスは黙って見ている。


「あわよくば、配下にしようとたくらんだこともびる」


 オレとギルマスは目を見合わせたが、もう一息だな。


 そのまま黙って見ていると、ポルターノスは言った。


「この事を穏便おんびんに済ませてもらうにはどうすればいいのだ? 謝罪金か?」


「ワイバーンスレイヤーとして王家から報酬や勲章を授かるように手配もできるが……」


「カネや名誉には興味が無いんだ」


「ではどうすれば……」


『クロ、コイツらに闇の精霊魔法で誓約させることはできるよな』


【できるよ!】


『よし、今からコイツらに誓約させるから、よく聞いていてくれ』


【わかった】


 途方にくれた顔をしているポルターノスに言った。


「謝罪のあかしとして誓約をしてもらおう」


「誓約?」


「そうだ、今回のことはココだけの話しにするかわりに誓約を求める」


「どのような誓約なのだ?」


「そうだなぁ、まずはオレには近づかないことだな。王都内や城壁内に精霊たちがいても監視はしない。王都周辺で精霊力が使われていても追跡しない。そしてオレの行動も監視しないし、追跡もしないということを誓約しろ」


「オレや精霊たちについての情報を他の者には教えない。それは口頭や文書・メモなど、どのような手段であってもだ」


「どうしてもオレと連絡をとりたいときは、フォティノースを立ち会わせて中央冒険者ギルドで会合をおこなう。もちろん事前に先触れで日時を決めてからだ。ベランダから忍び込んだり、どこかで待ち伏せするのは絶対に許さない」


「そんなところかな。この誓約を破れば死んでもらうから」


 サラッと死の宣告をすると、ポルターノスだけでなくギルマスも顔が青ざめた。


「マーク、誓約を破れば死ぬのは……」


「ギルマス、死にたくないなら誓約を守ればいいんだよ。簡単なことだろう? オレを配下にして使いつぶしてやろうなんて考えていた連中だ。りずにまた何をしてくるかわからないからな、誓約を破れば死ぬくらいの罰は当たり前だ。オレや精霊たちのことは忘れてしまえばいいのさ」


「それは……、そうだが」


 ポルターノスは下を向いて黙っていたが、顔を上げて言った。


「誓約を拒否すれば、この場で殺す気だな」


「お仲間を見てみろよ。その状態ならいつでも殺せるが、やらないだけだ」


 ポルターノスはまだ気絶しているヒルジャーノとマータァヴァーラを見てかすかにうなずいた。


「これでは、そのへんの子どもでもナイフひとつ……。いや、手ごろな石があれば、たやすく殴り殺せるな」


「わかった。誓約しよう」


『クロ、聞いてたな』


【うん、今の内容で誓約魔法をかければいいんだね】


『そうだ、頼む』


 影からニュルンと出てきたクロはエルフ三人の身体を闇の精霊魔法で包んだ。


 やがて、ポルターノスや気絶している二人もビクン! と身体を震わせた。


【終わったよ、胸に誓約紋を刻みつけたから、誓約を破れば心臓が破裂するよ】


『それはエグいな。でも、それくらいやらないとダメだからな。ありがとなクロ』


【こんなことは簡単さ、そこに座っているエルフには誓約魔法をかけなくてもいいの?】


 オレはギルマスをチラッと見て言った。


『コイツには……、まだいい』


【いつでもやるからね】


 ギルマスはオレの意味ありげな視線に気づいてブルッと身体を震わせた。


 心配しなくても、まだらないから……ハハハハハ。


 しかしウチの精霊たちは容赦無いなぁ。


 誰の影響なんだろうね? 


 


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る