第百六十五話 キケルへの依頼

 ノンビリと王都の街並みを見ながら歩いていると、キケルの店が見えてきた。


 近づいていくと隣の革製品を扱っている店のおばさんがオレに気がついて店から出てきた。


「あら、アンタも話を聞いて来たの?」


「話?」


「キケルの手よ」


 オレがとぼけた顔をしていると、おばさんは「不思議なことがあるもんねぇ〜。もう治らないと言われていたキケルの右手が治っちまったのよぉ〜」と興奮気味に言った。


「へー、どうして治ったんだ?」


「それがね、詳しくは教えてくれないのよ」


「そうなんだ」


「神様の奇跡なのかしらねぇ……」


「神様の奇跡か、でも治ったんならよかったな」


「そうよねぇ、ずいぶん荒れていたけれど腕はいい鍛冶師だからね。しばらくは手が満足に動くか試しているらしいけれど、そのうち前みたいにいい剣や槍を造れるようになれるんじゃないかねぇ」


 おばさんはニッコリ笑った。


「キケルが元通りに剣や槍を造れるようになれば、アタシの店の革をさやつかに使ってくれるからね。楽しみにしてるのよ」


「ああ、そうか。ここらへんの店はそうやって助け合ってやっているんだな」


「そうよ。お互い様でやってるのよ」


 なるほどねと思いながらおばさんに手を振ってキケルの店に入っていった。


 店の中からはガンガン! カーン! カーン! と金属を叩く音がしている。


 どうやら右手を使う練習をしているようだな。


 神級万能回復薬で右手の損傷は治したが、職人の細かい感触を取り戻すには使い慣れた道具で確かめていくしかないんだろうな。


 しばらく金属を叩く音を聞いていたが、一息つくようで音が止まった。


「おーい、キケルー!」と声をかけると、鍛冶場からキケルが歩いてくる足音がする。


「誰だぁ〜! まだ仕事はできんぞぉ〜」と言いながら出てきたキケルはオレの顔を見ると小走りで駆け寄ってきて両腕をガシッと掴んだ。


 痛いよ……。


「アンタか! よく来てくれた!」


「右手の具合いはどうだい?」


「元通りに戻った……んだが、やっぱり長いことつちをふるっていなかったから、思うようにはいかんな」


「まぁあわてずにやっていけばいいんじゃないか」


「そうだな。それで今日はどうした? またいい酒が手に入ったのか?」


「残念だがいい酒は無いが、かわりにもっといいものを持ってきたぞ」


「もっといいもの? なんだそれは?」


「今見せるけど、その前に手を離してくれ。今度はオレの腕がダメになっちゃうよ」

 

 キケルはハッとして、手を離してオレの両腕をさすりながら「いや、すまん。アンタ……。マークの顔を見たらつい嬉しくなってな。ワシの恩人だからな!」


「キケル、それはあまり大きな声で言わないでくれ。目立つのは好きじゃないんだ」


 キケルは慌てて小声で言った。


「そうだな。のことは誰にも言ってないからな」


「隣のおばさんは神様の奇跡とか言ってたけど、そういうことにしておいてくれ」


「もちろんだ! マークに迷惑はかけん」


 オレはマジックポーチから魔鉄鉱石と魔銀ミスリルをひとつずつ出してキケルに渡した。


「コレを持ってきたんだけど。どうだ? 使えるか?」


 キケルは魔鉄鉱石と魔銀ミスリルをしげしげと見てささやくように言った。


「まだあるのか?」


「あるよ」とニヤニヤ笑いながら囁くと「奥に来てくれ」と鍛冶場に歩いていった。


 鍛冶場は赤々と燃える炭が入れられた火床でムウっとした熱さだ。


 キケルは魔鉄鉱石と魔銀ミスリルを作業机の上に置いて言った。


「コレはいいものだ。剣や槍を造るもよし、胸当てや鎧もいいな」


「そうか、コレで剣と槍を造ってくれないか」


「もちろんだ! 是非造らせてくれ!」


 腰に佩いている短剣を鞘ごと抜いて空間収納から槍を出した。


「だいたい同じような長さや重さでいいんだが、刃や穂先を変えてほしいんだ」


 作業机に置いてある薄い木の皮に炭のかけらでだいたいの刃と穂先の形を描いた。


 片刃の刀……、う〜ん長さ的には脇差かな。穂先も片刃にして、どちらも反対側の峰を厚めにして魔物や魔獣をぶん殴れるようにした。


 キケルは木の皮に描いた絵を見ながらしばらく考えていたが「ナタの先を尖らせて片刃の剣や槍にする感じでいいのか」


「そうだな。穂先の長さは今の槍と同じでいいが、柄の中まで差し込めるようにしてほしい」


 そうすれば柄が割れたり折れたりしても慌てなくて済むからな。


「それはできるが……、魔力をとおすつもりか?」


「そうだな、魔力のとおりがよければいいな」


 キケルはまた考え込んでいたが「魔銀ミスリルを土台にして魔鉄鉱を加えた合金がいいな。そのほうが粘りが出るし魔力のとおりもいいだろうな」


「それはまかせるよ」


「それで、どれくらいあるんだ?」


「同じ大きさのものが百個程度あるぞ」


「ひゃ……、百個ぉ〜〜!」


「声が大きいよ」


「あ……、すまん」


「全部置いていこうか?」


「そんなには要らん」


 キケルは鍛冶場の隅に置いてある木箱を指さした。


「あの箱に入るだけでいい」


 箱に近づくと鉱石を入れていた空き箱だ。軽くクリーンをかけてから、魔鉄鉱石と魔銀ミスリルを別々に入れていった。


 三十個程度入れるといっぱいになった。


「これで足りるかな」


「多いぞ」


「まぁ、そのうち使うだろう?」


「それはそうだが、これでは手間賃を別にしてもワシが材料費を払わねばならん」


「んっ? 代金は払わなくていいのか?」


「もちろんだ、もとより恩返しのつもりだから代金はいらん」


「しかし、生活は大丈夫なのか? 酒は飲んでいないのか?」


「う〜ん、まぁなんとかなる」


 オレは笑いながら金貨の入った革袋を作業机に置いた。


「しばらくはコレでしのげるんじゃないか?」


 キケルは革袋の中を見て「おい! こんなに金貨はいらんぞ!」


「快気祝いだ、とっておきなよ」


「マークには右手を治してもらって、素材もこんなに持ってきてもらって、さらに金貨なんて……」


「まぁ気にするな。それよりもいいものを造ってくれよ」


 キケルはグッと奥歯を噛み締めて頭を深く下げて言った。


「マークがどうしてこんなに良くしてくれるのかわからんが、ワシの精いっぱいの仕事をさせてもらう」


「ああ、よろしくな」


「マーク、ありがとう」


 オレは革袋を握りしめているキケルに手を振って鍛冶場を出た。冒険者ギルドで金貨五十枚を受け取っておいてよかったよ。


 ゴバドリアンたちにひどい目にあった謝罪のつもりだが、それは言えないからな。


 他にも被害にあった者たちはいるんだろうが、一人一人探して歩くわけにもいかないからな。


 またそういう者を見つけたら、さりげなく援助するかな。


 そろそろ空が暗くなってきた。


 サロガールホテルに帰る途中で従魔と入れる料理店を見つけて、ホロー鳥の照り焼きとスープにパンを食べた。


 醤油ジョーユがいい感じで使われていて美味かった。


 イニーたちは生のホロー鳥を三羽ずつ食べたが、新鮮で美味かったそうだ。


 ブラブラと歩きながらサロガールホテルに帰り、フロントで部屋の鍵を受け取ってコンシェルジュのマイケルに手を振って部屋に戻り、ベランダのドアを開け放って全身にクリーンをかけてからイニーたちの防具を脱がせてクリーンをかけて、一緒にベッドにゴロ〜ンと寝転がった。


 風の精霊:エアーが帰ってきたら、監視してもらっていたゴバドリアンたちの行動や会話を教えてもらって、ヤツらをどうするか考えることにしようと思いながらイニーたちの頭や背中を撫でているうちに眠っていた。


 


 


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