間話5

「やっとクリアできたね」

「もう疲れた」

「ワイルドベアー亜種を倒したのが遠い昔のような気がする」

「結構最近だぞ」


 北のエリアボスを倒した冒険者パーティーは、そのまま北の街に向かっていた。


「でも、全部の街に行くならまた他のボスも倒さないとか」

「それなら次は西にしようぜ。今回はカジノイベントに間に合わなかったし、次は間に合うようにしたい」

「それなら次は他の街でイベントがあるって予想して、違う街に行くのはどう?」

「取り敢えず今は北の街を見て回ろうぜ」


 そして北の街に着いたはいいが、もう夕方なのであと少しでギルドに入れなくなる。


「クリスタル触って今日ははじめの街に帰るか?」

「せっかくならここで泊まろうよ」

「賛成」

「じゃあじゃんけんで負けた人は宿探しね。勝ったらこの街のギルドが閉まる前に少し見て回ろ」

「いくぞ、じゃんけん……」


 そして負けた1人は宿屋を探しに皆とは違う方向に向かって行った。


「ギルドの人におすすめの宿屋聞けばよかったんじゃない?」

「確かに」

「まぁこれもじゃんけん負けたのが悪いか」


 そして、5人は各ギルドで売っているものや依頼の内容を見ていると、はじめの街とは大きな差があることに気付く。


「やっぱ報酬も一桁くらい違うんだな。売ってる装備も強いし」

「なんかこの街結構田舎っぽいよね。わたしは好きだけど」

「これもこれで雰囲気あるよな。なんか夏休み思い出すわ」

「街の感じと職人ギルドの感じを見るに、農業が盛んなんだろうね」

「てことは西とか南の街だともっと報酬高かったりするのか?」


 各々が感想を言い合っていると、宿屋を探しに行った1人から連絡が返ってきた。


「お、今日泊まる宿屋見つけたってさ」

「ナイス」

「行こう行こう、もう今日は疲れた。その宿屋でログアウトする」


 こうしてパーティーは合流して、せっかくなのでその宿屋でご飯を食べることにする。


「……でさ、そのプレイヤーの人にもらったから後で部屋で開けようぜ」

「トランプもログアウト前に1回だけしよ」

「カジノ行きたかったな〜」

「野菜かぁ、なんでそんなに皆平気で食べれるの」

「嫌いじゃないからな。ほら、天ぷらの方は食べれそうなやついっぱいあるぞ」


 1名野菜に苦しんではいたものの、この宿屋のご飯は概ね好評だった。

 

「じゃあご馳走様でした。部屋に行こっか」

「トランプトランプ」

「何が出るのか楽しみだな」


 本当に6人で泊まるなら狭い部屋だが、ログアウトするだけなので問題はない。

 今は皆で身体を近くに寄せあって輪をつくる。


「じゃあカジノボックス開けるぞ」

「来い!」

「いいの引け!」


「……ん? なにこれ」

「チケットかな?」

「『ワイバーン交通無料券』だって」

「なにそれ?」


「なんかもうすぐ使えるようになるらしいワイバーン交通の無料券だって。多分街から街まで移動できるんじゃない?」

「じゃあそれで西の街まで飛んでいけばいいんじゃない?」

「それだ! めちゃくちゃいいもの貰ったな」

「ありがてぇありがてぇ」


「ぉ、俺、高所恐怖症なんだけど、大丈夫かな?」

「「「「「あ」」」」」


「まぁなんとかなるでしょ」

「お願いだから一緒にボス倒してぇ〜〜〜!!」


 こうして大きい声を出し宿屋の人に怒られ、その後のトランプでもまた声を出して追い出されそうになった所で、全員ログアウトするのだった。




「くそっ、なんでこんなに負けんだよっ」


 男性はこれまで必死に貯めたお金を、カジノのイベントで全て使い、見事に一文無しになってしまった。


「あ? あの人だかりはなんだ?」


「あいつらすげえな。めちゃくちゃ勝ってるじゃん」

「ていうか魔獣ってゲームできるんだ」

「まだまだ勝ちそうだぞあれ」

「なんか最初の方でカシワドリめちゃくちゃ捕まえてた人じゃない?」

「小さい狼を荷台に乗せて街を歩いてるの見たな」


 そんな声が聞こえてきたので、他のプレイヤーが見ている先を一緒になって見る。


「うわ、なんであいつが勝てて俺が負けんだよ。てか魔獣であんなに勝てるなら完全に運ゲーだな」


 もう用は無いとその場を去ろうとしたが、そのタイミングで今大注目されているプレイヤーも席を立った。


「カジノ前でちょっと声かけてみるか。全部失ったって言って泣きついたら何かくれるかもしんねえし。あんだけ勝ってんだからちょっとくらいあるだろ」


「……遅えな、何してるんだよ」


「……おっそい、もういいか」


 と、このタイミングで待っていたプレイヤーが出てきた。


「(ラッキー)。なぁそこのあんた、さっきめちゃくちゃカジノで勝ってたよな。俺全部失ってよ、何か恵んでくれねえか?」

「うーん、トランプとかなら2つ交換したんで1つ渡せますよ。要ります?」

「……は? トランプだと? 金にならねぇじゃねえかよ。こんだけ待ったってのに、お前俺のこと舐めてんのか!?」


 そう男性が叫ぶと、周りの人が魔獣を連れているプレイヤーを守るように位置どる。


「さっきから聞いてればお前、ただの八つ当たりじゃねえか」

「あの10連ダブルアップ見てなかったのか?」

「あれだけ楽しませてもらっといてよくそんな事ができるな」


 あっという間に複数のプレイヤーに囲まれると、誰かがGMを呼んだのか男性は拘束されて動けなくなった。


《ある程度状況は把握していますが、もう一度何が起こっていたかを確認しますので、私を呼んでくれた方と、他に状況がわかる方は教えてください》

「おいっ、別に俺はちょっと絡んだだけで何もしてないっ、なぁあんたもそう言ってくれよ!」

「すみません、ちょっと今急いでて、また何か答えないといけないことがあれば連絡お願いします。一応名前が……」


 こうして魔獣とともにそのプレイヤーは去っていき、残されたのはカジノで溶かして八つ当たりした男性と、一部始終を見ていたNPCとプレイヤー、そして何が起きたのかと近寄って来る野次馬だった。


「お前ら見るな! こっちはカジノで金溶かしてんだよ!」

《なるほど、後ほどもう少し詳しく調べますが、今はログアウトをお願いします》

「ちょっ、なんでだよ。ま……」


 こうして男性は運営に一定期間のログイン制限と、今後ゲームをするにあたっての条件が書かれたメールを送られ、その中には今後同じようなことをしないことの他に、あのプレイヤーへの接触とカジノへの出禁が書いてあるのだった。


《やっぱりもう全部君達AIに任せるほうがいいかな?》

《いえ、こうして問題解決の方法を見せてくれるのは、私達にとってとても重要です》

《まぁ確かにこの対応はなかなか学習させることが出来なかったし、見せることは重要か。お手本になるかは分からないけどね》


 こうしてゲーム側でもより良い環境づくりのために、このような会話があったとか、なかったとか。




「ただいま戻りました」

「おかえり。今までライドホースの世話かい?」

「はい。調子は良くなさそうでしたが、子供を産めばそれも良くなるでしょう」

「それは良かった。少し休憩していいよ」


 そう言うと執事は近くの椅子に座り、主も横に座る。


「ユーマくんってビックリさせてくるよね。もう捕まえてるなんて思わなかったよ」

「そうですね。それに借金のへん、いや、これは言わなくていいですね」

「なんだい?」

「それよりもレイ様はどうするんですか? ユーマ様はまたライドホースを捕まえると言っていましたけど、あのライドホースでは駄目なのですか?」

「それはまだ悩んでいたけど、あのライドホースにしようかな」


 休憩はできましたので、と言って執事は椅子から立ち、主の側に控える。


「ではあのライドホースはこちらで引き取りますか?」

「最初は妻と娘をライドホースに乗せて、近くを走るのが良いプレゼントになると思って依頼したんだ。だからライドホース達も引き取っていつでも乗れるようにしようと思ってたんだけど。でも今はその時だけ貸してもらって、このままユーマくんに飼ってもらうのが良さそうだと思っているよ」

「それは本人に聞いてみるしかないでしょう。お互いに立ち入り許可は持っていますし、この距離ですとどちらで飼育しても変わりないと思います」

「そうだね。今度聞いてみようか」


「それと、明日以降もライドホースの様子を見に行くので、私と彼は厩舎の方に朝から行きますね」

「そうか。よろしく頼むよ」

 

「それと、蒸し返すようで申し訳ありませんが、草むしりは無いかと」

「ん? あ、ユーマくんへの依頼の時の話かい? あれは何の依頼をしようとしたのかド忘れしてね。やっぱり意味のない依頼はするべきじゃないということさ」

「そうですね。では私はこれで失礼します」


 そう言って執事は出ていった。


「レイ様が思っているよりもユーマ様は借金のことを気にする状況では無いのですが、これは本人が気付くまで伝えないでおきましょう」


 主を尊敬しながらも、どこまでも主で遊ぼうとする執事であった。




「お疲れ様でした」

「良かったですね。カジノイベントもプレイヤー様がいっぱい来てくれましたし、今後来てくれる人も増えると思います」

「あぁ、それもそうですね」


 カジノイベントが終わったあとのカジノスタッフは、掃除をしながら話していた。


「私はプレイヤー様に怒られることも覚悟していたのですが、本当に良かったです」

「あぁ、あの億超えプレイヤー様ですね。あの人のせいでトイレ掃除する羽目になりました」

「それはあなたが叫ぶからですよ」


「でも本当に良かったですね。その人が結局すごい量のチップを稼いでたって聞きましたよ。ゲーム中も周りの人達は大盛り上がりだったとか」

「1000万枚を2億枚に増やしてましたね。それに他のプレイヤー様も5000万枚の景品を交換したとなると、やはり支配人が言った通り、プレイヤー様とは10分の1で交換することが正しかったと思います」

「プレイヤー様達って、外から見ててもなかなか見ない大きい勝負を何回もしてましたもんね。全てを手に入れるか、失うかっていうような、外から見てて面白い勝負は多かったです」


 掃除が終わり、掃除道具の片付けを始める。


「でも、あのプレイヤー様がゴールドチケットを交換されてたら1億8000万をお金に変えられたんじゃないですか?」

「その時はもう既にゴールドチケットは交換され尽くしていたので良かったです。高いものから順に全ての景品交換をしていましたので、もしあれば確実に交換されていました」

「そっかぁ。なら少しプレイヤー様はアンラッキーだったんですね」


 片付けの終わった2人は、また持ち場へと戻る。


「もしかしたら私は今日でここを辞めることになっていたかもしれません」

「えっ、そうだったんですか!?」

「いえ、辞めたいわけではないですよ。ただ、支配人にあのプレイヤー様が景品交換に使わなかったチップだけは、全て1チップ1Gで交換して欲しいと頭を下げに行ったんです」

「そんなことしてたんですね」

「最大で1億2000万Gの借金を背負う覚悟もありましたが、結果3000万Gで収まりましたし、支配人もそんなことはしなくていいと言ってくれました」


「じゃあ、今日はカジノイベント終了のお祝いに行きましょう! 今回だけは奢ります!」

「そうですね。では終わったあと待ってます。確か今日はイベント後は入ってないですよね」

「はい。なのでパーッとやっちゃいましょう!」

「あ、君、ちょっとお願いがあるんだ」

「どうされましたか?」


 スタッフの1人に声をかけられる。


「今日の夜も入ってたスタッフが1人体調崩してしまったらしくて、代わり頼めないかな?」

「うぇっ、えっと、そうですね」

「その間の給料も上げてくれるらしいから頼めない?」

「えっと、その」

「あ、そっちの君も頼めないかな」

「そうですね、分かりました」

「えぇ、せっかくこの後打ち上げに行く予定だったじゃないですか」

「また今度行きましょう」

「……は〜い」


「あ、ちなみに後で支配人がご飯に連れて行ってくれるらしいから、行くなら言っとくよ」

「えっ、行きます。行きましょう!!」

「おい、そこうるさいぞ。ってまたお前らか」

「すみません。あ、先ほどの話ですけど私も行きます!」


 こうしてカジノイベントを乗り切ったスタッフ達の大半は、支配人に高級なお店へと連れて行ってもらうのだった。 


 


「もう良いんじゃない?」

「そうだな。取り敢えず寝たい」

「それは全員同じだ」


 最前線攻略組はダンジョンに挑戦していたが、途中から1階層の広さが桁違いになり、敵も強く倒すことができなくなってしまった。


「はぁ疲れた〜」

「ねむい」

「僕は明日起きれるか心配です」

「起きれるかじゃねえ、起きるんだよ」


「そう言えばカジノイベントはどうだったんだろ?」

「クランのやつが家を手に入れたらしいぞ」

「へぇ、そんなの景品にあったんだ」

「あと、ユーマがカジノで大暴れしてたらしい」

「たのしそう」


「あ、てことはダンジョンもしばらく攻略しなくて良さそう? 先に攻略する可能性あるのなんてユーマくらいでしょ」

「それは駄目だ。少なくとも15階層のボスは倒す。ライバルの攻略組がいないからといって、俺達が気を抜いていいわけではない」

「リーダーはかてぇなぁ」

「頭カチコチ」


 ダンジョンから出て、先程話題に出ていた家に向かう。


「へぇ、良いとこにあるんだね」

「目立ちますね」

「無いよりましか」

「良く取ったなぁ」


 一応家の中を案内されたが、全員眠くてそれどころではなかった。


「てことで落ちるね、おつ〜」

「おつ」

「また明日お願いします」

「また明日な」

「寝坊すんなよ」

「体調には気を付けろ」


 こうして長い長い最前線攻略組の初日が終了した。


「……ちょっとユーマの動画見てみる? いや、やっぱなんかずるい気がするしやめとこ」

 

「……ユーマの動画、みたいけど、み、みる、みな、みない」


「……流石に見るのは辞めとくか。こっちが最前線攻略組だってのに、あいつの動画を見るのは負けた気がする」


 このようにユーマの活躍を動画で見たい気持ちはあるが、今はライバル関係にあると思っているため、見るのはずるいという気持ちで動画を見ることができないユーマの元仲間達が居るのだった。



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