最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル

第1話

「3秒後切れるからバフかけて」

「次範囲攻撃来るぞ」

「回復準備は終わってるから」


 現在俺達はこのゲームで最強と言われるボスを完璧な連携と経験で攻略していた。


「はいお疲れー、流石にもうこいつのドロップ要る奴はここにいないよな」

「もうプレイヤーに売るのも面倒臭いし、そのままNPCに売っちゃえば?」

「一旦追加コンテンツもしばらくないって話だし、今日は早めに終わって明日に備えるか」


 俺達は最前線攻略を目指し、色んなゲームをしてきた。

 ここには誰よりも速く、誰よりも強くなることを目指す者が集まっている。


 そしてその中の1人が俺だ。いや、かつてそうだったという方が正しい。


「じゃあみんな、今までありがとう。ほんとに楽しかったよ」


 俺は今日でこのゲームを引退する。正確にはこのメンバーと一緒にゲームすることを辞める。


「ユーマも新作のVRMMOやるんだろ。もうちょっとくらい一緒にしないか?」

「いや、俺はしばらくソロでやるって決めてるんだ。それにみんなと一緒だと、また同じようになる未来が見える」


 そのゲームの一番強いやつになりたいと思って遊んでいた。

 それが当たり前だと思ってた。

 1人では無理だと気付いてからは、同じ志を持つ仲間を見つけて、一緒に色んなゲームを頑張った。


 それがいつの間にか遊びじゃなくなっていた。

 最前線攻略を楽しいと思えなくなってた。

 そう思ってからはゲームが作業になっていた。


「ここは最前線を目指すやつが集まる場所だろ。俺はもう疲れたからさ。代わりはいくらでもいるだろうし、それにこういうことは俺が初めてでもないだろ」


 俺みたいにこの遊び方に疲れるのも居れば、実力が追いつかなくて離れるのもいた。

 ずっとここでやってる人達は、ある意味ゲームのプロだと言っていいだろう。


「そうか、寂しくなるな。まぁ永遠の別れでもないし、どうせ俺達のやるゲームはお前もやってるだろ。またなんかあったら声かけてくれ」

「おう、ありがとう。今までお世話になりました」


 そう言って俺は仲間への最後の挨拶を済ませた。


 


 プシューッと音を立てて目の前の蓋が開かれると、ゲームの世界から帰ってきたと感じる。

 

 ヘッドギアを外して、カプセルベッドから出ると時計の針は7時を指していた。


「はぁ〜〜、これで終わりか」


 スマホを手に取りゲーム仲間たちのグルーブから抜けておく。これでスマホを見て自分のシフトが組まれている時間帯に必ずログインする生活も終わった。


 振り返ってみると1番を本気で目指すとはこういう事なんだと教えてくれた場所だった。今は辛かった思い出が多いが、楽しかった事も嘘じゃない。

 

 ゲームをするために買った最新式のVRゲーム用カプセルベッドは、当時目ん玉が飛び出るほどの値段だったが、爆発的なゲームの普及により今ではそこそこの値段で買えるようになったらしい。


 ゲーム世界は現実世界の3倍の速度で進んでいるため、俺は実際の年齢より5年くらい老けてるんじゃないかと心配になるが、今のところ問題はないらしいし、こいつにはこれからもお世話になり続けるだろう。


 そしてあいつらも言っていた新作VRMMOはもちろんこのカプセルベッドが無いと出来ない。

 俺はβテストの応募には外れたが、製品版はしっかりと当選した。

 

 ちょっと前まではこの媒体のゲームで抽選になるなんて思っていなかったが、時間の流れの早さを感じる。 

 ゲームをやりまくっている俺としては、体感は一般人に比べて3倍の長さの時間を生きている筈なのにな。

 

「まぁそんなことは置いておいて、明日から始まる新作VRMMOのために準備しないと!」


 それから近くのスーパーで食料を買い漁り、しばらくは外に出なくてもいいように準備をして眠った。




「今回も問題はなさそうだな」


 最前線攻略とは普通の人がゲームを遊ぶ感覚で出来ることではない。

 仲間やゲームセンス、課金、最新情報へのアンテナ、そして何よりも時間が必要である。

 

 俺はできる限りの時間をゲームに費やしたかったためゲーム仲間に相談したところ、攻略動画の投稿を勧められた。 

 ゲームをすればするほど動画の素材になり、それを編集し投稿すればお金になる。

 さらにその編集すらもAIに任せれば、もっとゲームに時間を使えるという完璧なサイクルが出来上がるのだ。


 今まではその動画を出すことでゲーム時間を確保し、生活費や課金分のお金を生み出していたのだが、今日の動画が全て投稿されればその後はどうなるか分からない。 

 新作VRMMOでも動画投稿は行うつもりだが、これまでと全く違った内容になるだろうし、視聴者が求めるものを提供出来るかはわからない。


「まぁこれまでの分で貯金はある程度あるし、この先動画投稿の収入が不安定になっても少しは大丈夫だろ」


 どうせ青春の全てをゲームに注ぎ込んだ俺には金儲けの選択肢なんて無いに等しい。

 それならやりたい事をやってお金も手に入る動画投稿を続ける方が良い。

 

 今までが上手くいき過ぎていたんだ。これからはもっと自分が楽しむことを優先してみよう。


「この動画は今日の夜で、これは次に設定して、よしっ予約完了」


 朝はあんまり食べないんだけど、この後に備えて今日はしっかり食べる。下手したらこの食事が今日の最後の食事になるかもしれないし。


「じゃあ、時間ぴったりだしやりますか」


 全ての準備を終えて、カプセルベッドに入った俺はゲームの世界へと意識を落とした。



 

《ようこそ『コネクト・ファンタジー』の世界へ。あなたのお名前を教えてください。》


「名前は『ユーマ』で」


《ユーマ様ですね。これからチュートリアルを行いますが、スキップすることも可能です。どうされますか?》


 もちろんチュートリアルは受けるのだが、ここでこのゲーム『コネクト・ファンタジー』略してコネファンの説明を少ししたいと思う。


 このゲームは新作VRMMOで、冒険はもちろんのこと、農家や鍛冶師、商人など自由な遊び方を出来るのが特徴だ。 

 ただ、自由とは言っても、職業は慎重に選ばなければならない。途中で職業変更もできるらしいが、一般的には最初に選んだ職業でずっとプレイしていくことになる。 

 職業は今後このゲームを遊んでいくにあたって、どんな道を歩むのかを決める重要な要素の1つなのだ。


 そして、もう1つ気をつけなければならないのは、コネファンにはPvPの要素がないということ。

 

 最近のトレンドとは逆行してPvP、つまりプレイヤー同士の戦闘は行えない仕様になっている。

 超リアル志向のゲームはこの辺も全て出来ることが多いのだが、コネファンはそうではないらしい。


 まぁ大雑把な説明だが大体こんなもんだろう。


「じゃあ、チュートリアルを受けさせてもらうよ」


《了解しました。では移動を開始しますので、しばらくお待ち下さい。》


 そして数秒後、俺の目の前は真っ白になった。



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