第65話
【海難事故において一番大事なのは冷静さを失わねぇことだ。パニックになった瞬間、自分も相手も助からねぇ】
いつだったか、テレビのロードショーで海の上に落ちた飛行機からの救助を舞台とした映画が放送されていて、ご飯を食べながら一緒に観ていた時に、そんなことを呟いていたのを、今思い出した。
ーーー・・・大事なのは冷静さ、、落ち着け、、
一度足を止めて、そっと目を瞑り深呼吸をする。すると、船内放送のようなものが耳に入ってきた。
【⠀繰り返しお伝えします。ただ今、このフェリーは走行不能と判断し、乗客の皆様にはボートで避難していただく必要があります。まだ客室にいらっしゃる方は速やかに甲板、展望デッキまでお越しください。】
少し落ち着いた頭で考えると、放送の内容がスっと入ってきてすぐに地図が近くにないか探す。
闇雲に走り回っても余計に時間を割くだけだし、とりあえず避難経路を確認しよう。
階段のそばの壁に貼り付けられていた地図を見つけ、甲板に出られる経路を確認して急いで足を進める。
水が入ってきていないことからして、 浸水していという訳では無さそうだし、とりあえず外に出れば状況が分かるかな、、
外へ繋がる階段を登り、閉まっていたドアを開くと、傾いた船体にいくつかの船が近づき、乗客が乗り移っている様子が視界に入った。
ーーー・・・助かった
そう思った瞬間、張り詰めていた気持ちが緩み、一気に脱力する。
「っ・・・大丈夫ですか?!早くこちらへっ!」
私の存在に気が付いてくれた人が居たのか、人が近づいてくる気配を感じた。
ゆっくり顔を上げると、よくテレビ何かで見る救助隊の格好をした男性が一人私の傍に立っていた。
彼は私の顔を見るなり驚いたような表情を浮かべ、突然私に背を向けて無線のようなものでどこかへ連絡を取り始まる。
そして、背を向けた彼の背中に書かれた文字を見て、私は重大なことを思い出す。
【 海上保安庁 】
そうだ、海の上で事故が起こったとなると、助けに来るのは彼ら海上保安庁の人達、もしくわ自衛隊の人。
凪砂がいまどこに配属されて、何の仕事をしているかは分からないけど、少なからず陸で居る時より今の方が会ってしまう確率は格段に上がる。
ーーー・・・海保の船には乗れないっ
よく見ると、海上保安庁の巡視船以外に、近くの漁港から救助に来てくれたような漁船が何隻か見える。
そちらに乗せて貰えたら、私が凪砂に出会ってしまう僅かな確率をも避けることが出来るだろう。
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