第百六十七話 エルフの近衛魔法師:①

 ワイルドホースのシチューとステーキは極上の美味さで、イニーたちも満足していた。


 これはまた森で見つけたら狩らないとダメだな! 


 イニーたちも同じ意見なので、ゴバドリアンたちを捕まえたあとで積極的に探すことに異論はなかった。


 美味しいものをお腹いっぱいに食べて、ウェイターにもチップを握らせてから精算しようとしたら「調理場主任から代金はいただいておりますので……」と言われた。


 こりゃテールドラゴンも狩ってこないといけないな。


 世話になりっぱなしはダメだからね。


 ふんふふ〜ん♪ と上機嫌で階段を上っていくと、イヤな気配がする。


 誰か部屋にいる。


 イニーたちを影に潜らせて水の盾ウォーターシールドで身体をドーム状に包んでから、ユックリと部屋に近づいた。


 どうやら部屋の中に三人いるな。


 さらに気配を探ると、魔力のほかに……、精霊力を感じる。


 静かにドアを開けると、壁際に一人、ベッドルームの入り口に一人、そしてソファに脚を組んで一人いる。


 いずれも金糸で縁取りされた白いローブを着ていて胸には燃える赤い炎の輪、その中には槍と斧が交差していて真ん中には口を大きく開けた狼の横顔がえがかれた紋章が刺繍されている。


 サウスエンド筆頭辺境伯家の紋章もそうだったが、生き物の横顔を紋章にえがくのがこの国の風習なのかな? 


 浅くかぶったローブからは長くて尖った耳が見えている。


 それぞれのそばには精霊もいるな。


 エルフ族が何のようだ。


 風の精霊:エアーがオレのそばに来て言った。


 [コヤツら、マークたちが部屋を出てしばらくしたら、ベランダから入って来たのじゃ]


『そうか……、みんなは何もされていないのか?』


 水の精霊獣:アクアが言った。


 [ニヤニヤ……笑いながら……見てるだけ……気持ち悪い]


 オレもそう思うよ。


「やあ、こんにちは。いや、こんばんは……かな」


「何者だお前たちは。泥棒か?」


「いや、それは心外だな。そのような者ではないよ」


「部屋にベランダから入って来て泥棒ではないと言って通用するのか?」


「そうだね……、我々なら通用するね」


「だから、何者なんだ?」


 そう言いながら三人を鑑定した。


 近衛魔法師団か……。三人ともSクラス冒険者で、一人は伯爵位、二人は子爵位か。


 エルフの近衛魔法師が何しに来たんだ。


「どうやら私たちのことを鑑定したようだね。本来ならば失礼 きわまりないと言うところだが、我々も勝手に部屋に入っているから、お互い様ということにしておこう」


「そう言うのはアンタの勝手だ」


「そうか、ずいぶん自信まんまんなんだな」


「アンタもな」


「さて、このへんで自己紹介をさせてもらおうか、私はユグド・ペティ・ポルターノス・ヴァキヴァレタス・ファディスノールだ。人族には言いにくいだろうから、ポルターノスと呼んでくれ」


「ポルターノス伯爵か……」


「ほう、私の爵位がわかるか。ファディスノール伯爵だ」


「ユグドラシル様の燃えさかる子、激しくすべてを清める火……か、だから火の精霊と契約しているのか」


 ポルターノスはソファの上で身じろぎした。


「ふむ、エルフ語もわかるようだな」


「適当に言っただけだ」


 ポルターノスはニヤリと笑った。


「では、その適当さで二人を鑑定してみてはどうかね」


 ベッドルームの入り口にいる男エルフは腕を組んで『やれるものならやってみろ』という顔をしているし、壁際にいる女エルフはツンとした顔でオレを見ている。今さらカッコつけても鑑定済みなんだけどね。


「試されるのは嫌いなんだが……、そこの男エルフは、ユグド・ペティ・ヒルジャーノ・ケラリーア・ヴァカーモ、ユグドラシル様の静かな力の子、すべてを包みこみ受けとめる力、精霊は土だな」


「その女エルフは、ユグド・ペティ・マータァヴァーラ・ランサーンス・アンターノス、ユグドラシル様の大地を育む子、実りをもたらす力、精霊は木と植物だ」


「三人ともSクラス冒険者でポルターノスは伯爵、二人は子爵。どうかな? 適当に言ったが当たっているか?」


 ヒルジャーノを見ると、組んでいた腕を下ろしてオレをにらみつけている。


 マータァヴァーラは左の眉をピクピク動かしてオレを見ている。チック症か? それともチックショーって感じかな……ハハハハハ。


「適当に言えるものではないが、抜けているな」


「ほう、何が?」


「我々は近衛魔法師団の者だ」


「それで?」


 ポルターノスはわざとらしくため息をついた「最近王都付近で精霊たちが増え、精霊力が使われる頻度が高くなっている。ここ数日は城壁内での精霊たちの動きも増えている。我々はそれを調査していたが、昨晩城壁内で闇の精霊が動いているのに気がついて警戒していたところ、今日は風の精霊が動き回っていたのを感知したので追ってここに来た……、ということだ」


 【マーク、ごめん。気がつかなかったよ】


 『クロはなにも謝ることはしていないぞ。オレが頼んでやってもらったことだ、気にすることはないよ』


 【ありがとう。でもごめんね】


『いいさ、誰か精霊に気がつくヤツがいるだろうとは思っていたからな。探しに行く手間が減ってよかったよ』


『コイツらを始末したら、今夜は働いてもらうからそれでチャラにしよう』


 【わかった、がんばるよ!】


『うん、頼むな』


 [わらわも気がつかなんだ。すまんの] 


『エアーも謝ることは何もしていないよ。気にしないでくれ』


 [る?……]


『まだらないが、アクアは水の壁ウォーターウォールでベッドルームにいる男エルフと壁際の女エルフを取り囲んで動けなくしてくれ』


 «バリバリッと黒コゲにしてるか!» 


『バリン、まだ早いよ。あとで頼むからな』


 «まかせとけ!» 


『ホープとレストとシャインは土の精霊と木と植物の精霊が余計なことをしないように抑えてくれ』


 〈ええで!〉


 {るよぉ〜!}


 レストはスッと土の精霊に寄り添って、グイッと押さえつけた。


『おいおい、まだるのは早いから! ほどほどにしてやれよ』


 まったくウチの精霊たちはすぐにりたがるからなぁ……。


 誰の影響なんだろう? オレはこんなにおだやかな性格なのに……ナンチャッテ。


 オレは火の精霊:フレアを呼んだ。


『フレア、来てくれ!』


 フレアは静かに部屋にあらわれた。


 ポルターノスのそばにいる火の精霊がビクッとした。


 ポルターノスは目を見開いて言った。


「お前は……、いったい幾つの精霊と契約しているのだ! 火の精霊はどこから……」


「お前に教える義理は無い」


 ポルターノスがフレアを見ているスキに氷の槍アイスランスでポルターノスの身体を取り囲んだ。


 ギョッとした顔で氷の槍アイスランスを見たポルターノスはヒルジャーノとマータァヴァーラを見たが、二人は水の壁ウォーターウォールで身体をガッチリと包まれていて身動きできない。


 その中に精霊力を込めた水を注いでいった。足元から上がってくる水に二人は身をよじったが、どうにもできない。


 首から顎、そして口から鼻まで水で満たしてやった。


 二人はもがいていたが、ゴキュンゴキュンと水を飲み始めた。


 飲むのに合わせて水を出していったから、二人はあせっている。


 そろそろお腹いっぱいになったかなと思ったあたりで水を止めた。


 二人は必死になって水を飲んで鼻から息を吸っている。


 面白〜い。自信まんまんでオレを見ていたエルフ様が顔をゆがませて必死になっているのはいい見世物だな。


 どこかの広場に持っていってチャリ銭でも稼ぐか。



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