第56話

そっと店の中をのぞくと、中には6人程のお客さんがいて、けっこう混んでる。

レジには紗香がいて、その隣には見知らぬ女性…あれ?バイトの人、雇ったのかな?…その人がパンを袋に入れていた。

お母さんは、窯の方かな?

紗香はなかなかこっちを見ないから、私は扉を開いて店の中に入った。

あぁ、パンのにおいが食欲をそそる。




「いらっしゃいませ。」


扉の方に顔を向けた紗香が私に気付き、驚いたような顔をしたけれど…

ちょうど、レジにお客さんが来たから、すぐに私から視線を外した。

仕事中だもんね。

邪魔は出来ない。

私は、トングとトレイを持って、パンを選ぶことにした。




どれもとっても美味しそう。

っていうか、マジで美味しいんだよね。

お母さんは子供の頃からパン屋さんになるのが夢で、高校を卒業して製菓の専門学校に入って…

地道に頑張ってるうちにお父さんと出会って結婚して、私や妹を産んで主婦となって、その夢はいつの間にか諦めたけど、私たちが大人になってから、お父さんの応援でやってみることになって…




考えてみれば、お父さんって意外と良い人だよね。

当のお母さんが諦めてた夢を、お父さんはずっと覚えててくれたんだもんね。

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