第6話 おかえり、黒ぶちメガネ

ショックな出来事は突然やってくる。

当たり前だ、事前に予告してくれるはずはない。

神様は意地悪だ。

沙樹は衝撃的な光景を目の当たりにしていた。


沙樹はいつも通り高校を出て駅に向かっていた。

読みたい本があったので、駅前の本屋さんに寄った。

好きな作家のシリーズの最新作が出たのだ。

いつも発売日に買って、その日中に読み上げ、後からもう一度じっくり読むのが常だ。

沙樹はウキウキしながら本屋に入ると、聞いたことある声がする。

「早乙女くんのおすすめはどれ?」

甘えた声の主は望月だ。

早乙女は、「普段本読まねえならこれが読みやすい」そう言って本棚を指差している。

「えー、そうなんだー」

望月は嬉しそうに隣で体を早乙女に寄せている。

思わず、サッと見つからないようにしゃがんで隠れた。

早乙女が微笑んでいる。

(あんな顔するんだな…)

周りのお客達が「かっこいいね」「女の子もかわいい」「お似合いだね」と言っているのが聞こえる。

ふと横を見ると、本屋の窓にしゃがんで隠れている自分が映っている。

(私じゃお似合いには…)

沙樹はそのまま見つからないように本屋を出た。


翌週の金曜は、早乙女を見ると、望月と楽しそうな本屋にいた姿が思い出されて、胸が痛い。

早乙女はチラリとこちらを見ていたが、沙樹に話す気がないとわかったのか話しかけたりしてくることもなかった。

「今日は急いで帰らなきゃいけないから」

図書館を出た後も何の用事もないくせに走って帰った。

胸が痛めば痛むほど自分は早乙女が好きなのだと自覚させられる。

(早乙女くんは私のことどんな風に見えてるの?)

ため息をついて、空を見上げると一番星が輝いていた。


その後も沙樹はなんだかモヤモヤして気分が晴れないまま過ごしていた。

「沙樹、どうしたの?コンタクトは?」

「目が痛いからやめた」

沙樹は家用の黒縁メガネをかけていた。

「なんでよー可愛かったのに」

真里はしつこく理由を尋ねてきたが、沙樹は目が痛いからだと言い切った。

授業を聞きながら、窓の外を眺める。

青空が広がっていて、今すぐにでも遊びに出たい気分だ。

早乙女は真剣な顔で授業を受けている。

横顔も綺麗だ。

(調子のってたなぁ、私)

早乙女くんの横に私が並べるなんてありえないのに、助けてもらったり、同じ図書委員になったりしたのも運が良かっただけだ。

それを何を勘違いしたか、コンタクトをつけ、髪型を変え、本当に恥ずかしい。

窓に映る自分は昔と変わらない黒縁メガネの地味な女の子だ。

そんな姿を早乙女が見ていることに沙樹は気づいていなかった。

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