替え玉の王女と天界の王子は密やかに恋をする

ルカ(聖夜月ルカ)

良いことと悪いこと

第1話

「……様、ご機嫌麗しゅうございます。」


「……様、今日はとても良いお天気でございますね。」




生地は肌に吸い付くような感触で、歩く度にドレスの長い裾が床を擦る音がする。

マーブル模様の床は冷たい石で作られ、綺麗に磨き上げられている。

長い廊下の真ん中には、ふかふかした緋色の絨毯。

見上げると、そこには美しい女神や天使の天井画が広がる。




「……会いたかったわ…とても……」


白い、か細い指…

腕には青い宝石の付いたバングルが輝いている。

その手が私に向かって差し伸べられて…

私は、なぜだかその手を握り締めることを躊躇する。







「はっ!」




目が覚めて、今見ていたのが夢だとわかって安堵する。

でも、まだ鼓動は全速力で駆けた時みたいに速い。




特に怖い夢というわけではないのだけれど、何かものすごく心がざわざわした。

多分、このところ、同じような夢を何度も見たせいだ。

何度も見るってことは、何か意味があるんじゃないかって気になってしまう。




でも、それが何なのかは全くわからない。

それと、夢の中で言われてる言葉が、どうしても聞き取ることが出来ない。

きっと、それは私の名前だ。

でも、『紗季』とは言ってないように思える。

もちろん、『内山』でもない。




(ま、いっか……)




考えてもわからないことは、考えるだけ無駄というものだ。

鼓動も落ち着き、私はベッドから起き出した。

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