第21話 山とダンジョンの後継者
「もしかして亡くなっていたのか?」
俺は思い切って落葉の爺さんについて確認してみた。彼女の様子からそんなことを感じ取ったからだ。
「はい。そうなんです。自宅で急に倒れてそのまま――」
やはりそうだったのか……随分と元気そうに見えたのだけどやはり人間いつどうなるかわからないな。
「いい人だったんだけどな……」
「そ、そうですよね! お爺ちゃんはいい人ですよね!」
俺が落葉の爺さんの顔を思い出しながら呟くと、山守がぐいっと顔を近づけてきた。よ、よく見ると可愛い子だな。クリクリっとした大きな瞳で見られるとちょっとドキッとしてしまう。
「あ、あぁ。山には厳しい人だったけど、こっちが正しく山を利用する分にはとやかく言われなかったし面倒見も良かったよ」
「そうなんです! お爺ちゃんはとっても厳しい人だったけど、でも本当は誰よりも山のことを愛している人でした。山のことを一番に考えてくれる人だったんです!」
山守が目を輝かせて熱弁する。こうして聞いていると改めてあの爺さんは凄い人だったんだなぁと思ってしまうな。
「でも、お爺ちゃんを誤解している人も多くて……親族も価値がある遺産は散々奪い合って置きながら、この山に関しては誰も引き継ごうとしなかったんです。折角ダンジョンが見つかったのにお宝も何もない負の遺産だなんていい出して……私、腹が立ってつい言っちゃったんです! この山は私が相続して守ってみせるって!」
「えぇ! 君が!」
「ワオン!?」
「ピキィ~!?」
俺が驚くのに釣られてかモコとラムもびっくりしていた。二匹とも目を見開いている。
「は、はい! お爺ちゃんには本当にお世話になったから。お爺ちゃんのおかげで山が守れたって……そんな私がこの山を守れないなんておかしいじゃないですか」
どうやら彼女の意思は固いみたいだな。落葉爺さんのことを心から慕っているのがよく分かったよ。しかし、そうなると気になる点がある。
「君はまだ若いみたいだけど、この山を相続して大丈夫なのか? 管理も大変だと思うが」
「う!」
山守がたじろいだ。わかりやすい反応だな。この様子を見るにやっぱり山を相続するもその後が大変そうだ。
「やっぱり簡単ではないか」
「じ、実はそうなんです。山の維持にもお金が掛かるみたいだし固定資産税が掛かって」
やはりそこか。実はこれがただの山林というだけなら固定資産税そのものはそこまで高くはない。しかしここには放置されているとはいえダンジョンが見つかっている。
この場合、支払う税に大きく伸し掛かることになるとは聞いた事があったな。もっとも普通ならダンジョンから得られる恩恵の方が大きいので固定資産税などを支払っても十分なプラスが見込めるのだが、ここのようなお宝も手に入らないダンジョンだとそれもない。
一応放置されているダンジョンということで最低限の価格にはなると思うが――
「それで幾らぐらいかかるものなんだ?」
「それが最低でもダンジョン税で年間八十万円。それに加え固定資産税にも上乗せされて合計で年間百五十万円程かかるそうで……」
それは結構掛かるものだな。
「お爺ちゃんが残してくれた遺産は他には?」
「うぅ。私が山を相続すると決めたから残りの遺産は全て他の親族でわけあってしまったんです。だから山とこのダンジョン以外何も残って無くて……」
それはまた酷い話だな。結局山守はお金のかかる山を押し付けられたようなものか。いや、でも山守が自分から望んだ以上、押し付けられたとも違うのかな。ただ他の遺産が貰えないというのは何ともな。
「あの、でも実はちょっとびっくりしてるんです」
「うん? びっくり?」
「はい。ここのことを知ってる親族が散々ダンジョンを馬鹿にしていて、ゴミ捨て場にしか使われてないとか便所の落書きと変わらないとかそんなことを……」
とんでもないな。まぁ最初来た時は確かにそれに近かったが、言い方ってものがあるだろう。
「でも来てみたらそんなことはなかったんです。全然散らかっていないし」
「あ、あぁ。それは一応ここで世話になってる身だからな。俺たちで掃除したんだ。それで今は綺麗になってる」
「えぇ! そ、そうだったんですか! ということはもしかしてこの子たちも?」
「あぁ。一緒に掃除を手伝ってくれた」
「ワンワン!」
「ピキィ~!」
俺が説明するとモコとラムも誇らしげにしていた。そんな姿も可愛らしい。
「はぁこんなに可愛いのにお手伝いまで、お利口さんですね。最高ですぅ~」
「ピキ~♪」
「ワフン♪」
山守が二匹を抱きしめて喜びの言葉を伝えていた。それにしてもモコとラムもすっかり彼女に懐いているな。
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