第2話

「ヒュー、ロバート、どうだい調子は。」

と覗いて見れば、ヒューの口が大分大きくなっていた。この異変が何を意味するのか、私にはわかっておらず、それが悲劇を生んだ。


この星の日付けにして三日後、なんと、ヒューはロバートを襲って食べていたのだ。やってしまった、と私は思った。なぜ二匹を同じケージに入れて置いたのだろう。異変に気付いたなら、二匹を隔離しておけばよかった。

私は、餌を不足させて、二匹を共食いの憂き目に遭わせた失格の飼い主だ。そう、黄金でできた妻に話した。


話すと少しスッキリして、せめてヒューだけでも飼育しよう、それがロバートへの供養となるだろうと思った。そうして見たヒューは、お腹が膨れていた。

ヒューは、なんと妊娠していたのだ…

どうやらこの生き物たちは、異性を捕食することで繁殖するらしい…


……………………………


ここまで書いたところで、ロブ改めロビンソンは、後ろから声を掛けられた。

声の主は、亡くなったはずのヒューである。

「おっさん、また何か書いてるのか?見せてみろ。」

強引に日記を奪い取るヒュー。そう、現実の彼は生きていて、ロビンソンに辛く当たるのだ。

「ゲッ、俺を殺してる。おい、ロバート、今度のおっさんの新作では、お前も自殺してるぞー」

「しかも、トカゲにされてるしな。」とロバートがボソボソと言う。

「俺が女装して踊るくだりはなんなんだよ。こんなものシコシコ書いて、楽しいのか?クレントン。」

そう、現実ではロバートはロビンソンをロブなんて愛称では呼んでくれない。名字で他人行儀に呼ぶ。

「現実で俺たちにこき使われてるから、その復讐のつもりなのかな。」とヒュー。

そう、現実のロビンソンは地下の王様でもなんでもなかった。調査をする星と大分違う星に漂着して助けを求めているのは事実だが、奴らなんていないし、黄金はなかった。この星にロビンソンのために存在しているものは、ヒューとロバートの自分への侮蔑と、ペンと紙だけだった。

ペンと紙の世界でだけ、ロビンソンは王様だった。だから、色々な想像をした。

ある時は、ロビンソンは二人を悪しき毒ガスから救うヒーローだったし、またある時は、三人は大親友で、輝く銀の城を築いて原住民に傅かれて暮らしていた。最初はロビンソンの物語もわかりやすかったが、段々と複雑なものになり、欲望はより複雑になり、物語はバリエーションが増え、溢れて止まらなくなった。自分でも手に負えなくなったのだ。


「まぁ誰でも退屈はするさ。」と、愛すべき隣人ロバートは言った。

「ただひねくり回すものが言葉か、エンジンか、調味料かくらいなものさ、俺たちの違いは」と陰気に呟き、エンジンをいじりに戻った。

「物語が役に立つもんかな。」と、ヒューも呟きながらロビンソンから離れる。

ロビンソンは安心した。これでまた、物語を書けると。

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