第20話 終曲

 親衛隊はミサに襲い掛かろうとするが、次々とミサのnoise、重力によって地べたへと這いつくばっていた。


 「こんなもんなの?貴方達親衛隊の愛はこの程度のようね?」

 「たっく、情けない奴らだぜ。どいてな、俺様がこんな女叩き潰してやるぜ?」


 ミサの挑発によって、現れた男は2メートルを超える巨漢の男だった。

 重力による重みを意に返さず、男はニヤリと笑いながらミサを握り潰そうと掴んだ。


 「へっへっへ、捕まえたぜミサちゃん。さぁてどうやって握りつぶッ、!?」

 (な、何だこいつ!?に、握り潰せねぇ!?)

 「どうしたの?私を握りつぶすのなんて簡単でしょ?その体は見せかけかしら?」

 「な、舐めやがってぇぇぇ!!!」


 巨漢の男はもう片方の腕で叩き潰そうと拳を振り落とした。しかし、またしてもミサは叩き潰されないどころか、その拳を受け止めていた。


 「そんなバカな?どうなっていやがんだ!?」

 「どうもこうも、貴方が弱すぎるだけよ」


 そミサは拳に重力波を纏わせ巨漢の男を殴りつけた。殴られた男は地面にめり込んで意識を失った。


 「次、きなさい」


 ミサが放つアイドルとは思えない気迫に蹴落とされた親衛隊達は完全に戦意を喪失させていた、しかし鈴美のとある一言によって状況が一変した。

 

 「皆んなぁ〜私のために死んで?」

 「お、おぉぉぉぉぉ!!!」

 「いいわね、それ便利そうじゃない」

 「あげないよ?」


 鈴美の声を聞いた親衛隊達は皆、骨を軋ませる者もいれば手足が潰れる者達までいるのに立ち上がりミサに再び襲い掛かってきた。


 「何度来ても同じよ私には勝てないわよ?それどころかその人達、二度と起き上がれなくなるわよ」

 「そんなの知らないよ。じゃあミサが能力解けばいいんじゃないの?自分勝手なのは嫌われるよ」

 「どの口がいってんのよあんた」


 ミサはしぶしぶ能力を解いた。そして親衛隊はミサを捕らえ鈴美の前に連れてきた。


 「まさかミサも能力持ってたなんて本当に驚いちゃったよ?でもまぁ私の勝ちだね。道具ファンを道具として見れなかったミサの敗因だよ」

 「・・・そう」


 道具ファン・・・その一言がミサの堪忍袋を完全に爆発させるきっかけとなった。


 「最大出力」

 「ッ!?」


 突如、鈴美達は再び地面に叩き落とされた。

 鈴美の洗脳によって限界以上の力で動いていた親衛隊達でさえ、身動きが全く取れていなく鈴美はミサがまだ本気を出していなかったことに今更気がついた。


 「ぐっぐぅぅぅ、!み、ミサあ、あな、た、」

 「その通りよ。貴方相手に本気でやる必要はないと思っていたんだけどね。お灸据えないとダメらしいから本気でやってあげたのよ」

 「し、しんえ、い」

 「一生起き上がれないかもね?だから無駄話はここまでよ後は黙って私に殴られなさい」


 ミサのnoise"重力"は自分を中心に発生させる能力の為、発生させれば自分もその影響下に入ってしまう。その為、ミサは普段から自身の能力を発動させ重力に耐える特訓を課していた。巨漢の男が問題なく動けていたのはミサよりも体格に優れていたからに他ならない。

 最大出力を発動させればミサでさえ立ってられるのは数分間のみとなっている。


 「さて、鈴美覚悟はいいかしら?貴方に今まで散々利用されてきた人達の分もこの拳に込めさせ貰うわ」

 「ちょ、ちょっと、待って!ミサ!わた、」

 「あと!」

 「!!!?」

 「貴方の事を本当の友達だと思ってた私の気持ちもぶつけさせてもらうわね?」

 「まッ!!」

 「"重弾"!」


 "重弾"ミサが最大出力を出している中で更に同じ出力を拳に纏わせ、相手の真上からその拳を振り落とす技。ミサにも相応のデメリットがあるが必中必殺の切り札。

 ミサが放った重弾による振動はドーム中に広がり、カケルとダイの二人がいた場所まで伝わった。

 

 「終わったみたいだな」

 「だな、俺達もとっとと戻ろうぜ?」

 「そうだな」


 部屋にいたすべての親衛隊を叩き潰し、二人でミサの決着が着くのを待っていた二人もミサがいる楽屋へと戻っていった。


 「よぉ、終わったみたいだな」

 「あら、遅かったわね」


 楽屋はミサの拳によってひび割れ今にも崩れ落ちそうな状態にまでなっていた。

 カケルとダイは横たわる親衛隊を避けながら(たまに踏みながら)ミサの元まで訪れた。


 「何だ当ててないのか」

 「当てたら死ぬわよガチで」


 カケルは気絶した鈴美のお腹の横の地面に拳の跡があるのを見て少しホッとしていた。


 「俺達には毎回打ってたくせによ」

 「あんた達死なないじゃない」

 「「だからって打つな!」」

 「何よ!やる気かしら!?」

 「うッ!?」


 三人が殴り合いの喧嘩を始めようとした時、鈴美は気絶から目を覚まして起き上がった。


 「なん、で・・・ッ?」

 「貴方みたいな人殺しにはなりたくないだけよ」

 「くッ、何で、何で貴方ばかりが目立つのよ!私が洗脳の力を使ってやっと手に入れた地位を貴方は容易く手に入れる!ずるいわ!貴方だって私と同じ癖に!他人を道具としか思ってない最低な女な癖に何であんたなんかがッ!!!」

 「あんたないい加減に、!」

 「いいのよカケル」


 カケルが何か言おうとしたのを遮りミサは鈴美の目の前まで来てしゃがみ込んだ。


 「あんたと私の違い教えてあげようか?私は別に周りを道具なんて思っていないのよ。ただそれだけよあんたと私の違いなんてね。それじゃあね」


 ミサはそう言って楽屋を出て行った。


 ーー


 その後、鈴美の洗脳が解けた事により警察が動き出しライブは中止となった。

 鈴美も駆けつけた九条達によって警察へと連行されて行った。to swapのメンバーも事情聴取の為に警察署へ行く必要があるという。

 当然、俺ことカケルは九条にしっかりと今回の事を請求するつもりであったが楽屋や俺とダイが連れて行かれた部屋の弁償代でチャラにされた。


 「くそ〜九条の野郎」

 「仕方ないじゃないの、本来なら莫大な請求来るところを警察で何とかしてくれるらしいから良かったじゃない」

 「納得いくかよ。そもそもあいつらがしっかり動いていればこんな事にならなかったんだぜ?」

 「ごちゃごちゃうるせぇなぁカケルゥ」

 「黙れ」

 「「あ?」」

 「あんた達辞めなさい!」

 「あ、いたぜ!おーいカケル〜!」


 警察に保護されていた三人の元に黄昏荘の仲間達も合流した。


 「お前また問題起こしたのかよ!」

 「俺じゃねーよ!」

 「カケル無事?」

 「おお!無事だぜ?ありがとうな葵」


 カケルが黄昏荘の面々と仲睦まじくしているカケルの姿をミサは物珍しそうに見ていた。


 「へぇ〜カケル中々楽しそうじゃない」

 「あ?そうか?どうでもいいわ」

 「あ、あのミサさん!」


 ミサが振り返るとそこには青と緑が色紙をもって立っていた。


 「あら?貴方達カケルの家にいた子じゃない。確か青ちゃんと緑くん」

 「はい!ミサさんのサイン欲しくて!できれば他のメンバーのも!」

 「欲望に正直な子ね〜、気に入ったわ幾らでもあげるわ」

 「「わーい!わーい!」」


 ミサがサインを二人に書いてあげている中、ふと興味深い内容の会話が聞こえてきた為、耳を傾けた。


 「それにしても葵ちゃん、本当に良かったのかな」

 「ミサミサの事好きって言って言ってましたもんね。急にスズミンに変えるなんて」

 「その話、詳しく聞かせてくれない?」

 「え?」


 話を聞くとどうやらあの日、黄昏荘に来た後から葵と呼ばれている少女は私からスズミンへと推しを変えたらしい。

 ミサはチラッとカケル達の方を見て少し考えた後、笑みを浮かべながら


 「なるほどねぇ」


 と呟いながらサインを書いた色紙を二人に手渡した。他のメンバーは後から持ってきてあげると言ったと同時に警察官に呼ばれた為ミサは立ち上がった。


 「じゃーねカケルまた近いうちにね?」

 「おう、またな」


 カケル達がいる方まで行き一言そう伝えて警察官の元へ歩いて行った。


 ーー

後日


 俺は一階から来る物音で目を覚ました。かなりうるさく音が鳴っており、俺はイライラしながらベッドから起き上がり一階に降りて行った。


 「おい!朝っぱらからうるせぇぞ!一体な、に、して、・・・何してんの!?」


 一階では何やら、玄関から荷物が次々と持ち込まれており、模様替えしてるのかと考えていたカケルの元に和装の女性がそそくさと駆け寄ってきた。


 「あぁ、カケルさん!実はゴニョゴニョ」

 「はぁ?住人が一人増えるぅ〜!?」

 「そうゆうことよ!そこの人に聞いたところによれば部屋はまだ沢山空いてるらしいじゃないの」

 

 玄関からの声に振り返るとそこにはミサが立っていた。音を聞きつけて降りてきた住人達もミサの突然のここに住む発言に驚いていた。


 「じゃあ!改めてto swapメンバーの一人ミサミサことミサでーす!これからよろしくね?」

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