第32話 ギルドマスター
俺たちは天野川の案内でギルドマスターの部屋にやってきていた。目の前に見えるドアは一見すると普通だが相手がギルドマスターというだけあって何かものすごいプレッシャーを感じてしまう。
「こ、この中にギルドマスターがいるんですね」
「そう。でもそんな恐れる程のことじゃない」
天野川はこういうけど、やはり冒険者ギルドのマスターというだけで緊張してしまう。
「とにかく入る」
そう言って天野川がマスターの部屋のドアをノックした。
「天野川だ。今大丈夫か?」
「おう問題ないぞ入れ」
天野川、随分と砕けた口調で聞くものだな。それにちょっと驚きはしたけど天野川を先頭に俺たちも部屋に入ったわけだが――。
「フンッ! フンッ! フンッ! フンッ!」
そこではバーベルを担いだ強面の男が高速でスクワットを繰り返していた。いやめっちゃ鍛えてるぅううぅぅううぅうう!
「うん? なんだ天野川だけじゃなかったのか?」
「違う。彼は例のホームセンター近くで絡まれていた男」
「おお。いつの間にか消えていた謎の男か」
謎の男って……。
「謎の男って何かミステリアスな感じがするね!」
「ワンワン!」
「ピキィ~♪」
山守が目を輝かせて言った。モコとラムも何か喜んでいた。意味をわかっているかは不明だけどな。
「それよりマスター、お客さんが来てるときぐらいトレーニング控えた方がいい。怖いし」
「馬鹿言うな。トレーニングは美しいものだろう。まぁ後百回だからちょっと待ってろ」
言ってギルドマスターがまたスクワットを再開し始めた。俺たちは入り口で立ち尽くしていたんだが、
「なんだお前らそんなところに立ってないで座っておけ」
とギルドマスターに促されたので近くのソファに座ることにした。
「ふぅいい汗を掻いた」
俺たちが席につくと、1分も経たずにギルドマスターがトレーニングを終えた。
そしてギルドマスターがテーブルを挟んで対面する形で腰を落とした。何故か空気椅子で。どれだけトレーニングしたいんだよ!
「あの、今のバーベルは何キロだったんですか?」
「あぁ、あれか。あれは百五十キロだな」
「百五十!?」
軽く口にしているけどこのマスターとんでもないぞ。
「さて。自己紹介が必要だな。俺は小澤 勇だ。見ての通りここのギルドマスターをしている」
空気椅子状態でマスターが名前を教えてくれた。直後小澤の視線が俺に向けられる。
「さて、とりあえずそっちの名前も聞かせてもらおうか」
「は、はい。俺、いや私は」
「畏まらなくていいぞ。自分の言いやすい方でいい」
それはわざわざ私口調じゃなくていいってことか。
「それならお言葉に甘えて、俺は
「私は風間さんの付き添いできました
俺たちがそう伝えると小澤の視線がモコとラムに向けられた。じぃ~っと食い入るように見ている。これはまさか怪しんでいるのか?
「むぅ!」
そして一つ唸ったかと思えば小澤が立ち上がりモコとラムに近づいてきた。これはマズイ!
「待ってくださいモコもラムも悪いモンスターじゃ――」
「う、うぉおぉぉおおお! もう辛抱たまらん! なんて可愛いんだぁああぁあ!」
「「へ?」」
小澤の意外な言葉に俺と山守は素っ頓狂な声を出してしまった。そんな俺たちを他所にモコとラムが小澤に抱っこされてしまった。
「ワウ!?」
「ピキィ!?」
突然のことに驚きの声を上げるモコとラム。そんな二人に小澤が頬ずりしだした!
「ほぅら怖くないぞ~? うりうり~」
「ワフン~」」
「ピキュ~」
最初は戸惑っていたモコとラムも小澤のスキンシップを受けまんざらでもなさそうだ。一方でそれを見ていた天野川が額を押さえている。
「……やっぱりこうなった」
「えっと、つまり天野川はこうなることを予測していた?」
「うん。マスターは見た目こそ厳ついけど、三度の飯より可愛い動物などが好き。可愛いものならなんでも愛せる」
「そ、そうだったのか……」
見た目と随分とギャップがあるが同時に好印象でもあった。モコとラムは最初こそ小澤を警戒していたようだけど今は心を許している感じだ。
「マスター、そろそろ本題に戻る」
「むぅ、物足りないが仕方ない」
小澤の手を離れてモコとラムが戻ってきた。そして俺をジッと見てきた。これは――求められている!
「ワウ♪」
「ピキィ♪」
なのでモコとラムを撫でてあげると幸せそうな表情を見せてくれた。俺も凄く癒やされる。
「むぅ、羨ましい」
「マスター」
「わかってる」
ゴホンッと咳きし小澤がジッと俺を見てきた。
「天野川からの話だと、以前ホームセンターで出会った時には既にそのモンスターを使役していたようだな。だが冒険者としてギルドに登録するのは今回が初めてだという。これはどういうことか聞かせてくれ」
真剣な目で小澤が詰問してきた。やはりそこを突かれてしまった。天野川にも見られている以上そこはごまかしようがないか――
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