第136話

止まっていた世界が動き出したー・・・





大袈裟に聞こえるかも知れないが、俺がコイツと・・・萩花と別れてから色が無くなった世界がっ・・・今この瞬間、急に動き出したような気がした。








『お前の言い訳は後で聞く。陸に着いても俺から離れるな』







なんて、冷静を装ったようなことを言いながら、俺の心境は穏やかではなかった。





今まで決して適当に救助をしてきた訳じゃない。でも、どこかで相手のことも自分自身も・・・助からなかったとしても、その時はその時だっ・・・なんて考えていたのが正直な気持ちだ。






ー・・・でも、今は違う。






何が何でも、生きてコイツを絶対に助けてやりたいと心から思った。萩花だけじゃない・・・自分自身も一緒に生きて、もう一度萩花と話しがしたいっ・・・声が聞きたいっ。






こんな風に心の底から自分も、相手も絶対に生きて助かることを願いながら仕事にあたるのは、きっとこれが最初で最後だろうと悟った。






ーー・・・あぁ、辞めよう。






救助をしながら、仕事を辞めることを誓う俺は、人としてどうかしてると思う。別に他人に何を思われようが俺にとってはどうでもいい。






空中で萩花のことをグッと引き寄せて抱きしめる。俺と萩花の間に挟まれて眠っている幼い子どものことは、後で話しを聞けばいい。






何にせよ、いまここで俺の前に現れたお前を・・・勝手だが、俺はもう二度と離してやるつもりはない。

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