第6話 公園の鬼姫

「あの、ありがとうございました」

「ん? 別にいいってことだ。ついでにやったことだしね」


 俺がお礼をいうと鬼姫がそう答えた。でもついでとは?


「ママぁ! 格好良かったよ!」

「おお、そうかいそうかい」


 鬼姫の口ぶりに何かと思っていると女の子が駆け寄ってきて鬼姫に抱きついていた。


 なるほど。彼女も母親で娘の様子を見に来たということか。その時に俺と大黒のやり取りを見て助け舟を出してくれたわけだな。


「それにしてもあの大黒……さんは何だかパワフルな相手だったけどよくあそこまで強気に出れましたね」

 

 大黒という女に関して言葉を選びながら聞いてみた。なんとなくだが弱みでもありそうな雰囲気だったんだよな。


「あぁ。あたしは昔ヤンチャしていた時期があってね。あいつも似たようなもんで当時あたしに喧嘩売ってきたからボコボコにしてやったことがあるんだよ。それが原因かもね」

「な、なるほど……」


 確かに何だかそんなオーラを纏っている気配はあったけどな――


「ママはねとっても強いんだよ! ぼうけんしゃをやっててBらんくぅ? なんだよ!」

「もう桜ってば――」


 女の子が鬼姫について教えてくれた。そうか冒険者なのか。しかもBランク、それは確かに凄いのかもしれない。


「桜ちゃんって言うんだね。可愛くて良い名前ですね」

「ありがとう。この子はあたしの宝物さ。あんたの飼っているモンスターも可愛いじゃねぇか大事にしなよ」

「ありがとう。そう言ってくれてモコも喜んでいるよ」

「ワン♪」


 両手を上げて笑顔で尻尾を振るモコ。これは確かに可愛い。


「こんなに可愛いのになんで怒ってたのかなぁ?」

 

 桜が小首をかしげた。怒ってたというのはあの大黒のことだろう。


「モンスターも随分と受け入れられてはいるけどね、それでもまだまだ偏見を持った連中は多いってことさ」

「へんけん?」

「あぁ、偏見というのはね」


 鬼姫が子どもに説明していた。そして俺も考えさせられる話だ。モコは可愛いけど確かにモンスターというだけで嫌悪感を示す人は今後も出てくるだろう。

 

「さて、それじゃあそろそろ行こうか」

「ワン」

「え~もういっちゃうの~?」

「もっと遊びたかった~」


 俺の言葉に子どもたちが名残惜しそうにしていたが流石にそろそろいかないといけないからな。


「また今度モコと遊んでやってくれると嬉しい」

「うん! もこまた遊ぼうね!」

「ワウ!」

 

 桜がモコの頭をなでながら言った。モコも嬉しそうに答えている。


「そういえばあんたも冒険者なんだろうけどランクは幾つぐらいなんだい?」

 

 子どもたちとの話し、さぁ行こうかと思ったその時、鬼姫に聞かれてしまった。


 マズいな。そもそも冒険者じゃないんだが。


「まだ下の方なんだ。そんなに活動してなくてね」

 

 とにかくそれらしいことを言ってごまかすことにした。これで納得してくれるといいんだけど。


「そうかい。ならあたしは鬼姫おにひめ 輝夜かぐやって名前で活動しているから何かあったら頼ってくれていいからね」

「あ、ありがとうございます。俺は風間 晴彦でこっちはモコと言うんだ。助けがいるときにはお願いするよ」


 そこまで話して俺はモコと一緒に公園を後にした。


 そういえば思わず名前を明かしてしまったな。あの感じなら大丈夫だとは思うけど……まぁ言ってしまったものは仕方ない。


 とにかく今はホームセンターまで急ぐとしようか――





◇◆◇


「さて着いたか」

「ワウゥ」


 目的地に到着した頃にはモコは疲れた様子で息を切らしていた。どうやら公園の事といいはしゃぎすぎたらしい。


「ほらほら大丈夫か? とりあえず水でも飲むか?」

「ク~ン……」


 俺の言葉に甘え声で答えるモコに思わず笑みがこぼれる。


 俺から受け取ったペットボトルの水を口にして飲んでいるがそんな姿も可愛らしいな。見ているとまるで子どもみたいだ。


「ワウ!」

「ん? どうした?」

「ワウワウ」


 水を飲み終えた後、何やら突然走り出して店内に入っていく。一体どうしたんだ? 慌てて俺も追いかけるとどうやら陳列されている商品に興味を持ったようだ。


「これか? これはネイルガンだよ。トリガーを引くと釘が打てるんだ。で、釘というのが……」


 モコが興味を持ったものを俺が説明してあげる。しかしモコは本当に好奇心旺盛だなぁ。


 でもネイルガンか。これはともかくとしてもさっきの大黒のようなのがいると考えるとして中には危害を加えてくるのもいるかもしれない。


 そう考えたら護身用に何か考えておいてもいいかもな。ここにもいいツールがあるかもだし。


 そんなことを考えつつもモコと店を見て回る。モコはどれも新鮮に見えるのか凄くはしゃいでいた。


「可愛らしいモンスターですね。あなたの使い魔ですか?」

「え? あ、はいそうなんですよあはは――」


 モコといろいろ見ていたら女性の店員に声を掛けられた。モコに興味を持ったようだけど使い魔か――やっぱり一緒にいるとそうみるんだな。


 使い魔というのはテイムしたモンスターを指して言われているようだ。普通のペットとは区別されそう呼ばれているんだとか。


 店員に撫でてもいいですか? と聞かれたのでモコを見たけど嫌がる様子はなかった。なので許可すると気持ちよさそうに撫でられている。


「この子はモコって言います。ちょっと特殊な子ですけど良い子なんで可愛がってあげてくださいね」

「えぇそうしますね」


 そういって店員さんが俺のそばから離れようとした時だった――何かがものすごい勢いでこちらに近づいてくるのを感じた……。

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