第15話 違和感

 翌日ニュースではto swapのプロデューサーが死亡したと報道され世間では一気にその話で持ちきりとなった。


 「こりゃひでぇな・・・」


 そして俺は今、話題となっているプロデューサーが亡くなったto swapの事務所まできていた。

 現場には既に警察が来ており、一般の人が入らない状態になっていた。

 俺は辺りを見渡して、毎度お馴染みの九条を探した。


 「お、いたいた。おーい!九条ぉーーー」

 「何度も言わすな九条さんだ」

 「どんなかーんじ?」

 「お前治す気ないだろ。まったく現場は見ての通りだ」


 どうやら事務所の一室に爆弾が仕掛けられていたらしく、そこを中心とする一部の場所のみ爆発跡が残っていた。


 「ミサ、いやアイドル達は?」

 「別室で個別に話を聞いている」

 「俺にも合わせてくれないか?」

 「珍しいな依頼も受けてないのに動くなんて」

 「まぁな」


 九条に連れられて俺はto swap達がいる部屋へと赴いた。部屋を開けると見るからに淀んだ空気が充満していた。・・・例外を除いてだけだけど。


 「あら、カケルじゃない。何どうかしたの?」

 「ん?警察に捜査協力頼まれたの」

 「何も頼んでいないぞ」

 「あれ?そうだっけか!まぁ気にすんなよ」


 カケルは部屋へと入りミサを除いた残りの四人のアイドル達に目を向けた。

 カケルがここにきた理由は今回の事件を起こしたのが、ここにいる五人の誰かだと考えたからだ。


 (なるほど全くわからん。そもそもミサ以外の名前を知らんかったわ。それに俺どちらかと言うと足で情報集めるタイプなんだよね)

 「九条後でこいつらのこと教えてくれ」

 「構わんが九条さんだ」


 カケルはミサと少し雑談をして九条と共に部屋を後にした。部屋を後にしたカケルは早速昨晩の情報を九条から聞き出した。

 昨晩はこの事務所には既にto swapとプロデューサーであるMr.ミックしか残っていなかったらしく、爆破が起きた時には五人はレッスン室にミックは爆破が起きた部屋で資料作成をしていたらしい。レッスン中は五人でずっと一緒にいたらしく、トイレに出たのも皆んなでらしい。


 「あ?じゃあ爆弾は誰が」

 「さぁな?それが別れば私たちも苦労しない。とりあえず今は他の従業員とアイドル達に話を聞いている途中だ。勿論、外部犯の可能性も考えて捜査もしている」

 「なるほどなぁ。にしてもここまでの事が起きたんだ、ドーム公演は中止だよなぁ」

 「何を言っているんだ?ドーム公演はやるに決まっているだろ?」

 「は?」


 九条の口から発せられた言葉にカケルは思わず、自分の耳を疑った。

 仮にも人が一人亡くなっているのだ。カケルはアイドル業のことはよく分かっていないが、こんな事態の中でもやるなんて普通に考えておかしいと思った。


 「待て待て、人死んでんだぜ?なのに何で、、」

 「ニュースも見てないのか?今回の事件の事をto swapの星咲鈴美が記者会見を行ったんだ。その時の気丈に振る舞いながら亡き恩師の為にドーム公演は中止しない意向を示したんだ」


 どうやら、それが決め手となり世間ではそれに対する反対意見すら出ていないらしく、to swapの社長なども中止にはするつもりはないらしい。


 「・・・なんかおかしくね?」

 「何がだ?お前もニュースを見てみろ私も見たがアレを見たらもう中止など考えることもなくなるぞ」

 「そうか、分かった帰ったら見てみるよ」


 そう言って俺は現場を後にした。

 黄昏荘までの道すがらそのニュースを見てみたが、特に感動する内容でもなく、至ってありふれた会見だった。


 「これの何処が感動ものなんだ?」


 頭を傾げながら俺は黄昏荘に帰ってきた。

 家のドアを開けリビングに入ると葵と昨日の男女の二人組が何かを作っていた。


 「ただいまぁ」

 「おかえり」

 「あ、お邪魔してます!初めまして私青って言います!葵ちゃんとは同じ青系女子という事で仲良くなりました!」

 「ぼ、僕はみ、緑川緑りょくと言います」

 「あ、どうもカケルです」


 ハキハキと喋る青という少女と少しオドオドしている少年、緑りょく達はto swapのメンバーの名前が書かれたうちわなどを作っていた。


 「あぁ、なるほど。ライブに行くんだったな」

 「はい!それで今日は葵ちゃんの家でこうして持って行くものを手作りしているんです」

 「カケル何で知ってるの?私言ってないよね?」

 「え?あ、えーと・・・」


 嘘を見抜くnoiseを持つ葵に対し、昨日の尾行を隠し通すことは実質不可能であり、俺は渋々昨日つけていた事を話した。

 中学二年生、思春期真っ只中でおまけに葵は基本的に割と頑固で気難しい性格をしている。当然許される訳もなかった。


 「最低」

 「はい、僕は最低のゴミクズ野郎です」

 「紙に百回それ書いて」


 俺は葵から渡された紙と鉛筆で床で正座しながら黙々と書くことにした。

 俺が正座で文字を書いている頃、三人は俺なんて見向きもせずに、楽しそうにto swapの話をしていた。

 因みに俺は今十回目を書き終えたところだ。


 「そう言えば葵ちゃんは誰が一番好きなの?」

 「ぼ、僕はアッキーですね。初めは最年少って事で歌とかダンスもお世辞にも上手くなかったんですけど、努力し続けて今では他のメンバーとも遜色ないレベルにまで行った彼女は尊敬なら値しますよ。あとあの天真爛漫さがいいですよね」


 急に早口で喋り出したなあいつ・・・

 青と葵の二人も若干引き気味な中、葵も口を開いて推しを二人に教えた。


 「私はミサミサのファン」

 「へぇ〜意外だね」

 「あの人、嘘つかないから・・・」

 「嘘?」

 「何でもない。あなたは?」

 「私はねスズミンかなぁ。やっぱり五人の中でもずば抜けて歌もダンスもトークも上手いし、何よりも笑顔が可愛くて人当たりもいい非の打ち所がない完璧美少女!いいなぁ、憧れるなぁ」


 三人で盛り上がっている中、俺はミサにファンがいる事に少し驚いていた。いやアイドルだからファンがいて当然なんだけどね。

 それにしても昔からの付き合いだが、未だにミサがアイドルをやってるなんて信じられない自分がいた。 ミサは昔から自分至上主義で傍若無人な人物で、俺とダイはそんなミサに昔から付き合わされては酷い目にあっていたのだ。


 「それがまさかアイドルとはなぁ〜。いやでも意外と天職なのか?」

 「「「?」」」


 心の声が思わず漏れてしまい、カケルは三人の視線を一斉に集めた。


 「あ、いやミサの話だよミサのさ。ほら、ミサは俺の幼馴染なんだよ。昔見てるとなぁあいつちゃんとやれてんのか?」

 「カケルってミサミサの知り合いなの?」

 「あれ?言ってなかったっけ?」

 「うん」

 「え?あのミサミサと知り合いなんですか!?」

 「じゃ、じゃあ他のアイドル達とも顔見知りですか!?」


 青と緑りょくは俺が一生懸命に書いてついに九十九回目となった文字を踏み付けながら勢いよく近づいてきた。


 「い、いや残念だけど俺が知ってるのはミサだけだぜ?他のメンバーも今日会ってきたけどよ・・・」

 「「どこで!!!?」」

 「じ、事務所でだけど、ほら爆破あっただろ?それ詳しく知りたくてな」

 「あぁ、なんか昨日ありましたね」

 「何かマネージャーが死んだやつでしょ」

 「カケル依頼来たの?」

 「ん?いや自分から行ったんだよ?」


 葵が呆れながら俺の方を見てため息をつきながら、再び机に向かって作業を黙々とこなしていた。

 しかし俺はそれ以上に今の会話に違和感を覚えていた。具体的に何がかは分からないが、俺と三人には決定的なズ・レ・があるように感じた。


 「な、なぁ三人ともさ。ドーム公演についてどう思う?ほら、マネージャー亡くなってんのにさ、」

 「それが何か?」

 「ぼ、僕は別にやってもいいと思いますよ」

 「私も」


 今日あったばかりの二人はともかく、ダイとミサの次に付き合いの長い葵まで今回の爆破事件に対してそこまで重い事だと認識していなかった。

 葵は確かに割とドライだがここまでではなかった。 九条に関してもそうだ。あいつは禁煙席であってもタバコを吸う救いようのないベビースモーカーだが、犠牲者がまだ出るかもしれないこの状況下において、ドーム公演に反対するどころか応援をする様な女じゃなかった、多分・・・。


 「どうなってんだ?いくら何でもこれはおかしくねぇか?」


 俺は急いでテレビをつけニュースを見てみた。そしてニュースのトピックに上がっている一覧を見てみたが、驚くことに爆破事件の事はもう既に何も取り上げていなかったのだ。それどころか話題はドーム公演の事ばかりとなっていた。

 他のチャンネルでも同じであり、ネットニュースも見てみたが爆破事件の事はもう既に忘れ去られた過去の物となっていた。

 俺は九条にすぐに連絡を取ったが、九条から出た言葉はあり得ない言葉だった。


 『あぁ、アレかアレならもう終わったぞ?捜査は終了だ。さして大事になるような事でもないしな。悪いが切るぞ?ドーム公演の警備の方で忙しいからな』


 そう言って九条は電話を切った。

 どうなっているのか何も分からなかった。自分がおかしいのかという錯覚に駆られながらも黄昏荘を飛び出した。その時だった。


 「あら?カケルじゃない。丁度いいわ協力してくれない?」

 「み、ミサ?何でここに?」

 「こいつに聞いたの」


 ミサの後ろを見てみるとめんどくさそうに頭をかいているダイがいた。

 そしてミサは真剣な眼差しで俺を見ながら、


 「あんた達の力を貸して欲しいの」


 そう言って強引に家に入って行った。

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