第48話 農民の意地
「キャイン!?」
「犬っころが人間様に楯突いてんじゃねぇよ!」
モコの鳴き声が聞こえた。近藤の蹴りを体に受けてしまったからだろう。受け身は取ったようだが息が荒い。
「グルルウヴウウゥウウ!」
「生意気な目をしやがって。いいぜ見せてやるよ本物の実力って奴をな」
「やめろ! こっからは俺が相手だ!」
唸り声を上げるモコに拳を振り上げた近藤。だけどこれ以上は見過ごせない。
「ハッ? テメェ見てぇな弱っちいのが何を、て、鍬? ハハッ、何だこいつ! 武器が鍬かよ!」
鍬を構えた俺を見て近藤が声を上げて笑った。明らかにバカにしている。俺はなめられているってことだ。
だがそれならそれでいい。精々なめてかかって油断してくれよ!
「何ッ!?」
だけど、俺の最初の一撃を見て近藤の表情が変わった。残念ながら既のところで近藤が飛び退き攻撃は当たらなかったが、近藤が鋭い視線を俺にぶつけてくる。
「――なるほどな。なんで鍬かと思ったが、それなりの自信があってのことか」
構えが変わった! まさか俺が少し攻撃しただけで気持ちを切り替えた?
正直俺だって素人に毛が生えた程度だと思っていたんだが、思っている以上に楓の指導が身について至ったことか。
だけどそれだけじゃないのかもしれない。俺は出来るだけ目立たないよう地面にステータス画面を投影させた。
ジョブ名:農民
装備者:風間 晴彦
ジョブレベル:1
戦闘力:E+
魔法力:D
信仰力:C
生産力:B
成長力:D+
スキル
土壌改良(8㎡)、土鑑定、耕作力向上(小)、栽培力向上(小)、農民用初級鍬術、鍬強化、土穴砕
>>
お、おお。ジョブレベルが1に上がってた。それに戦闘力と成長力に+がついてスキルも増えている。なにげに土壌改良の範囲も広がっているけど、今は農民用初級鍬術というのが増えているのだ重要だ。
なにせそれに伴って鍬強化と土穴砕というスキルも増えているからな。これはどっちも戦闘系のスキルのようだし。
「これならいける!」
俺は鍬を振り上げ近藤に向けて振り落とした。近藤には避けられたが地面が大きく抉れた。これは威力が強化されているのは間違いなさそうだ。
これならイケると近藤相手に俺は鍬を振り回した。だけど当たらない――
「そんなもの当たるかよ!」
「グッ!」
近藤の正拳突きが俺の顔面にヒットした。思わず鼻を押さえてしまうが空いた腹に蹴りがめり込み吹っ飛んでしまう。
「くっ、クソ!」
「チッ、やっぱり雑魚か」
「風間さん! もっとコンパクトに稽古を思い出して!」
秋月の声が耳に届いた。そうかスキルがあるからとつい大振りになってしまった。だけどそれじゃあだめだ。
「女に助言受けるなんざ雑魚の証拠!」
「違う!」
俺は構えを変え近藤に向けて突きを放った。刃床部が近藤の動きを阻害した。
「チッ、鬱陶しい!」
舌打ち混じりに近藤が顔を顰めた。
「性別なんて関係ない。だが俺が頼りないのは事実だからな。助言は大歓迎だ」
おかげで流れが変わったからな。
「――調子に乗るなクソが!」
「余裕がなくなってるんじゃないか?」
イライラした顔で向かってくる近藤。そこで俺は地面に鍬を振り下ろしスキルを発動させた。
「土穴砕!」
地面が爆散し土や石の礫が近藤に命中した。
「グッ! 姑息な技を!」
「それはどうかな?」
「ワォオォォォオォオン!」
礫を受け怯んだ近藤の横から吠えるモコが飛びかかった。
ガラ空きの横っ面に向けてモコの回し蹴りがヒットした。
「アガッ、クソ!」
攻撃を受け近藤が尻餅をついた。悔しそうにモコを睨んでいる。
「ワオン!」
着地したモコは構えを取り近藤を睨み返していた。小さいながらも勇ましい。
「俺は一人じゃない。頼りになる相棒がいるんだよ」
「ワン!」
俺の言葉にモコが嬉しそうに声を上げた。近藤は舌打ちして立ち上がり俺を睨んだ。
ダメージ自体はまだそうでもないか。だけど俺とモコなら勝てない相手じゃないハズだ――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます