第11話

「アンタじゃなくて莉子です。

敷島莉子しきしまりこ。」


「ああ。悪い。今さらだがはじめましてだな。日向那智ひゅうがなち。」


那智さん。可愛らしい顔に似合う名前だ。

ふと後部座席の後ろにかけてあるスーツに目が行った。黒の礼服。ネクタイは黒。


「お葬式ですか?」


「ああ。上司の上司って感じの人のな。ゲリラ雷雨の中で突然死したんだ。

お盆だったから葬儀が延期になって明日が内々の葬式。」


「雨の中で?」


「さっきも体育館で降ったろ?あんな雨だったそうだ。俺はゲリラ雷雨になんて初めて遭遇したし。その人には結構世話になってたのに死に目に会えなかったから。

なんだかアンタの面倒見てやれってオヤジに言われてる気がしたんだ。」


オヤジに?お父さんみたいな人だったんだ。日向さんと喋りながらこっそり目を擦る。最近忙しくて睡眠時間短いからな。


「駅までならまだ20分以上かかる。寝てていいぞ。」


「…すいません。」


警察官なら安心だ。私は促されるまま目を閉じる。渡米期間は3年とは言われたけど予定が延びて5年いた人も居るらしいし、途中で帰省できてもお互いの実家に顔を出すくらいがやっとだと思う。

だから、愛のために動けるのは多分今日が最後。警察官と知り合えたのは運命かもしれない。


「日向さん。森谷愛のこと、くれぐれもよろしくお願いします。」


うとうとしながら、それだけはしっかり頼んだ。


「心配すんな後は任せろ。アンタはアンタで幸せになれ。ここで知り合ったのもなんかの縁だ。いや因縁か。なんにせよ長くはかからねえ。探し出すから。約束する。」


警察官にしては乱暴だけど、でもとても優しい声で日向さんは約束してくれた。

大丈夫。この人なら約束を守ってくれる。


「ありがとう。」


愛。次に帰国した時は貴女に会える予感がする。その時はお互いの近況報告、楽しみにしてる。

私は日向さんの声に安心して眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る