第52話 PK
「えっとPKって何でしょうか?」
話を聞いていた秋月が疑問を投げかけてきた。確かに気になるところだけど――
「そうだな……俺の知識だとサッカーのPKとかもしくはネットゲームでプレイヤーに危害を加える相手のことなんだけど」
「――後者の意味で間違い、ない」
四人の中でもっとも背の高い彼女が答えた。つまりプレイヤーに危害を加える方の意味ってことか。
「元はネットゲームの用語だけど、最近では冒険者を狩る冒険者の呼称としても定着してきたのさ」
続けて答えたのは小柄な女の子だった。PKと呼ばれるのにはそんな理由があったのか。プレイヤーを冒険者に見立てているわけだな。
しかしあの五人がPK行為、つまり冒険者を狩るような真似をしていたとは。でも、そう考えると俺が冒険者と知ってからも躊躇なく攻撃してきたのもわかる。
「し、知らねぇ! 関係ねぇよ!」
「そうかい。まぁいいさ。どちらにせよあんたらをこのまま逃がすわけにはいかないねぇ。とりあえず警察署までは連れて行くよ。ダンジョン内で起きたこととは言え武器を所持して一般人を恫喝しているんだからね。警察まで連れていけばマッポたちも動かざるを得ないだろうさ」
「クッ」
「夜が明けりゃ冒険者ギルドも動く。いくら誤魔化したってPKやってたなら鑑定ですぐバレるからね。観念するこったね!」
先ず鬼姫が連中に言い渡し、その後は小柄な女の子が威勢よく言い放った。三人組が悔しそうに拳を震わせた。
「あらあら~これは~どっちにしろもう、詰み、て奴ですねぇ」
間延びした声で胸の大きな子が言った。どこか煽るような口調だなぁ。わざとだとは思うけど。
「――こっちが下手に出てりゃ調子に乗りやがって! こうなったらやるぞテメェら!」
「お、おい大丈夫なのかよ?」
「あぁ。よく考えたら鬼輝夜はここ数年は活動していなかった筈だ。その間も俺等はしっかり動いて実力を上げていたんだからな」
「な、なるほど。確かに数年のブランクがあれば腕だってなまってるに違いねぇな」
「そりゃいいや。それに鬼輝夜をやったとなればPKとしての泊もつく」
三人組が邪悪な笑みを浮かべながら武器を構えだした。こいつら――もうごまかしはやめたってことかよ。
「つまり、あんたらは自分たちがPKだって認めたってことでいいんだね?」
「あぁそうだよ。そしてここで残念なお知らせだ。お前らはここで俺等に狩られる!」
「素直に逃がしておけばよかったと後悔するんだな」
「ヘヘッ、やる前に少しは楽しみてぇなぁ」
こ、こいつら本当にゲス野郎だな。
「最低……」
「ワン!」
「ピキィ~!」
秋月の言葉に倣うようにモコとラムも声を上げた。あぁ確かに最低な連中だ。
「総長に挑もうなんて命知らずな連中だよ。だったらお望み通りわたしらも」
「いや、いい。こんな連中、あたし一人で十分だよ」
小柄な女の子が鎖を解き始めると、鬼姫がそれを制して自らが一歩前に出た。
「こいつらの言うように確かに腕もなまってるかもだからねぇ。そろそろ復帰しようかと思っていたから準備運動にちょうどいいさ」
鬼姫がそう口にすると腰に吊るされていた袋に手を突っ込み長大な得物を取り出した。あれは――金棒?
「さて。誰からやられたい? それとも同時に相手してやろうか?」
「クッ、そ、そんなもん虚仮威しだ! やるぞお前ら!」
重たそうな金棒を肩に担ぎ、指でクイクイっと挑発する鬼姫に向かって三人が同時に襲いかかった。
「いや、いくらなんでも一人じゃ」
「――問題ない。姉御があれを持てば鬼に金棒……」
心配する俺を他所に大柄な彼女が呟くように言った。そしてそれが現実であることはすぐに判明することとなり――
「オラァアアアァアアァアアァアア!」
気合一閃、鬼姫が金棒を振るうと三人がまとめて吹き飛ばされた。一人はダンジョンの壁に叩きつけられてそのまま貼り付けとなり、一人は天井に叩きつけられた後でバウンドし地面に頭を突っ込んだ状態で止まった。
もう一人はあの四人組の方に飛ばされ巻き込んでゴロゴロと転がっていた。あの四人はボウリングのピンのように弾き飛ばされ地面を転がって気絶していた。
「あちゃ~余計なもんまで巻き込んじゃったねぇ。こりゃ始末書ものかねぇ」
「キャハハ~
頭を擦ってしまったという顔を見せた鬼姫を指差し、ピンク髪の子が笑っていた。し、しかし一撃であれとは強すぎだろう――
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