第4話 伊吹、モンスターと出会う
巨体の男と呼んでいいのかはわからないが、俺の倍の身長で、横幅は人間とは思えないほど太い。灰色の肌は岩のようにゴツゴツしている。大きな体に見合わない小さな頭と短足がある。腰巻とネックレスには人間のものであろう頭蓋骨がついている。
「うがががっ!」
巨体の男は口をカパッと開けて、唸り声をあげる。
「な、なんだ、これ」
「モンスターじゃ!」
ノジャは俺の腕を引いた。逃げるようにうながしているのか。
俺は足が震えて動けなかった。
「伊吹! 逃げるのじゃ! 今のわしでは何もできぬ」
「足が動かねえ」
「そこは頑張るのじゃ!」
ノジャの叫びも段々遠くに聞こえた。頭が回らない。
巨体の男はこちらにゆっくりと近づきながら、笑みを浮かべている。俺もあの頭蓋骨たちと同じ運命に合うのだろうか。
「見つけたーー!」
声が聞こえた。声質から少女だろう。
声が聞こえたと思ったら、巨体の男は吹っ飛ばされていた。木をなぎ倒し、男は倒れる。
巨体の男がいた場所には少女がいた。
普通の少女ではなかった。黒いボブヘアの上に三角の猫のような耳が生えている。尻の部分からは黒いゆらゆらと揺れる尻尾があった。
手首と足首に大きなピンク色の輪をはめている。
少女はこちらをくるりと見て、にかっと笑った。
「大丈夫? 怪我してない?」
「大丈夫なのじゃ!」
ノジャは元気よく答えた。
俺は未だに足の震えが解けなくて、棒立ちだ。
「ぐお……」
巨体の男は立ち上がろうと、手をついていた。
「リンー! こっちだよー」
少女は自分が来た方向を見て叫んだ。
少女が来た所から、黒いマントを羽織ったメガネの少年か少女が現れた。見た目だけでは性別がわからなかった。
その子は、身長ほどもある長い棒を持っていた。先端は三日月のようになっていて、空いてる所に赤い石が詰まっている。
「先走るのはやめてください」
声を聞く限りだと少年らしい。リンと呼ばれた少年は、巨体の男へと近づく。
「もう何人も殺していますね」
リンはそう言って棒を前に振り上げた。
「噂のモンスターだよね?」
「そう考えるのが妥当だと思います」
少女と少年は二人で話し込んでいた。
そうしてる間に、巨体の男は立ち上がっていた。
「ま、まずいって!」
俺が叫ぶと、少女はこちらを見た。
「大丈夫。リンがいるから」
「少しは自分で対処することを覚えてもらいたいですね」
リンは、棒を振り回して、巨体の男に向けた。
棒の先端が赤く光る。その後、リンの後ろに水のようなものでできた槍が現れた。
「凍れ! アイシクルランス!」
水の槍が一瞬で凍り、震えたと思ったら、巨体の男をそれで串刺しにした。氷の槍は十数本もあり、巨体の男はどこもかしこも槍だらけになった。
「ぎぎゃぎゃきゃ!」
巨体の男の刺された場所から紫の血が吹き出て、男は倒れ落ちた。
「これで終わりですね」
「任務完了だね」
少女はこちらに小走りでやってきた。
「戦いの備えもなく、危険なモンスターが出てるって噂の森に来たらダメだよ」
「すまんのじゃ」
「モンスターって……」
俺は訳が分からないままで、少女と少年、巨体の男を交互に見た。
「伊吹の世界にはモンスターはいないようなのじゃ」
「え?」
「わしらは、異世界から来たのじゃ! おぬしたちは異世界はわかるかの?」
ノジャは見ず知らずの人たちにそう発言した。
まあ、俺にとってもノジャすらも見ず知らずだが。
「異世界はわかるけど」
少女は少年の方を向いた。
「自らの意思で来ましたか?」
少年がそう聞いたので、俺はとりあえず首を横に振った。
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