第29話「フェスの最後にとんでもないことが起きた件」
「何これ…どうやって戦えっていうのよ!」
茜は魔法少女コスチュームに身を包まれたまま、途方に暮れていた。全身ピンクにフリル、スカートは短く、手には無意味にキラキラ光るステッキを握らされている。
「どうしたんだ、茜! それは魔法少女装備だろ? きっと超強力な攻撃ができるはずだ!」
アレックスは自分のピンクのアイドルコスチュームでジャンプしながら楽しそうにしている。彼は何故かこの状況を全く恥ずかしがっていない様子だ。
「魔法少女っていったって、どうやって使うのよ!? ていうか、この格好で強力な魔法を使うとか絶対無理だから!」
茜がそう叫んでいる間にも、神様はピンクの玉を次々と投げつけ、他の参加者たちも次々と奇抜な衣装に変えられていた。ゴブリンはゴシックロリータ風に、ドラゴンは猫耳メイドに、スライムは…スライムはただの帽子姿に変わっている。
「なあ、これってフェスというより、ただのコスプレパーティーじゃないか?」
茜は混乱しながらも、周囲の光景を見渡して思わず苦笑した。フェスのはずが、戦いとは全く関係のない世界観になりつつある。もはや、誰も真面目に戦おうとしていないようだった。
「さて、みんな! 最後のバトルが始まるぞー!」
突然、神様が高らかに宣言し、空中に浮かび上がった。参加者たちがそれぞれの奇抜なコスチューム姿で神様を見上げる。彼の手には、巨大なピンクの玉が握られていた。
「これで勝った者が、フェスの真の王者だ!」
神様は楽しそうに笑いながら、その玉を空高く放り投げた。そして、その玉が地面に落ちた瞬間――
「うわああああ!」
巨大な爆風が巻き起こり、参加者全員がピンクの煙に包まれた。視界は真っ白、いや、ピンク一色。何が起こっているのか全くわからない。
「な、何が起きてるの!?」
茜は必死に煙をかき分けながら進もうとするが、体がフワフワと浮いている感覚に気づいた。まるで重力がなくなったかのように、全員が宙に浮かんでいる。
「ちょっと、これ何!?」
アレックスの声が遠くから聞こえてくるが、茜は自分の体がどんどん回転し、バレリーナのようにくるくると回り始めたのを感じた。
「ま、回るの止まんない! これ、絶対何かの罠だ!」
煙がようやく晴れ、茜が目を開けると、そこには予想外の光景が広がっていた。参加者全員が、それぞれの奇抜な姿で、どこか不自然に並んで立っている。
「これって…まさか…」
神様はニヤリと笑い、手を叩いた。
「そう、その通りだ。みんな、フェスの最終戦はダンスバトルだ!」
「はあ!?」
茜とアレックスは同時に叫んだ。周囲の参加者たちも同様に驚愕している。
「どういうこと!? 戦いじゃなくて、ダンスって…」
「フェスは戦うだけじゃない。楽しむ心が重要だ。だからこそ、ダンスで本当の王者を決めるんだ!」
神様は大真面目に言っているが、茜には全く理解できない。この状況でどうしてダンスが必要なのか、一瞬も考える間もなく、フィールド全体が突然音楽に包まれた。
「まさか、ダンスって…」
アレックスが呆れたように言うと、神様がさらに笑顔を広げた。
「その通り。勝者は、この曲に合わせて一番華麗に踊れる者だ!」
茜は深呼吸し、覚悟を決めた。この状況にツッコんでも無駄だ。踊るしかない…!
「よし、やるしかないか」
茜はステッキを振り上げ、音楽に合わせて不器用ながらもステップを踏み始めた。意外にも、ステッキがリズムに反応し、光り輝きながら踊りを助けてくれている。
「いけるかも…!」
彼女が集中して踊っている間、アレックスはピンクのアイドル衣装で大胆なパフォーマンスを始めていた。まるでトップアイドルのようにステージ上で飛び跳ね、観客に向かってウインクまでしている。
「何なのよ、この状況!」
茜は頭を抱えたくなったが、逆に楽しさがこみ上げてきた。戦いなんて忘れて、ただ笑いながら踊ることに夢中になった。
「おっと、これは面白い展開になってきたな!」
神様が満足げにフィールドを見渡しながら、最後の勝者を決める瞬間を待っている。全員が全力で踊り続け、会場は一体感に包まれている。
「さあ、誰が勝つかな?」
茜は踊り続けるうちに、ふと思い出した。「そうだ、最初にもらった玉…」彼女はポケットからピンクの玉を取り出し、思い切ってそれを空中に投げた。
その瞬間、玉が眩しい光を放ち、全員の動きが止まった。
「な、何が起きた?」
神様さえ驚愕の表情を浮かべる。玉の光が消えた瞬間、茜の目の前には――
「え、ええ!? これって…優勝?」
茜の頭上に、フェスの王者の王冠が浮かんでいた。玉の力で、彼女は知らぬ間にこのダンスバトルを勝ち抜いてしまったらしい。
「いや、そんな…! 勝つつもりじゃ…!」
「まあ、そういうことだ」
神様は笑いながら、茜に近づいた。
「おめでとう、王者」
+++++
次回予告:「フェスが終わって、王者の賞品がとんでもない件」
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