第3話
「まずは魔獣ギルドに行こう」
このゲームでは職業が何であれ、全てのギルドに所属することができるらしく、所属数の制限も無いらしい。
しかし、それぞれのギルドにある依頼を受けないと所属する意味はほぼ無いらしいので、今のところは全部のギルドに入るようなことはしないつもりだ。
「ここが魔獣ギルドか」
ギルドの中はすごい人の数だ。流石にこの中の全てのプレイヤーがテイマーということはないだろう。
教会でも数字は5段階中2だったし。
ではなぜこんなにも人が多いのかというと、誰でも初回限定で魔獣のタマゴを貰えるからだ。
これは他のギルドでも同じで、初めて登録したギルドが冒険者ギルドなら好きな武器を1つ、魔術師ギルドなら好きな魔法書か杖を、商人ギルドなら特別な紙とペンなど、そのギルドに対応した交換不可のものが貰えるらしいのだ。
そしてここではタマゴが貰えるため、魔獣ギルドに近づけば近づくほどタマゴや魔獣を連れている人が多くなっていた。
既に孵化させて魔獣と一緒にいるのはテイマーで、タマゴのままの人は他の職業って感じかな。
「すみませーん、魔獣ギルドの登録をお願いしたいんですけど」
「はい、かしこまりました。ギルドへの初回登録が魔獣ギルドとなりますがよろしかったですか?」
「はい、お願いします」
そうすると俺のギルド登録はできたらしく、魔獣ギルドの説明、依頼掲示板の使い方や依頼の受け方などを聞き、最後に魔獣のタマゴを受け取って終了した。
「早速俺もテイマーのスキルで孵化さ「このタマゴ生まれるまで2時間もあるぞ!」」
何やら数人ほど言い合っている人達がおり、タマゴが孵るまで待てないらしい。
「俺は早く冒険したいのに、何が出るかも分からないタマゴに2時間もかけたくねえよ」
「でも、誰かが良い魔獣をゲット出来たら、他の人は転生して冒険者ギルドの初回登録特典を貰えばいいじゃない」
「そうだよ、強い魔獣が出たら序盤の装備なんかよりよっぽど良いに違いない!」
「でも、テイマーは最弱職業だってβテストで話題だったろ?」
気になることがいくつも出てきたが、まずは教会でも聞いた『転生』について
転生は一度だけチュートリアル後の状態に戻り、プレイし直すことができる機能である。
今回で言えば彼らは意図的にこの機能を利用しているのだが、本来は何かゲームを進行する上でミスを犯してしまったときにやり直すことの出来るシステムである。
もちろんBANされるようなことをしてしまえば、やり直しは出来ないが。
そしてもう1つ、テイマーが最弱職業だということだが、これはβテスト時に戦闘職の中でどの職業が強いか比較した時の評価らしい。
まぁなぜそんな評価になったのか想像はつく。
AIは大変優秀なため、魔獣でもプレイヤー並みに十分戦えるはずではあるが、魔獣1体につきパーティーの枠を1つ使ってしまうことは非常に大きな問題だ。
このゲームはパーティー上限が6人で、魔獣を持つプレイヤーは仲間である魔獣の数だけパーティーの枠を削られる。
そして魔獣は自分のパーティーから外す事が基本的に出来ないとされている。
流石に取り外しのできない魔獣よりも、入れ替えもできれば飼い主以外とも意思疎通の取れるプレイヤーをパーティーに選ぶだろう。
なので非戦闘職や、ペットとして魔獣を飼う人達には人気だが、根っからの戦闘民族たちにとっては魔獣を連れている時点でパーティーのお誘いはしないという感じだったらしい。
見たところ彼らはパーティーを組んでいるようだが、パーティー上限には1人足りていない。そのため誰かが魔獣を飼い、メンバーを増やそうとしているのかもな。
「ちょっとここから離れて、もっと静かなところで孵化させるか」
いち早く孵化させたい気持ちもあったが、よくよく考えれば記念すべき第1号の魔獣だ。
それに雰囲気も大事にするならあんなに人が大勢いる場所じゃなくて、もっとちゃんとしたところでお出迎えしてあげたい。
俺はタマゴを抱えたまま、他のギルドの登録ついでに街の探索を行うことにした。
「これでとりあえず全部かな」
あの後街の探索をしながら、冒険者ギルドや魔術師ギルド、職人ギルドなどを見て回り、冒険者ギルドだけは登録しておいた。
魔術師ギルドも登録したかったんだが、魔法使いでなければ本を読んで魔法を習得する必要があるらしく、今はそこまで時間をかけていられないので必要になったら登録することにした。
「てことで行ってみますか。お前も楽しみだろ?」
抱えている大きなタマゴに話しかけながら、俺はこの始まりの街の外に出ようとしていた。
この街はざっと見て回ったが、どうしても今はプレイヤーの数が多すぎて、落ち着ける場所が無い。
プレイヤーはもっと街の外にモンスターを狩りに行くかと思ったが、パーティーの勧誘やクランの勧誘、フレンドとの待ち合わせなどで街はしばらく賑やかなままだろう。
そうなると外に出るしかない。
冒険者ギルドで登録した時に、初回登録特典ではないが初期装備一式は貰えたので、今は皮の防具を装備している。
武器は短剣で、冒険者ギルドに初回登録した人たちの武器と比べると明らかに見劣りするが、そこはプレイスキルでカバーしよう。
「じゃあまずはマップ埋めもしたいし、街の近くを見ていきますか」
遠くにはスライムや角の生えたウサギが見えるが、あまり街の近くには寄ってこないっぽいな。
タマゴを抱えたまま戦闘することは出来ないし、タマゴを置いて5m以上離れることも出来ない。
さらにタマゴを攻撃されれば魔獣は手に入らないらしいので、本来であればこんなリスクの高いことはやらない方がいいだろう。
だが、俺には転生が残っているため大胆な行動が取れる。
「あそこはなんか良さそうだな。お前もそう思うか?」
返事がこないことは分かっているが、ずっとタマゴには話しかけている。街の中では変な目で見てくる人も居れば、微笑ましい目で見てくる人もいた。
「おっと、流石にこれはどうしようか」
街の近くの草原から見える1本の木が生えた少し高い丘の上を目指していたのだが、角ウサギというモンスターが3匹もこちらを睨んでいる。
ここにいる敵には何十匹いてもやられることはないだろうが、今はタマゴを守りながら戦わないといけないし、武器もそこまで強いわけでもない。
「まぁやるしかないよな」
タマゴを少し後ろに置き、角ウサギ達からタマゴを守るように立つ。
早速1匹がこちらに飛びかかってきたが、空中に浮いた敵ほど攻撃しやすいものはない。
急に羽が生えたり、空間を蹴って移動するやつは除外するが。
「しっ!」
『キュゥッッ』
まずは1匹
「おらっ!」
『ギュ〜』『キュゥ』
最初の1匹がやられてすぐに他2匹も飛びかかってきたため、意外とあっさり倒す事ができた。
タマゴを狙われていたらもっと苦戦しただろうな。
「ドロップアイテムは直接インベントリに入るパターンね」
この仕様は今は親切設計に思えるが、後々必要なドロップアイテムが出てきた時、目当てのドロップアイテムを求めて何回もボスを周回しなければならないことが確定した。
「まぁ剥ぎ取りはグロいし面倒くさいし、仕方ないか」
しっかりとインベントリにウサギ肉や角が入っていることを確認し、近くに生えていた薬草もその都度タマゴを置きながら採取した。
「この木はアポルの実というのがついてるんだな」
無事に丘の上の木に着いたのだが、ご褒美と言っていいだろう美味しそうな果実がなっていた。
いくつか取って1つ食べてみようとしたところで、またモンスターの気配がして振り返ると
「おいおい、嘘だろ!! 流石にそれは初見殺しすぎない!?」
俺が来た道をモンスターの大群が塞いでいた。
木を挟んで反対方向はちょっとした崖になっているため逃げることができない。
俺だけなら飛び降りても多少のダメージで済むだろうが、タマゴを抱えたまま飛び降りたらおそらく割れてしまうだろう。
それにタマゴが無事でも、あの大群にタマゴを持ったまま追いかけられて囲まれる方がヤバい。
「流石に今の最前線攻略組よりもヤバい状況だろこれ、あそこ辞めた後にこのイベントは嬉しくないって」
どれだけ今の状況を嘆いても目の前のモンスターたちは襲いかかってくるだろうし、今できる最善の策を考える。
「まぁやるしかないよな。俺の仲間もまだタマゴの中でお休みしてるし。今起こしてもいいけど、それなら街の中で生まれる方が百倍マシだっただろう」
木の後ろにタマゴを隠し、タマゴに攻撃が当たらないようにする。
俺の行動範囲はタマゴから5m、木を挟んであと一歩前に出れるかどうか。
相手はありえないほど数が多いが、来る方向は前だけ。
道幅もそこまで広いわけでもないし、襲いかかってきても多くて同時に5匹くらいか?
「やろうかウサギさん。俺はお仲間のウサギを3匹倒したくらいしか恨みを買うようなことはしてないと思うんだけど」
コイツらに仲間意識のようなものはおそらくないだろうが、挑発されているということは感じたらしい。
全員さっきよりも殺気立って今にも襲いかかろうとしている。
俺からは動けないので思う存分に襲いかかってきてもらうとしよう。
「さぁ、来い!!」
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