第30話 注射が苦手?

「そ、そうなんですよ。本当こうやって改めてステータスを確認すると喜びも一入で。ははは!」


 俺は苦しいながらも何とかごまかそうと必死だった。


「そ、そう。まぁ別にいいけどね」


 どうやら立川も納得はしてくれたらしい。ふぅ、よかった。俺は書かれていたステータスを思い出す。そういえば使役者の名前がしっかり俺になっていたな。名前も俺がつけたままだった。


 よく考えると不思議だけどモコとラムに懐かれたからなのだろうか。どちらにしてもそのおかげで助かったな。そこに名前があったからこそそこまで追求されなかったわけだろうし。


「さ、それじゃあ次は採血ね」


 そんなことを考えていると、立川が徐ろに注射器を取り出した。それを見たモコとラムが一瞬にして俺たちの背後に回って足にしがみついてきた。


 モコもラムもガタガタと震えている。注射器を見て怯えてしまっているようだ。


「ピィ、ピキィ~……」

「クゥン……ワン……ワン……」

 

 モコとラムの鳴き声がか細い。よっぽど怖いのだろうけど――


「えっとそれ、どうしても必要ですか?」

「当然よ。未知のモンスターだからこそ何か病気を持っていないか検査しないといけないわけだし」


 そう言われてしまうと嫌だと突っぱねるわけにもいかないよなぁ。


「あの、ラムはスライムで血は採れないと思うのですが」

「体液でもいいのよ。そういうのも含めて検査出来る体制が出来上がっているんだから」

「そ、そうですよねぇ」


 山守も何とかならないか考えての発言だったんだろうが見事に撃沈した。


「大体注射なんてちょっとチクッとするだけよ。そこは主人の貴方がしっかりしてくれないと。こんなに可愛い子たちだから甘やかしたくなる気持ちもわからなくもないけどね」

「う、すみません……」


 思わず頭を下げていた。言ってることはもっともだ。俺も覚悟を決めないといけないか。それにここで検査を受けるのは結果的にラムとモコの為になる。


「モコ、ラム。怖いかもだけどこれはとても大事なことなんだ。俺もそばにいるから少しだけ我慢してくれるかい?」

「……ワン!」

「ピキィ!」


 俺が説得を試みると気持ちが伝わったのかモコとラムが前に出た。まだちょっと震えているけど覚悟は決まったようだ。


「じゃあやるわね。ちょっとチクッとするだけだからね」

 

 言って立川は手早く注射を済ませた。最初は怖がっていたモコとラムも終わってみれば、もう終わり? といいたげなぐらいキョトンっとしていた。


「うん! モコもラムも偉かったよ!」

「ワンワン♪」

「ピキュ~♪」


 山守に撫でられてモコとラムもごきげんだ。同時に誇らしげでもある。


「これで終わりね。このまま元の登録所まで戻ってくれていいわよ。検査結果は分かり次第送るからね」


 そういって椅子に座りパソコンを操作する立川。他にも仕事があるんだろうな。俺たちはそのまま部屋を出ようとしたのだが。


「待って! やっぱり、その少し撫でてもいい?」


 部屋を出る直前に呼び止められ立川に懇願された。どうやら彼女もモコとラムと触れ合ってみたかったようだ。


「モコとラムが嫌じゃなければ別にいいですけど」

「ワン!」

「ピキキィ~♪」


 俺の答えに嬉しそうに反応してきてくれた。よかった二匹とも立川の撫で要求を受け入れてくれたようだ。


「うわぁ、可愛い! モコはもふもふでラムはひんやりしていてとても気持ちいい!」


 立川は二匹を優しく撫でてご満悦のようだ。そして撫でながら俺たちに話しかけてきた。


「ありがとう。結構この仕事も疲れるからね。いい気晴らしになったわ」

「お役に立てたようで何よりです」


 そう答えると立川は満足げに微笑んでいた。うん、やっぱり可愛いは正義だな。

 

 そんなことを考えつつ今度こそ部屋を出る俺たち。そのまま言われた通り元の部屋に戻ろうと思って歩いていると前方からも若い女の子の姿。あれ? でもどこか見覚えが――


「貴方、前に見た――」

 

 廊下ですれ違った女の子が思い出したように声を掛けてきた。見覚えがあると思ったのは気のせいじゃなかったようで向こうも俺を覚えていたようだ。


「前にホームセンター近くで会ったわよね?」


 そこまで言われて思い出した。モコと初めてホームセンターに買い物に言った帰り、妙な連中に絡まれていたところを助けてくれた少女だ。

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